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変わる学校、変わらない学校~学校マネジメントの成功と失敗の分かれ道~

多くの企業や組織がそうであるように、学校も変革を求められています。日本の教育は約150年変わっていないと言われており、教育に従事する自分としても変革の必要性を大いに感じています。

また、私は過去にオーストラリア、カナダ、イギリスという3カ国の現地校で働いた経験があり、加えてここ5,6年は毎年海外の高校や大学を訪れ、現地の教育を学ぶ機会があり、日本の教育と海外の教育を比較してきました。

その中で自分で得た結論としては、「日本は教育後進国である」ということでした。

もちろん日本の教育がすべて悪いわけではなく、世界に誇るべきところもたくさんあります。(基礎学力などはその最たる例だと思います)

しかしながら、世界がこれだけ急速に変化をしている中で、様々な業界が変革を求められており、教育業界も例外ではなく変わらなければいけないのが現状です。文科省のえらい方々も当然そのことをご理解されており、だからこそものすごいスピードで大学入試改革やGIGAスクール構想などを進めています。(大学入試改革は完全に頓挫しましたが・・・)

では、現場の教師はどうかというと、正直温度差が激しいと言わざるを得ません。私は都内の私立校で働いていまさすが、自分の学校を含め多くの私立校が激しい競争にさらされています。ゆえに、生き残りをかけて学校改革を進めていかなくてはなりません。ただし、全ての学校が改革をしているかというとそうではなく、だれもが名を知っている有名校などは旧態依然の教育をしているところが多くあります。また、改革を目指している学校もその多くが遅々として改革が進まずに、結局何も変わらないという状況に陥っています。

では、変わる学校と変わらない学校の差はどこにあるのか。その差が書かれたのが本書になります。

ちなみに著者の妹尾さんの本は他にも多く読ませていただいており、noteにも何度か感想を書かせていただいています。よろしければこちらも合わせてご覧ください。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。「変わる学校」とはどんな学校なのか。

そのことを考えるうえで、まず最初にピーター・センゲが『学習する学校』という本で述べた以下を引用したいと思います。

学習のための機関は「学習する組織」としてデザインされ、運営することができる・・・言い換えれば、学校は、命令や指令、強引な順位づけではなく、学習の方向付けを導入することで、持続可能性のある、生き生きとした、創造的な場に変えられる。

これまで多くの日本の学校では知識やしつけを詰め込んだりすることに注力してきましたが、学校を「創造的な場」にするという理念は子どもにとっても学校にとっても、ひいては社会全体にとっても非常に重要なミッションであり、変わる学校というのは「創造的な場を生み出す学校」と言い換えられるかもしれません。

では、創造的な場としての学校であるためには何が必要かというと、まずはそこで教育に従事する教師たちの学ぶ姿勢が問われます。学習する学校になっていくためには、個々の教職員の資質向上が絶対不可欠です。

先ほど、多くの学校が変われない(改革に失敗している)と書きましたが、その原因はここにあると言っても過言ではありません。周知のとおり教師は他業種に比べても多忙です。日々の業務に忙殺されることで自己研鑽を積む余裕がない、または自己成長の意欲が欠如している教員が多いと組織は変わりません。自己成長の意欲が欠如する要因としては、多忙はもちろんそうなのですが、どんなに頑張ってもその頑張りが評価され昇給があるわけでもなく、一方でリストラにあう可能性も低いという特殊な職業柄もあるかと思います。”Growth Mindset”という言葉はビジネス界でも良く使われますが、教育業界においてもその重要性はもっと認識されるべきものだと思います。

Growth Mindsetを持った教師たちが自己研鑽を積み自分たちの資質を向上し、さらに個人だけではなく集団として学び合う同僚性を作っていくことができれば組織は間違いなく変わっていきます。

実際に「変わった学校」の例として本書ではいくつかの学校が取り上げられています。

そのうちの一つである岡山県にある岡輝(こうき)中学校は当時荒れに荒れた中学校でした。彼らが1999年ごろから「荒れの克服」を目的に取り組んだのは、自分の学校だけで生徒指導を丸抱えするのではなく、学校間連携等を行い、地域全体で考える生徒指導へと方針を転換したことです。同じ中学校区の保育園、幼稚園、小学校とタッグを組み、家庭向けに基本的な子育てやしつけの方法を示した冊子を作るなどの具体的な取り組みを通じた連携を進めました。加えて、2007年から「授業で学校を変える」という理念を打ち上げ、生徒が学び合う「協働学習」を中心に据えた授業改革にも従事していきます。教師一丸となって教育改革を進めた結果授業を欠席する生徒や不登校も激減したそうです。(詳細は上記文科省のHPにてご確認ください)

学校改革のための組織マネジメント

また、本書では学校改革が成功するか失敗するかの分岐点として「組織マネジメント」が挙げられています。私は現在勤めている学校で管理職を務めており、組織のマネジメントは自分の大きな役割の一つなので、強い組織を作るために何が必要なのかというのをしっかりと理解しておきたいと思っています。

筆者は組織マネジメントは①到達目標、②プロセス、③チーム・ネットワークという3つの要素に分解できるとおっしゃっています。

①到達目標

実は学校教育において到達目標を作ることは結構難しいものです。学校の目標は「知徳体のバランスの取れた子供を育成します」とか「文武両道」のように曖昧模糊とした目標になりやすく、空疎なものになりがちです。

学校においても到達目標をある程度明確にし、それをチームで共有し、一丸となって取り組んでみる。そして、それらのプロセスや結果が良かったかどうかは、検証して軌道修正を図るということが学校組織のマネジメントには求められるのだと思います。

そして到達目標が出来上がったら、その共有が非常に重要になります。学校内において、過去や現状、近い将来の見通し等に関する「情報の共有」と、問題意識や危機感、あるいはこう変えていきたいというビジョンなどの「思いの共有」、この2つの共有をしっかりと行っていくことがまず必要です。

本書ではこの到達目標の共有に成功した組織の例としてスターバックスが挙げられています。これは有名な話ですが、スターバックスが開業当初掲げたミッションステートメントには”To inspire and nurture the human spirit”(人々の心を豊かで活力のあるものに合うるために)と書かれており、おいしいコーヒーを提供するとか1000店舗作るとか、そんなことは一切かかれておりません。この到達目標が末端のアルバイト一人ひとりにまで浸透したからこそ、スターバックスは世界でも例を見ないグローバルなコーヒーショップとして人々に愛されるようになったのだと思います。

これは私も常々思っているのですが、「良い戦略」には「思わず人に語りたくなるようなストーリーがある」ものです。なのでそのストーリーを作り、語れることがリーダーには必要だと思っています。

②プロセスの設計

「プロセスの設計」とは、到達目標に至る具体的な道筋を設計することを意味します。「プロセスの設計」では、戦略という主要な道筋に沿って、重点的な取り組みを立案し、軌道修正しながら実行していくことが重要です。

そして、取り組みを重点化するためには、まず課題の重点化が必要になります。(実際多くの学校組織では課題の重点化がきちんとできないまま、取り組みだけ重点化しているように感じます)

例えば、「生徒の家庭学習の時間が少ない」という課題があるとした場合、学校は「なぜ家庭学習が少ないのか」という問題の本質に迫ることなく、「宿題を増やす」「宿題を忘れた生徒に罰を課す」などの取り組みを重点化してしまいがちです。ただ、本当に見なければいけないのは「なぜ家庭学習が少ないのか」という原因であり、それはスマホやゲームのせいかもしれませんし、家庭環境の問題かもしれませんし、もしかしたら授業が分かりにくいから課題に取り組みにくいのかもしれません。

このように課題を重点化したり、施策を立案する際には以下の4つのステップを踏んでいきます。

(1)目指す子ども像の設定
(2)(1)を実現するためにどのような学校にしたいのか、どのような教育をしたいのかという目指す教育のビジョンを設定
(3)現状ないし将来の課題を特定
(4)上記の重点的な課題に対応する重点的な取り組み、施策の設定

そのように「プロセスを設計」して、そしてできるだけ頻繁にPDCAのサイクルを回していくことが学校という組織にも必要なことです。

③チーム・ネットワークづくり

意味ある「到達目標」を設定し、課題に対する施策を設定出来たとしても、実際にその理想の教育を実践していくのは教職員たちです。彼らがチームとして機能しなければ、学校は変わらないし、改革は成功しません。

しかしながら現実に目を向けると学校ほど組織としてまとまるのが難しい集団もあまりないような気がします。なぜなら教職員の一人ひとりは本当に多忙で、且つ教員の仕事は担任業務、教科指導、部活顧問など『個人商店』のような色合いが非常に強いからです。しかしながら、組織を変えるうえで最も重要なのは、人々が互いに信頼し、一緒に効果的に働く環境をどう生み出すかを知っているかどうかということだと思います。

これはどの組織にも当てはまることだと思いますが、学校組織においても当てはまるのはOECDの調査からも明らかになっています。

まずこちらのデータをご覧ください。

日本の教員は世界で一番忙しいというデータです。(出所:文部科学省「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書のポイント」)

次にこちらをご覧ください。

これだけ頑張って働いている日本の先生たちですが、その自己効力感(self-efficacy)は他国に比べても恐ろしく低いです。この自己効力感の低さは同僚との関係が大きく起因しているというのです。すべての調査国・地域において同僚との協力関係が高いほど教員の自己効力感が高くなるという調査結果が出ているのです。

だとすれば、組織を変えるため、そして良い組織を作るために必要なこととして、学校組織をチーム化するということは必然となります。もちろん簡単なことではありませんが、教員研修を学内で頻繁に行ってビジョンや施策の共有することで皆が同じベクトルで進んでいけるようにすることや、ピアレビュー(同僚による意見交換)を積極的に取り入れたりすることで組織全体の風通しを良くして、チームのネットワークを強固にすることは可能です。

まとめ

上記のようにしっかりと戦略的に組織改革を行っていけば学校は変われます。私が自信を持ってそう言えるのは、これまで12年以上複数校で学校改革の中心的な役割を担ってきており、そして成果を収めてきたからです。

もちろん私の力など微々たるもので、周りの教職員のたゆまぬ努力が改革を支えているのは言うまでもありません。これからは自分の学校だけではなく、全国の志の高い先生方といっしょに日本の教育を変えていきたいと思っています。

最後に、本書の最後にあるアインシュタインの言葉を引用しておしまいにしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow. The important thing is not to stop questioning.
過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望を持つ。大切なことは、何も疑問を持たない状態に陥らないことである。
Education is what remains after one has forgotten everything he learned in school. 
教育とは、学校で習った全てのことを忘れた後に残っているものである。

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