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「自分のアートプロジェクトをつくる」ために必要なこととは。演習の内容やゲストを紹介します

2011年以降に生まれたアートプロジェクトと、それらをとりまく社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えていくシリーズ「新たな航路を切り開く」。
そのプロジェクトのひとつ、「自分のアートプロジェクトをつくる2023」の参加申し込み受付が、6月22日より始まっています。(申込締切:7月24日月曜日 13時まで)

この記事では、演習の目的や今年度のゲストについて、シリーズ全体を担当しているプログラムオフィサーの小山冴子が紹介します。

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アートプロジェクトをはじめるときに必要なものとは

「新たな航路を切り開く」は、2022年度から始まりました。この10年を俯瞰し、これからのアートプロジェクトの形を考える本シリーズですが、同時に、今後ディレクターやプロデューサーとしてアートプロジェクトを実施していく方、何か動き出したいと思っている方を見いだそうと、ゼミ形式の演習「自分のアートプロジェクトをつくる」を実施しています。

シリーズ全体のナビゲーターは、P3 art and environment 統括ディレクターの芹沢高志さんです。

これまで日本各地で、芸術祭やフェスティバル、アートセンターのディレクションなどを手掛けてこられた芹沢さんですが、同時に、各地域で活動するさまざまなアートプロジェクトやグループの活動にも、目を向けてこられました。この「自分のアートプロジェクトをつくる」の講座内容を検討する際、芹沢さんのこれまでの経験や知見をうかがいながら、「アートプロジェクトをはじめるときに必要なものは何なのか」、「演習でどのようなことを行えば、動き出そうと模索する人の助けになるのか」などさまざまに議論し、内容を検討していました。

そのなかで芹沢さんが強くおっしゃったのは、やはり何かをはじめるときには、「自分のなかにある問いを見つけなければならない」ということでした。それは「モチベーション」だとか「自分のなかのもやもや」と言い換えても良いのかもしれません。自分のなかに、何か気になること、ここは譲れないという大事なこと、意志があって、そういったものが自分のまわりの環境や社会状況と結びつくことによって、動きだすきっかけになり、活動になり、プロジェクトとなっていくのではないか。自分のなかに強い問いがあるからこそ、人を巻き込むプロジェクトに育てていくことができるのではないか。

だからこそ、「自分のアートプロジェクトをつくる」でやっていくべきことは「自分のなかの問い」を発見し、向き合うための時間をつくることなのではないか。

ナビゲーターメッセージには、こう書かれています。

アートとはまずもって、個人個人の内面にこそ、決定的に働きかけてくるものだ。自分自身の問題と向き合うための術であるとも言えるだろう。

今、私たちは、歴史的にみても大変な時代を生きている。どこに問題があるのかわからない、いや、そもそも問題があるのかないのか、それさえもわからない時がある。こういう時はひとまず立ち止まり、何が問題なのか、自分の心に問うてみる必要がある。他人が言うからではなく、いかに些細な違和感であれ、自分個人にとっての問題を発見していくことが大切なのではないだろうか。自分にとって本当に大切な問いとはなんなのか? それを形として表現していくための力を、この演習を通して培っていければと思う。

ともに舟を漕ぎ出そうとする方々の参加を心待ちにしている。

芹沢高志 ナビゲーターメッセージより

「自分のアートプロジェクトをつくる」は、ゼミ形式の演習です。ここでは何らかの方法や技術を教科書的に教えるのではなく、状況に対して自分が今どのような問題意識をもち、どのようにアクションしていけるのかを、ゲストやナビゲーターとのディスカッション、参加者同士のワークを通して考え、深めていきます。


多様なゲストの活動を知り、形にするための方法を知る

演習には、今年度も3名のゲストをお招きします。

自分自身の問いをみつけ、何らかのアクションを起こそうとするとき、どのような方法があるのでしょうか。それを考えることもまた、この演習の重要なポイントです。

3名のゲストには、ゲスト自身の視点やこれまでの経験、なぜその活動に結びついたのか、自身のもつ「問い」はどのようなものだったのかを、プレゼンテーションを通して共有していただきます。
演習参加者は、さまざまな実践を行なっている各ゲストの話を聴きながら、自分の問いと響き合う部分や異なる部分を発見し、その後のディスカッションを重ねることで、考えを深めていきます。

今回ご参加いただくゲストを紹介します。

▶︎嘉原妙さん(アートマネージャー/アートディレクター)

演習のプログラムマネージャーでもある嘉原さんに、今年度はゲストとしてもご参加いただきます。嘉原さんは現在、現代美術家の宮島達男さんによるプロジェクト「時の海 - 東北」のプロジェクトディレクターも務められています。

3.11の東日本大震災をきっかけに宮島達男さんが構想し、はじまった「時の海 - 東北」プロジェクト。犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、これからの未来を共につくっていくことを願い、東北に生きる人々、東北に想いを寄せる人々と協働しつくり上げるこのアートプロジェクトでは、現在さまざまな地域でワークショップを行なうとともに、作品を設置するための場所探しも行っています。その全体をプロジェクトディレクターとして動かしているのが嘉原さんです。

大学院修了後、NPO法人BEPPU PROJECTに入り、大分県内各地のさまざまな場所で、アーティストと地域の人々を繋ぎ、作品制作コーディネートから芸術祭の運営まで幅広く手掛けてきた嘉原さん。その後、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサーになり、東北の被災地支援事業や、東京都内各所で文化創造拠点を形成する東京アートポイント計画にも携わりました。現在は先述した宮島達男さんのプロジェクトはもちろん、東京アートポイント計画事業として行なっている「めとてラボ」(一般社団法人ooo)のプロジェクトマネージャーとしても活動しています。

さまざまな地域で多様な立場の人と関わり、現在はアートプロジェクトのディレクターとしても活動する嘉原さんが見ている風景は、どのようなものなのでしょうか。また、自身のなかのどのような問いが、彼女を動かしているのでしょうか。

本演習のタイトルは「自分のアートプロジェクトをつくる」ですが、誰かと視点やビジョンを共有しながらプロジェクトをつくり、動いていくという在り方もひとつの方法です。嘉原さんの現在の活動を通して、これまで考えてこられたこと、見つめてきた事などを、共有していただけるのではないかと思います。


▶︎尾中俊介さん(グラフィックデザイナー/詩人)

二人目のゲストは、福岡を拠点に活動するグラフィックデザイナーの尾中俊介さんです。尾中さんは、拠点は福岡におきつつも、全国各地の美術館や、さまざまなアーティストと協働し、デザインを手掛けていらっしゃいます。

その造本設計は本当に興味深いものがあります。たとえば、「ケーススタディ・ファイル」の松本篤さんの回「File 07『わたしは思い出す』について」で紹介されている記録集『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』(AHA!編|武蔵野市立吉祥寺美術館)も、尾中さんによるデザインです。

最近では、東京都現代美術館で開催されたTokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展で、志賀理江子さんのモノグラフ『SHIGA Lieko』のデザインも手がけられました。蛇腹状に繋がり、両面の“表紙がお互いを飲み込むような”デザインは、どこまでも続く展覧会の壁面と合わさって続いていくかのようで、モノグラフもまた展覧会や作品の一部であることを感じました。

作品や作家、展覧会など、その都度相手と向き合い対話を重ねながら、どのような形をつくり、見せ、伝えていくのか、何を残していくのかを真摯に考えていく尾中さんのものづくりは、とても興味深いものです。その根っこにはどのような思考や、問いがあるのでしょうか。


▶︎小田香さん(映画作家)

三人目のゲストは、映画作家の小田香さんです。小田さんは、メキシコのユカタン半島北部に点在する、セノーテと呼ばれる泉を撮影し制作した長編映画『セノーテ』(2019)で第1回大島渚賞を受賞しました。その後も精力的に制作活動を続けているほか、絵画や映像インスタレーションの制作なども手がけられています。現在は2024年春の完成を目指して新作『Underground』の撮影を進められているようです。

最初の長編作品『鉱 ARAGANE』(2015)ではボスニアの炭鉱で撮影を行い、地上からは見えない地下坑道の中での仕事にカメラを向け続けた小田さん。普段は人の立ち入ることのできない不可視の空間を対象にすることが多く、「イメージと音を通して人間の記憶(声)―私たちはどこから来て、どこに向かっているのか―を探究している」という小田さんに見えているビジョンは、どのようなものなのでしょうか。そしてカメラを通してそれを現実に見えるものにしていく、そのプロセスや思考とは。

映画を作るとき、そこにはさまざまな役割があります。これはひとつのプロジェクトを進めることと似ているのかもしれません。小田さんの語りから、作品制作の態度や、それを実現するためのチームづくりの話も伺えるのではないかと思っています。


どのゲストも、それぞれのやり方で実践を続けている方々です。演習でどのようなプレゼンテーションをしていただき、参加者とどのようなディスカッションになるのか、楽しみです。


自分のなかから生まれる問いをつかまえ、アートプロジェクトをつくる力を身につける

演習「自分のアートプロジェクトをつくる」では、ゲストとナビゲーター、プログラムマネージャーや関わる人々とともに、さまざまな視点や意見を交換しながら、参加するそれぞれの方が自分の問いに向きあい、深めていく時間を作っていきます。

みなさんのご応募、お待ちしています。


<関連情報>

新たな航路を切り開く
2011年以降に生まれたアートプロジェクトと、それらを取り巻く社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズ。2022年より開始。2023年度は「3つの航路」「応答するアートプロジェクト|ケーススタディ・ファイル」「年表をつくるー2011年以降のアートプロジェクトを振り返る」「自分のアートプロジェクトをつくる」の4つのプログラムを実施します。


執筆:小山冴子(アーツカウンシル東京プログラムオフィサー)