ともえどん

関西に住む理学療法士。気まぐれで小説やエッセイ、童話を投稿しています。

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エッセイ|常識論

未曾有の病原体にて俗世は変わった。 無常とは日本古来の概念だが、現代においても真理である。皆の盲信する常識がいかに脆く、瓦解するに至るまで簡単であるかが露呈した。一度揺らいだ常識はすぐには戻らず、新たな偏見を生み、それが常識となる。ついさっき、無惨にも崩れ去るようすを目撃しているのにも関わらず、性懲りもなく常識を盲信する。 常識とは極めて曖昧でありながら、大衆の強力な偏見によって守られている。その偏見は大衆各々の経験により構築され、その経験は当時の偏見が大きく関わっている

    • 死はタイミングです。

       万物に等しく訪れる、死。恐れ戦くものから、恋でもしたかのように熱く焦がれる想いを持つものとさまざまです。  ぼくはおそらく後者ですが、強く望んだところで簡単に訪れてくれるものではありませぬ。  タイトルにもある通り、死はタイミングです。  死ぬ覚悟も持たず、現世を謳歌する輝かしい人生を歩むものに突如訪れたかと思えば、陳腐な己の不甲斐なさを俗世からの戯れと錯覚し、たかが戯れ如きに心の臓を掌握されるがままの愚か者には当分訪れなかったりするものです。  世のルールを資本主

      • 親ガチャに ピンと来たなら 恥じるべき

        親ガチャは存在する。 脳死で否定されるのはおかしい。 貧しい生まれの人が成功したからといって、背負ったハンディキャップの事実は変わらない。金持ちが没落したからといって、環境に恵まれていた事実は変わらない。 ただし、事実だからといって賛同を得られるとは限らない。 なぜなら、カッコ悪いからである。 カッコよさは事実に勝る。聞こえのよい言葉に人は惹かれる。貧乏人が鬱々と真実を語ったところで、カッコ悪くてだれも聞く耳は持たないのだ。 「カッコ悪くたっていいんだよ」なんて戯言

        • 短編小説:健常者とかいう異常者どもへ。

          親愛なる健常者諸君。ボクは異常者だ。 正常とされるキミたちの感覚に於いて、ボクの言動は理解が及ばないことが多いだろう。 他人の気持ちは理解できず、空気は読まない。遅刻はするし、提出物の期限は守れない。 総括すると、常識がない。 そして、それがよくないことだと言い聞かせても、改善することができない。もしくは、しようともしない。 控えめに言わずとも、異常だと認識してもらって構わない。 ただ、ここで少しだけ考えてみてほしい。 本当に異常なのは、ボクだけなのだろうか。

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        エッセイ|常識論

          小説とは極めて曖昧なもの

          僭越ながら、という予防線を当然のように張れるほど、ぼくは図々しくないので、ある記事を読んだことで湧いた執筆欲に抗うことはせず、それを引用し、ここに書きたいことを書くことにした。 タノミノ氏の投稿した小説に対し「意味がわからない」とコメントを残した三咲薫氏への回答として、タノミノ氏が投稿した記事である。 まず、内容云々の前に投げかけられたコメントへの対応として、自作解題を試みた末に新たに記事を執筆し、それをアンサーとして投稿したタノミノ氏には最大限の賛辞を贈りたい。 さて

          小説とは極めて曖昧なもの

          コロナで新生児が死んだ。

          今朝、眠気まなこで眺めていたテレビより衝撃的なニュースが目に飛び込んできた。 コロナ感染の妊婦 搬送先見つからず自宅で早産 新生児死亡 08月19日 06時42分 新型コロナウイルスの首都圏での医療体制が危機的な状況となる中、自宅療養中の妊婦が出血があったために救急車を呼んだものの受け入れ先が見つからず、そのまま自宅で出産し、赤ちゃんが亡くなったことが関係者への取材で分かりました。 産婦人科医らのグループは緊急の会議を開き、感染した妊婦の急な出産に備え、事前に受け入れ先を

          コロナで新生児が死んだ。

          書かずに生きていられるのは、幸せだ。

          最近、書くものがない。云うなれば、執筆欲がない。 ぼくを含めた執筆する人々の原動力は、感情にある。現実より齎されたものごとにより、湧いて出たその感情を言葉の羅列へと昇華する。ものごとはあまりに千差万別で、それにより湧いた感情もまた然りであるため、その感情がどんなものであるかをここで言語化することはしない。なぜなら、あなたの綴った文章のそれを示したほうが的確だからだ。 ちなみに、感情のベクトルが違うのみで、やっていることは他のSNSとなんら変わりはない。感情を画像で誇示する

          書かずに生きていられるのは、幸せだ。

          私小説|八月十二日 日記

           くたびれたサラリーマンが吊革にぶらさがる前で、スマートフォンの表示を見たぼくの胸はざわついた。応募していた文芸の新人賞が、突如中止になったのである。  ぼくが文芸の新人賞へ応募するようになったのは、今年の春ごろからだった。何者にも成れない己を悟らぬフリをして、高校生時分、幾度となく提出した反省文の文体を妙に褒められたというあまりにも淡く脆い成功体験に縋り、ぼくは筆をとった。  いくつかの作品を書き上げ、いくつかの賞に送ったところで、走る筆は速度を落とし、やがてトボトボと

          私小説|八月十二日 日記

          エッセイ|夢と目標

          夢が基本的に叶うことはない。 夢とは、諦観している目標である。 それはナマケモノの自惚れより生まれた、忌むべきものである。 達成するまでの道程がわからない、またはそれを調べようとか、努力しようという気はあっても行動に移すことはシチメンドウだという身の丈に合わぬ目標を、漠然とした概念で云ったものが夢である。そんな甘っちょろいものが叶うはずもないのは、自明の理なのである。 もし夢が叶うとするならば、天文学的な確率を以って起こる、俗に云う奇跡である。 目標とは、諦観すること

          エッセイ|夢と目標

          ショートショート|ちちまるだし

           深夜。鈴虫の音が闇を彩るなか、人工的な白光を放つコンビニへと私は向かった。突然、ビールが飲みたくなったのだ。  最寄りということもあり、既に幾度となく足を運んでいるので、ビールのならぶ棚を見つけるのには雑作もなかった。二本の缶ビールをもち、レジカウンターへ置いた。バーコードを読みこまれ、袋に入れられてゆくビールを目でなんとなく追っていると、その視界の端で店員のむき出しの乳が揺れていたので、混乱する思考はそのままに、極めて冷静を装いその場でかたまった。  直視することので

          ショートショート|ちちまるだし

          今日の朝のはなし

           もう、蝉が死んでいた。降り注ぐ蝉時雨のなかで、そいつは息絶えていた。鉄板のようなアスファルトの上にころがるそいつは、羽化のまっ只中だった。ぱっくりと割れた背中からのぞく生命の息吹が、そのまま骸と化していた。  いつのまにかしゃがみこんでいたぼくは、そのまま顔を上げてみた。毎朝のように通る道が、ほんのすこしだけ違って見えた。そういえば、子どものころの景色ってこんなふうだったかも。もっと、地面はぼくの近くにあった。標識はうんと高くて、道ゆくオトナはみんな大きかった。なんとなく

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          ショートショート|あんまり暑いものだから

           あんまり暑いものだから、日陰を選んで歩いていると、ぐいっと突然足をひかれ、どぼんという音とともに男は陰に沈みました。そこはひたすらに仄暗くひんやりとしていて、体表の汗が身体を冷やしてゆくのがわかりました。  あまりに心地がよいものだから、そのままゆっくり沈んでゆくと、闇の中より聴こえる沈黙が息苦しくなってきました。見上げた先のそのまた先、あんなにもわずらわしかった太陽の光がこんなにも遠のいてしまったことをさみしく思い、男はなんとか手を伸ばしてみたけれど、身体はやっぱりゆっ

          ショートショート|あんまり暑いものだから

          ショートショート|ドライブ

           ゆるやかなカーブを抜けると、男の瞳孔が青に染まった。水平線は曖昧だった。潮風に乗って、エンジン音がこだました。 「いやっほう、海だ海だ」  後部座席からにゅっと顔をのぞかせた友人は、はねた前髪の下で目をこすりながらあくびをした。ぽろぽろと、目やにがよれたシャツに落ちた。 「お前、途中で運転変わる約束すっぽかしやがったな。夜中、ずうっといびきかきやがって」  朝日に顔をしかめながら、男はアクセルを強く踏みこんだ。ぐらついた友人はどてっと倒れた。 「悪かった、悪かった

          ショートショート|ドライブ

          詩|つむぐ言葉のつたなきさだめ

           ぶっきらぼうな一本の  線をいくつもくんで合わせて  えがく活字の羅列はいつも  おおきな価値をもち得ない  ぶっきらぼうないっぱいの  線でえがいた活字を並べて  己がこころをなぐさめている  日々に意味はあるのだろうか  ぶっきらぼうにかき殴り  うめた活字にうかべた憧憬  はいて捨ててもなお余る  ここは果ての果てだから  流れるそれはただ流れ  だれの目にもとまらぬままに  せせらぎのみが淡くただよう  つむぐ言葉のつたなきさだめ

          詩|つむぐ言葉のつたなきさだめ

          掌編小説|乳牛の行く末

           七月十六日 金曜日  原付に跨ったぼくが交差点にて信号待ちをしている最中、右前方よりトラックが左折してきたので、なんの気なしに眺めていると、荷台に無数の牛と一人の女が載っていた。あでやかな黒い毛並みと肉付きのよい肢体に豊満な乳房を揺らし、届かぬ天の群青色を憂いていた。  モウと鳴いたその声は、灰色の道のむこうに佇む山々へと染み入り、ややあって、うっすらと木霊してきた。それは襖より滲む媚態じみた嬌声のようで、左手のグラウンドより跳ね回る溌溂無垢な幼い声と交じると、ぬらりと

          掌編小説|乳牛の行く末

          掌編小説|贋作家

           魂のありかって、どこだろう?  筆を止めた男は、左の絵画を模して描くそれを眺めた。名のある贋作家である男の描いたそれは、頗る精密だった。毛筆や絵具、水に至るまで再現した。如何なる鑑定にも耐えうる、完全なる贋作を創り出した。  何もかもを模した贋作と、ホンモノの相違とは如何なるものか。あまりにも見事な腕を持つ男は、それがわからなかった。見てくれに一切の差異はない。それでも、ホンモノを求める人間がわからない。  ホンモノとは、魂が宿っているのかもしれない。その作品を産み落

          掌編小説|贋作家