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わかりにくさを手放さず、自分なりの応答をし続ける。若林朋子「企業・行政・NPOとの応答」

「応答するアートプロジェクト|アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」では、独自の視点から時代を見つめ、活動を展開している5名の実践者を招き、2011年からいまへと続くこの時代をどのように捉えているのか、これから必要となるものや心得るべきことについて、芹沢高志さんのナビゲートで伺っていきます。

第4回のゲストは、プロジェクト・コーディネーター/プランナーの若林朋子さん。表現活動や芸術創造が社会で成立するための環境整備や支援のあり方を研究し、さまざまなコーディネート、コンサルティング業務を通してアートプロジェクトに伴走してきた若林さんから見た、2011年以降の企業、行政、NPO(ここでは非営利組織・団体全体を指す)とアートプロジェクトの関わり方の変化とは、どのようなものなのでしょうか。

前半ではまず、企業・行政・NPOそれぞれのこの10年を中心とした動きを、ざっとなぞります。若林さんのまとめによると、まず「企業は、社会の出来事やニーズ、社会規範に敏感に対応してきた」。行政は「コロナによって公的文化政策が岐路・大転換?」。NPOについては「民(NPO)民(企業)連携から、公との関係が密になる傾向」とのこと。

3つの分類それぞれが、世相や社会的インパクトのある出来事、企業による社会貢献への目線の高まりや、オリンピック、SDGsの取り組み、コロナ禍など、さまざまな事象と絡み合って変化してきたことがわかります。また、3つを並べて考えることで、新しい影響や繋がりも見えてきます。

行政からの支援と評価

10年前にはメセナ活動として盛んであった民間企業による文化活動/文化支援は、現在はSDGs等に焦点をあてた社会貢献活動へとシフトし、NPOの活動は行政の助成等、公との関係が密になってきました。2017年に発表された骨太の方針では「稼ぐ文化」という言葉が現れ、文化GDPという考え方も出てきています。行政の助成や支援を得るためには、当然、評価基準への目線も強くなりますが、公の支援が増え、評価の目線が強くなることによって、定量的な指標が優先されるようになり、わかりやすい数値化や、アートプロジェクト自体の評価を短い時間の中で決めつけてしまう危険性が強くなってきていることを、若林さんは危惧します。また、アートプロジェクトを実施する側も、評価を強く意識しすぎるあまり、自分たちの活動の輪郭を強く持つ前に、活動自体を評価基準に寄せていってしまい、活動自体に影響してしまうのではないかという懸念があるようです。

わかりやすいことが重要視される現在の状況では、わかりにくいことを「いけないこと」だと思ってしまうかもしれません。しかし、「誰が何といおうと、たとえ意味がないといわれようとも、それを突き詰めたいからやる!」というのがアートの良さだったはずです。「いまある価値基準や規範の中に入って動かなきゃいけない、と思うのではなく、規範に枠を追加するように、自分たちに引き寄せて、自由に発想してみて、世の中に新しいことを提案していくようなあり方があってもいいのではないか」と、若林さんは語ります。

アートのわかりにくさは手放さなくていいのではないか。すぐに成果が出ること、わかりにくくて伝わらないことにそんなに躊躇しなくていいのではないか。「たとえば、SDGs共通の価値言語として"目標となる17ゴール″があるが、18番目をアートから提案するようなことをしてもいいのではないか」と。

10年スパンで眺めてみると、あれが実はここにつながっていた!というようなことが多くあり、大きく変わっていく状況も見えてきます。特に、公的支援については、この10年で歴史的に見ても大きな変化が起きているのではないかとのこと。現在の状況分析と問題点を指摘するとともに、それでもアートに関わるそれぞれの人が、状況に対して自分なりの応答をし続けていくことを期待する、お二人の対談です。

映像は前編(33分)・後編(32分)合わせて約65分です!小一時間。
ぜひご覧ください。

<関連リンク>
「応答するアートプロジェクト|アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」
視点1 港千尋:前に走ってうしろに蹴る
視点2 佐藤李青:3.11からの眺め
視点3 松田法子:生環境構築史という視点
視点4 若林朋子:企業・行政・NPOとの応答
視点5 相馬千秋:フェスティバルの変容

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来るべきアートプロジェクトの姿を探し求める、旅としてのプロジェクト