トミオ

かれこれ二十年以上断続的に小説を書いてますが、noteではこれまで書き溜めたものを中心…

トミオ

かれこれ二十年以上断続的に小説を書いてますが、noteではこれまで書き溜めたものを中心に少しずつアップしていこうかと思います。仕事:書籍編集。趣味:写真撮影。都内在住。

マガジン

  • 現代語訳で楽しむ『御伽百物語』(江戸時代の怪談集)

    江戸時代の怪談集『御伽百物語(おとぎひゃくものがたり)』より、特に読みごたえがあると思ったものを現代語に訳して連載します。全8話予定。 『御伽百物語』は今のところ現代語訳で出版している書籍はなさそうなので、noteの場を借りてみなさんと楽しみを共有できたら幸いです。

最近の記事

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【超短編映画】相性占い坂

友人と趣味で作った8分程度の超短編映画です。 出演 美夏子:西 クジラ子 雅人:みき ようた 脚本・撮影・編集:トミオ

    • 【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その12

       青い制帽をかぶった白ハトは木々を巧みにかわしながら森のなかを飛んでいきます。背の高い鬱蒼とした木々はどこまでも続き、森の小径は依然薄暗いのですが、木々の間からは(風景描写によって登場人物の心理を描く小説テクニックのように)青空が垣間見えます。  ようやく少し視界が開けたところに出ると、眼前には小さな池と赤いペンキ塗りの小屋があり、ハトは小屋の郵便受けに手紙を入れているところでした。  池と小屋を見た刹那どきりとしたのは、この景色をどこかで見たことがあったからです。そして記憶

      • 【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その11

         ナッスィングと受付の簡易ベッドで抱き合いながら、夢の外では使い古しの抱き枕を抱いているのじゃないかという気がしないでもなかったところ、 「ごめんください」  ナッスィングは影のような黒髪をすばやく整えナース帽をピンで留め、無駄な動きもなく椅子に座ると受付室の小窓とカーテンを開けました。 「こんにちは。どうされましたか?」  ぼくは彼女の後姿を見つめながら、仕事をてきぱきとこなす女性は素敵だと思いました。 「院長先生にご相談があるのですが」  聞き覚えのある声にひかれて小窓の

        • 【雑記】咳をしても一人

          でもくしゃみをしたら二人になった らいいのにね。

        【超短編映画】相性占い坂

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        マガジン

        • 現代語訳で楽しむ『御伽百物語』(江戸時代の怪談集)
          9本

        記事

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その10

           ぼくの影がぼくから離れていくような気分で目を開けると、ナッスィングがぼくの肩を優しくゆすっていました。 「朝よ」  しかし受付室に日の光は届かなかったので朝の感じがせず、どちらかというとまだ夢のなかにいるような気がしました。 「朝食ができたから食べましょう」 「そう。ありがとう」 「もうじき先生がいらっしゃるわ」  夢を思い出すような心地で昨夜のことが思い出され、 「ここで働くの許してもらえるかな」 「きっと大丈夫。まずはこれを着て」  それは真っ白の男性用ナース服でした。

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その10

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その9

           森のなかの暗闇をやみくもに走り続けていたところ、突然建物らしきものが現れました。なんだかそれは不思議な現れ方で、木漏れ日に照らされたとたん、姿を現したというような唐突な現れ方でした。  それは灰色のコンクリートでできた、ひどく殺風景な四角い造りで、五階建ての窓々には黒い鉄格子がはまり、その窓はどれも暗く人の気配はありません。  閉鎖された隔離病棟みたいだと少しぞっとしましたが、回り込んで正面まで来ると、両開きのガラス扉は大きく開かれ、その奥に見える受診待ち用のソファベンチを

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その9

          【酔っぱらいの即興短篇童話】クレーンクレーン

          いま大規模開発中の東京都中野駅。 クレーンたちは毎日酷使されています。 そのうえクレーンたちは、 労災保険に入れてもらえないし、 臨時雇用だし、 上司の命令は絶対だし、 なによりも 給料を支払われない! でもね、どこか楽しそう。 それもそのはず。 仕事が終わって夜になったら みんなでダンスするんだね。 「クレーンクレーン」て歌いながらのシンクロダンス。 縦に横に、回転くわえて、 クレーン・ウェーブなんかもやっちゃって 期間限定無料公演中! ただし公演時間はJRの終電から

          【酔っぱらいの即興短篇童話】クレーンクレーン

          【自由詩】そんなタヌキに

          何も成せずとも不満もなく 伴侶がいずとも寂しくもなく 残された時間を考えて虚しくなったりもせず もう終わらせたいとも 一生飲みつぶれていたいとも 年収を上げたいとも ハイスペックであったならとも 願わない そんな動物園のタヌキにわたしはなりたい

          【自由詩】そんなタヌキに

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その8

           草花の匂いが鼻を、葉の囁く声が耳を、そして心地よい微風が顔をくすぐります。まぶしさのため薄目を開けて見てみれば、緑豊かな草原に花々が咲き乱れ、近くには透き通った小川が流れています。  このように明るく美しい世界なので、きっとぼくは覚醒直前のレム睡眠状態にあり、瞼から朝のさわやかな光を感じているに違いないと思い、元気が出てきました。    目が慣れてきたので辺りを一望すると、草原のなかにヒツジかなにかの群れが三々五々と草をついばんでいるようです。草を踏みつけてできた道に誘われ

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その8

          【自由詩】もう疲れたよ

          もう疲れたよ と言うぼくに もう疲れたね と答えてくれた おサルさん

          【自由詩】もう疲れたよ

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その7

           あまりに突然のことで、しばらくはなにが起きたのかわからず呆然と暗い空を眺めていました。  なぜか自分がひどくひどいことをしてしまったような気がしますが、どのような点がひどくひどかったのかは判然とせず、そのことがいっそうぼくを落ち込ませるのでした。そして現実世界でも相手を不機嫌にさせてしまい、その原因が自分ではわからないということがままあったことを思い、そのことがいっそうぼくを落ち込ませるのでした。  原因はすべてぼくにあるのだというゆるぎない確信が、ぼくの心をゆるがせます。

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その7

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その6

           ノックの音もなく、目が覚めました。  辺りはまだ暗く静かでした。朝までだいぶ時間があるようなので、もうひと眠りしようと寝がえりを打ちました。  あと数時間後に出勤だと思うと憂鬱ですが、目覚まし時計に起こされるよりはましです。なぜなら目覚まし時計のアラームはもう執行猶予のない起床時間ですが、深夜の目覚めは、まだ数時間は自由の身であることを約束してくれるからです。  まどろんでいると、ところでぼくの仕事はなんだっけかと妙な疑問が湧きました。いくら思い出そうとしても思い出せず

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その6

          【自由詩】行きたい世界

          窓の向こうの 窓の向こう きっとあそこは 時を戻せる もしくは 進ませる ことができる気がする どっちでもいいけど どっちかというと 30年戻すより 60年進ませたい もう一度生きるのはしんどいもの このさき生きるのもしんどいもの 悲しむ人もいないもの (最近撮れた写真によせて)

          【自由詩】行きたい世界

          【雑記】成功体験

          転職活動中の今日このごろ、2次面接に行ってきた。 スーツの人 あなたの成功体験を教えてください。 スーツの私 成功してたらここに来てません。 と言ってやりたかった。 どうせ落ちたのだから 言ってやりたかった。

          【雑記】成功体験

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その5

           またひとりになってしまい、しかたなく部屋に戻ると、闇夜に目が慣れたせいか部屋が先ほどよりもずっと明るく現実味があるように見えました。が、それはあまりよいことではない気がします。することもなくベットに寝ころび、ただぼんやりとこれからどうしたものかと考えました。  考えごとをするときの癖で、右手でペンをくるくる回していたのですが、ふと、回しづらいペンだな、と思いました。顔を起こして見てみれば、腹の上には開かれたピンクの小箱。回しているのはペンではなく葉巻でした。  葉巻が粗

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その5

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その4

           またひとりになってしまい、しかたなく部屋に戻ると、闇夜に目が慣れたせいか部屋が先ほどよりもずっと明るく現実味があるように見えました。が、それはあまりよいことではない気がします。  することもなくベットに寝ころび、裏の裏は表といった具合に夢のなかで眠れば目が覚めるだろうかと目を閉じていたところ、だれかがドアをノックしました。  どうせ新聞の勧誘か牽強付会なNHKに違いないと思い、無視を決め込もうとしましたが、それはなんだかとても上品なノックでした。そのあとに続き、 「ルームサ

          【長編小説】パンプキン・パイの不思議な冒険 その4