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「まるごとニュースレター」で、“森のヘンテコ素材”を紹介。木の価値観を変える!

2021年1月に配信を開始したメールマガジン「まるごとニュースレター」。

建築設計や内装デザインなどのクリエイターに向け、山から採れる旬の素材を、山の空気感と共に隔週刊で紹介しています。

発刊から2年半を過ぎたこの10月で、通巻100号を迎える「まるごとニュースレター」は、どんな想いで始められ、これまでどんなことを伝えてきたのでしょうか。

東京チェンソーズ販売事業部・吉田尚樹に話を聞き、深掘りしました!

”森のヘンテコ素材”を発信する

メールマガジン「まるごとニュースレター」は2021年1月、吉田を含む東京チェンソーズの販売担当3名及び広報担当1名の計4名からなるチームで配信を開始しました。

2021年1月19日配信の第1号。普通は伐採現場から出てこない”根っこ”を紹介

その記念すべき第1号で紹介したのが木の”根っこ”です。

林業会社である東京チェンソーズですから、本来ならもう少し立派な原木や丸太、板なんかを紹介しそうなものです…。なぜ、根っこ?

ちょっと変わった材を紹介する

「まるごとニュースレター」のヘッダーにはこんな言葉が載っています。

1本の木の根っこから枝・葉までを販売する“1本まるごと販売”。カタログには載っていない、ちょっと変わった素材や今しかない旬の素材の魅力をお届けいたしますーーー

「まるごとニュースレター」ヘッダーより

そうなんです。このニュースレターでは、木の根っこや枝など、”ちょっと変わった素材”を紹介していこうとしているのです。

東京チェンソーズが”ちょっと変わった素材”(=森のヘンテコ素材)を本格的に扱うことになったのは2018年のこと。

それ以前も枝をカフェの内装に使っていただくなど単発の案件はありましたが、社内の体制も整ったこの年、まずは木のあらゆる部材を集約した「1本まるごとカタログ」を作成。

これを都内で開催される各種イベントなどで配ったりして取り組みの周知を図りました。

1本の木を根っこや枝など部分ごとに紹介する(「1本まるごとカタログ」から)

その成果は徐々に出て、イベントで知った東京チェンソーズの”ヘンテコ素材”を求め、建築設計士や内装デザイナーなどクリエイターが檜原村を訪れるようになりました。

”森のヘンテコ素材”の可能性を広げる

当時、現場をやりながらそうした訪問客の対応をしていた吉田。そのやり取りの中で、徐々にあることに気が付きます。

「現場をやりながら、山にはヘンなものがたくさんあることに気付いていました。根っこもそうですが、丸太にならないようなものがいっぱいあるんです」

吉田は木材を搬出するための道(森林作業道)を作っていたので、伐採後、その場に残された根っこをよく見ていたと言います。

全長3m、高さ1.5mの特大サイズのヒノキの根っこ(第52号)

「根っこについては初めは邪魔だなと思っていました。ですが、改めて見ると形が面白いんですよ。弊社の木工担当は木目の流れが独特だと話していました…」。

そういう目で改めて山の中を見てみると、山の中はヘンなものだらけ。しかも、同じ形のものがないことに気が付きます。

「設計事務所や内装会社、デザイナーさんと仕事をしていると、自分らでは考えられないような使い方を提案されることがあるんです。彼らと組むことで、このヘンなものの可能性が広げることができると感じました」。

それをもっと強く発信しようと始めたのが「まるごとニュースレター」です。

ニュースレターは2020年夏に準備がスタート。翌21年1月19日、第1号「地中に広がるエネルギッシュなマーブル模様〜根株〜」が配信されます。
以降、これまでに、99個の”森のヘンテコ素材”を紹介してきました。

台風被害で倒れた樹齢160年、広いところで直径2.4mを超えるスギの切り株(第2号)

”森のヘンテコ素材”に注目するわけ

それにしても、そもそもなぜ東京チェンソーズは”ヘンテコ素材”に注目するのでしょう?

流通する森の木は丸太になる部分だけ。それは1本の木の半分

木材は通常、規格が定まった丸太の形で流通します。東京チェンソーズも現場で伐採した木を丸太に加工し(造材といいます)原木市場に出荷しています。

一般的に流通する丸太は長さが4mあるいは3mと規格が決まっており、また、建築用途の柱や板に効率よく加工できるよう、真っ直ぐなものが好まれます。曲がっているものは値がつきません。

そうした丸太が採れるのは、1本(樹高およそ25m)の木からおよそ3本前後。残りの根っこや枝、葉などが原木市場を通して流通することはありません。

この流通しない部分が、量的には1本の木のほぼ50%あるといいます。
逆に言うと、流通するのは1本の木の50%のみ。半分しか流通していないのです。

捨てられる部分を活かし、木の価値を高める

では、流通する丸太がどれくらいの価格で取引されているのかというと、原木市場での価格は1本3,000円〜4,000円くらい(スギ、直径25cm、全長4m) 。この金額では、山から伐採木を出してくる経費と見合いません。

半分捨てて、残りの半分が経費に見合わない価格で取引されるという現状。

「市場価格は上げることができないので、捨てている半分も使う必要があると思いました。そうすることで、1本の木の価値を高めていくんです」。

普通は捨てられてしまう枝だが、樹皮を剥いて磨くことで美しく

暮らしと山の結びつきを新しい形で取り戻す

さらに山と深く関わる檜原村の暮らし方もヒントになったといいます。

「かつて檜原では木は暮らしに密接していました。薪になるような木はもちろんですが、小枝にしろ、樹皮にしろ何でも拾ってきて暮らしに役立てていたといいます。

今でも、昔ほどではないにしろ、腐葉土を作るのに葉っぱを集めてきたりと、木のさまざまな部分を利用しています」

こうした暮らしと山のつながりを、現代のクリエイターの力を借りて、新しい形で取り戻すことになるのではと気づいたことも、"ヘンテコ素材"に注目する大きな理由です。

木の価値観を変える試み

ここまで2年半、ニュースレターを続けてきて感じたのが、”ヘンテコ素材”に関する社内・外の反応の変化です。

社内・外から”ヘンテコ”が集まってくる

「社内・外からヘンなものが集まってくるようになりました。製材所の方からは、製材して普通では使えないようなものが出てくると、チェンソーズなら使うんじゃないか、『お、持ってけ』みたいな感じでいろいろいただくことが増えてきました(笑)」。

村内の方から「事情で伐ったがすごい形なので持ってきた」とフジヅル(第84号)

「社内からも、現場でおかしな木があると『これ必要ですか?』と連絡が来るようになりました。ヘンな材を扱うことを、みんな面白がってきてると思います」。

現場から「こんなの要りますか?」と連絡があった”シシガミ様”ことハゼノキ(第61号)

ヘンテコ素材を活用することが、社内・外に広がっているということは、木に対する価値観が変わってきてるということではないでしょうか。

お客さんがお客さんを連れてくる

「そのうちに、お客様がお客様を連れていらっしゃるようになりました」と吉田が振り返る。

それまでは1社で檜原を訪れていたデザイナーたちが、そのクライアントとなる施設の担当者を連れてくるようになったのです。

「山や倉庫で実物を見て、そのサイズ感、形状などを見て、どの部材をどう加工するなど打ち合わせするんです。そのほうが早いからでしょうね。
それを見て、こちらは、それならこういう材もありますと提案したり….
面白いです」。

形状の面白さに加え、その背景を知ることでより魅力的に

デザイナーたちは、”ヘンテコ素材”のどこに魅力を感じているのでしょうか。

「やはり形状が独創的で面白いということから、創作意欲が掻き立てられている部分が大きいんだと思いますが、同時にその背景にも魅力に感じているようです」。

丸太としては流通できない二又のヒノキ(第94号)

背景とは、通常は捨てられてしまう1本の木の半分も活かそうという取り組みであること、それから、暮らしと山とのつながりを新しい形で取り戻そうとしているということ。

「ニュースレターで伝えているのは、直接的にはヘンな材のことだったとしても、その材の背景というか側面にある、なぜそれが今ここにあるのか、林業や山の暮らし、山で暮らす人の素顔をお見せすることもしたかったんです」。

これまで99回の配信で紹介した99個の”森のヘンテコ素材”(10/3配信号まで)。
その1/4が世に出たといいます。乾燥中の材もありますので、数はもう少し増えそうです。

これを多いとみるか、少ないとみるかはそれぞれの立場によると多いますが、それまでゼロだったことを思うとまずは良かったのでは…?

世の中の木に対する価値観が変わって、都内にヘンテコなものが溢れてくる。これこそ、林業をもっと自由に!につながる!?
(参考: 東京チェンソーズのspirit↓)

上の写真の二又ヒノキが商品陳列台として使用される

”根っこ”を世に出したいと思ったのがきっかけ

最後に吉田自身が一番好きな”ヘンテコ素材”は何か聞いてみました。

先ほどから吉田のコメントによく出てくるのでもしかしたらお気づきかもしれないですが、それは”根っこ”。

惹かれた理由は、大きさ、また、その「なんじゃこれ!」という形状のヘンテコ感もありますが、それだけではないといいます。

「最初は見た目の面白さに目がいったと思いますが、根っこは木が育つには絶対必要な、養分・水分を吸い上げる生命の源。そういった生命感あふれるところに惹かれました。
この素晴らしい根っこを世の中の人に知ってほしいと思ったのがすべての始まりですね」。

生きた証である複雑な木目が根っこの魅力

何トンもする巨体を支える根は、本体が風で揺れると時には繊維が切れて倒れることに耐え、しばらく後にそれが修復するーーーこうした動きを繰り返し、木肌に独特の”ぼこぼこ”を作り出しています。

そのぼこぼこ部分が樹皮を剥いた時、また、製材して板にした時にも丸い模様となって現れるといいます。

それが生きた証。

人間のしわのようなものかもしれません。泣いたり、笑ったりの人生経験を経て、より深いしわが刻まれていくーーー

ユーカリの丸太に腰掛けて、吉田尚樹。右奥には大好きな根っこ

”森のヘンテコ素材”、いかがだったでしょう? 何かピンとくるものがあったでしょうか?

「まるごとニュースレター」ではもっといろいろ紹介しています。弊社ホームページでもバックナンバーをご覧いただけますので、よろしかったら覗いてみてください!