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#285 体操と講学の並立

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十九回は、小町田くんの部屋を、宮賀くんが訪ねるところから始まります。イギリスのオックスフォードに留学した任那くんから手紙が届いたようで、それを小町田くんが読み上げます。そこには、イギリスの大学を羨み、尊み、それに比べて東京の大学の状況は…と嘆きます。そして、現在のオックスフォードの成り立ちの参考にと、いくつかの小説を、小町田くん達に送ります。かつて、イギリスの大学も、家柄や貧富によって、学校内での扱われ方も違っていたようで…

今より二、三十年以前は、学生の品行も随分醜猥[シュウワイ]なりしとの風評なり。Tom Brown[トムブラウン]などを熟読いたし候ても、しばしばいかがなる情事の形跡、その物語中に隠見いたし候事也[ナリ]。村荘[ソンソウ]の中[ウチ]に妾[ショウ]を囲ひ置候などは、その比[コロ]通常の事のやうに聞及[キキオヨ]び候。されども学生の間に於ても、決してこの般の振舞[フルマイ]を以て面正[オモタダ]しき事とは見做[ミナ]さざる故、互にこの般の不品行あれば、着々その罪を弾じて、相罵[アイノノシ]り候[ソウラ]ひし由也。我国の通人的学生諸子の如く、公然花柳界に荒忙[コウボウ]して、人に驕[オゴ]るが如きことは、その頃よりしてこれなかりしやに承り候。」
宮「ハハハ。山村や継原に読ましてやりたい。きびしい頂門の一針[イッシン]だ。」
「体操運動は今日[コンニチ]よりも盛[サカン]なりしやに承り候。boat-race[ボウトレイス](端船競漕[ハシケキョウソウ])horse-riding[ホオスライヂング](馬騎[ウマノリ])swimming[スヰンミング](遊泳[オヨギ])fencing[フェンシング](撃剣[ゲキケン])等その尤[ユウ]なる者なりしやに聞及び候。我国などにても、従前の習慣の反動にて、大[オオイ]に体操を奨励いたされ候ふ傾向有之[カタムキコレアリ]、まことに結構には候へども、余り過激に過ざるやう注意有之度[コレアリタク]、と思ひだして疝気[センキ]を病候[ヤミソロ]ふ次第也。けだし体操と研学とは、まるで相反する性質の者に候へば、深沈[シンチン]なる講学に伴ふに、過激なる運動を以てするは、あるひは当を失したるに非[アラザ]るか。プレトー翁[オウ]の如きも、かつて体操と講学の併立し難[ガタ]き旨[ムネ]を論ぜし事あり。今より二、三十年以前の事とか、ある博学がこの大学に来遊されし折、諸学生の平常の挙動を見て、被申候[モウサレソロ]には、この大学に真の哲学家を出せし事の尠[スクナ]きは、あまり多分に物を食[クラ]ひ、多分に筋肉を労する故にあらずや云々[ウンヌン]、と被申候ふとか。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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