コンサバアラサー女子は、気をつけないと搾取される。「CLASSY」孝。

 一か月ほど前、美容院に行ったら前に置かれた雑誌のひとつが CLASSY だった。この雑誌のターゲット層はどのへんなのかな、と思ってぱらぱらと誌面を見ると、コンサバティブなファッションを好む20代後半から30代くらいをメインターゲットにしている雑誌なんだな、と理解した。わたしはもうその年齢集団から上半身くらいは抜け出しているし、その時着ていた服もスウェット素材のメンズライクなトレーナーに迷彩柄のスカートだったのだから、何でこの雑誌を渡してくれたのかいまいち分からない。雑誌の在庫が足りなかったのかもしれない。

 ともあれ、自分の属さない集団のストーリーを読むのも面白いものだから、ふむふむと読み込んでいった。まず、ファッションのリコメンドから始まる。肩かけゴリ押しするなー、と思って読む。えっ、ほんとに女子って「短い髪って男子からこんなに好評なんだー♡」って一押しで髪切っちゃうの?さらに記事は、「〇〇男子にはこうやってアプローチ」とレクチャーする。そして最終的に、「出会いのアプリでいいねがもらえるプロフィール」「出会いの場で声をかけられやすい服装、避けられる服装」と、婚活に持っていく。あっ、なるほど、女子を「こんなファッションで行け」「こんな容貌にせよ」と外面から形づくっていって、「こうアプローチせよ」と男子仕様の振る舞いを教え込み、結婚でバイアウト、っていうのがこの雑誌の導線な訳ね。結構驚いた。最後に、「さあ、結婚へ!」が登場するとは思わなかったので。

 しかし気になったのは、この雑誌の中で一度も、「あなたはどうしたいの?」という問いかけがなかったところだ。「あなたは肩かけファッションが好き?したい?」とは問わず、「格好いいよ~、やらなきゃー!」。「ボブが好き?」かどうかは問わず、「男子も今はボブに注目してるんだよ~」。「〇〇男子」があなたに合うかどうかは問わず、「〇〇男子に好かれたいなら、こう振る舞わなきゃ!」。「結婚したい?どんな人と一生を過ごしたい?」とは問わず、「結婚したいなら、こんなことしてたらNGだよ~!こういうアピールしなきゃ~!」。

 個人的に一番やばいと思った企画が、「イヌ好き男子と付き合うイロハ」(すみません、正確なタイトルは覚えていないです)だ。そもそも、イヌ好き男子と「イヌ」というキーワードで付き合ってうまくいくのは、イヌ好き女子だけだ。大してイヌが得意でもないのにアプローチの手段として使うと、痛い目に遭うと思う。多分、そういう女子は、彼のイヌに嫌われる。そしてまた、登場する男子の要求のハードルが高い。「イヌと遊んでても、いざっていう時はちゃんと叱れる子がいいよね」。いや、イヌは上下関係で人を見るので、飼い主でも舐められる人はいる。他人様のイヌをきちんと叱って言うことを聞かせられるのは、相当イヌ経験値を積んだスキルの高いイヌ遣い女子だけではないか。「デートの格好はやっぱり、女らしいフレアスカートとかがいいな」。いざという時にイヌを叱ってひょっとしたら格闘する羽目になるかもしれないのに、スカート!?「例えお散歩デートでも、ヒールの靴は履いていて欲しいと思う」。さらにヒール!?「でも、足が痛ーい!とか言われちゃうのは、やめて欲しいけどね笑」。イヌと一緒にお散歩デートで、しつけ担当も求められて、でもスカートとヒール姿で、泣き言は言うなと!?

 コンサバアラサー女子が本当に心配になった。こんなのを真に受けて自分を律した挙句結婚すると、「彼女には仕事も頑張って輝いて欲しい。でも、家事とか育児はちゃんとやってもらいたいな。女を忘れずにいつもきれいでいて欲しいよね。指先まで気を配ってる既婚女子は素敵だと思う」とかいう価値観の結婚生活に着地する羽目になると思う。泣き言いうと、「どうしたの?君らしくない」だの「僕がそういうの嫌いだって、知ってるよね」とか言われちゃうよ?

 コンサバティブ conservative とはそもそも、「1.(政治的に)保守的な、保守主義の 2.(考えなどが)保守的な、伝統的な、旧弊な」といった意味を持つ。そのようなファッションを好むお嬢さんたちは、伝統的な規範に、従来の「女らしさ」といった表象に、親和性を持つのかもしれない。いい子に、年長者の言うことに従うのが、慣れたやりようなのかもしれない。

 しかしやはり気をつけて敏感になっていないといけないことは、「わたしはどうしたいのか?」を常に考えて自分に問うことだと思う。「あなたはこういう格好をした方がいい」「あなたはこういうもの言いをした方がいい」「あなたはこういう振る舞いをした方がいい」「なぜなら、男子が、周囲が、世間が、社会が、そう求めているから」、そういったリコメンドの形を取ったオーダーに、(んんー、そうなのかな?)と従順に従っていると、思いも寄らなかったところに連れて行かれる可能性がある。そういうオーダーへの従順さを求めている人たちに、搾取される。

 そしてわたしが不思議なのは、「CLASSY 編集部は、本当にこういった価値観を持っているの?」ということだ。わたしにはどうにも、「肩かけファッションは世界基準で格好いい!」だの「声のかけられやすい服を着て、出会いのスポットで男性に声をかけられたい!」だの、本当に編集部が熱くなっているとは思えないのだ。さらに言えば、くだんのイヌ好き男子たちが発言したことなっているいくつかの台詞も、彼らのリアルな声かどうかは疑わしいと思う。だとすれば、これは一体誰の価値観なのか。それこそ、「男子(具体的でない一般的抽象的概念としての「男子」)が、周囲が、世間が、社会が、どうも女子にそう求めているらしいから(そして女子もそのリフレクトで、そのためのハウツーを求めているから)そういう風に作ろっか!」ではないのか。そう考えると、CLASSY 編集部もまた、世間の伝統的な規範に従順な、コンサバアラサー女子なのではないか、という気がした。

「まさかこんな記事、真に受ける人いないわよー!笑」(「くちびるから散弾銃」の2012年版でミヤちゃんが言ったように)だといいんだけど。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

アマゾンギフト券を使わないので、どうぞサポートはおやめいただくか、或いは1,000円以上で応援くださいませ。我が儘恐縮です。