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[ショート]世にふるも さらに降らぬ 梅雨宿り

 昨日から、ずっと小雨……。
 雨は好きなので退屈はしてなかったが、少し話したくなったところで、おりよく友が寄ってくれた。パン屋でパートをしていて、余り物があったと届けてくれたのだ。

「めずらしいわね。ラジオかけてるなんて」

「ニュース聞こうと思ってつけたら、映画の話が聞こえてきたんで、ついそのまま」

「映画? ずっと観に行ってないんでしょ?」

「うん、映画館はぜんぜん。テレビでたまに見るくらい。観るとおもしろいし、録画は結構してあるんだけどね」

「どんな話してたの?」

「たとえばこんな感じ、対談だったんだ……

『あのアパート、実は○○で撮ったんです』
『え、そうなんですか! 悪魔が出てきたところでしょ? 事故物件じゃないですか!』
『あの監督、どうもそういうのにつきまとわれているというか……』
『そうですね。悪いことが結構、たくさんあった人ですね』
『家族も殺されましたしね』
『そうでしたね。犯人はまさに悪魔を崇拝する人物だったとか……』

 どう、なんか引き込まれない?」

「あなた、コワイの苦手でしょ? 大丈夫になったの?」

「いや、観ないよ。絶対に。でも、雨降るとね、ふだんと違う感覚になるじゃん。そのせいじゃないかな。雨の『ま』は『魔』で、雨音のしとしとは、『使徒使徒』なんてね~」

「『使徒』は神様のお使いじゃなかった?」

「それは神の『使徒』でしょ。『使徒』には 善いも悪いもないんじゃないかな。『魔』だって、すごワザみたいな意味で、善いも悪いも無いそうだし……」

「時間潰してるね」

「だらだら感が いいね なつかしい感じ」

「子供の頃は いっぱいあったのにね」

「時計の音が聞こえたりして」

「そう! 時計の音がやけに大きく聞こえてくるの」

「時間は、全然、過ぎないのに」

「時計って、実は時間と関係がなかったりするのかもね」

「かもね。仕事だからコチコチやってるけど、本人は、ねそべって煙草吸ってるみたいな」

「時計の中の人ね」

「そこだけ時間が流れていない。『時間は売り物だから、オレたちには回ってこないのさ』とか、うそぶくんだ」

「じゃあ、歳もとらないの?
 他人にだけ歳をとらせておいて」

「時計の中には居る限りはね。入ってみたい?」

「何歳の時に入ればいいかな?
 ずっとそのままでいたい年齢って、いくつだろ……」

「考えたこともないけど、精神年齢はすでに止まってるかも」

「時計の中に入らなくても?」

「そんな気がしない?」

「する! 自分がもうすぐ高齢者だって、全然、実感がないもの。
 そうそう、話題変わるけど、ここくる時に渋滞しててね」

「自転車でしょ?」

「そうよ、でも車道がすごく混んでてね。そのストレスがあたりに充満してたわけ。みんな苛々してて……」

「ああ、そういう時あるね。ちょっとしたことでクラクション鳴らしたり、割り込みをわざと、させようとしないとか」

「でね、やだなあ、と思ってたわけよ。こっちも。
 そしたら、目の前の壁から、ちっちゃい手がすっと出てきて……」

「それ こわい話?」

「全然~ かわいらしい子供の手で、あら、かわいいと思ったら、その下から、もう少し短い手が出てきて、みるとね、お兄ちゃんと妹!」

「雨、早くあがらないかなあ、て感じだったんだね」

「そう!」

「キミも、やってみれば? そしたら、やむかもよ」

「やっみようか。かわいくない手だけど」

 そんなたわいもないやりとりを小一時間ばかりしているうちに、空が明るくなってきた。

「おまじないが、効いたかな」

「そうかしら? やむまで話していただけよ」

「来てくれて、気が晴れた」

「そうね。わたしが来なければ、こわい映画の話を聞き続けて、今晩、眠れなかったんじゃない?」

「それは危ういとこだった」

「でも、雨が上がったのは、わたしたちのチカラかもね」

「?」

「降(くだ)らない話をしたせいよ!」


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