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村井

白いカーテンから光が刺して、瞼の上を甘ったるい温度が遊んでいる。
村井は、軽い頭痛とカラカラになった喉の渇きを不快に思いながら、起き上がる事を躊躇している。いびつに折れ曲がった布団を眺めながら、失敗したオムレツの様だと思った。

「それに包まれていた俺の存在な」

と溜息程の小声で言いながら、味気のないオムレツを足で乱雑に折り曲げ、ベットに腰かけた。今日も無事に昨日を超える事が出来た。そんな事を思いながら、立ち上がるが、足の裏が上手く床を掴めず、クラクラする。

髪が情緒を嗜む春風の様にゆったりと時間を刻む。
なんとなく進み、何となく終わる。

村井は勤労の喜びを半月ほど前から楽しめていない。
’’NEET’’では聞こえが悪いので、解放された自由人と言い聞かせている。馬鹿らしいと思いながらも、解放された喜びは未だに残っている。

冷蔵庫を開け、ラベルレスの水のペットボトルを一瞥し、透明を喉に流し込む。
喉を鳴らしながら、言葉に出そうと思っていた音を、胸の奥に追いやってしまう。どうせ大した事ではない。

憎たらしいほど天気がいい。空の青さを覗くと、海が宙に浮いてしまったと思えるほど。クジラが潮を吹けば、青空のまま雨だ。

図書館に行こう。

村井はいつもの様にクローゼットを開け、いつもの様に靴下を履いた。
Hanesのタイダイの靴下が何となく好きで履いている。色もグレーにも満たないみっともない灰色だ。その情けなさが気に入っている。

フード付きのグレーのパーカーに、細身で黒のスウェットパンツ。下半身を細身にすれば、何となくそれっぽくなると思っている。
靴はナイキのエアマックス。派手な色じゃないけど、地味な色が三層に分かれていて、小学校の頃に課外学習で見た地層を思わせるカラーリング。これも結構気に入っている。

扉を開けると、まぶしさに磨きがかかり、気合の入った光が瞳の奥を刺激する。喉奥の粘膜が痒くなりくしゃみが出そうになるが、グッとこらえた。

そのまま歩き出す。1歩、2歩、3歩と階段を下りながら。今日の生き方を図書館に求めに行く。


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