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#284 任那くんの手紙の続き…

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十九回は、小町田くんの部屋を、宮賀くんが訪ねるところから始まります。イギリスのオックスフォードに留学した任那くんから手紙が届いたようで、それを小町田くんが読み上げます。そこには、イギリスの大学を羨み、尊み、それに比べて東京の大学の状況は…と嘆きます。そして、現在のオックスフォードの成り立ちの参考にと、いくつかの小説を、小町田くん達に送ります。その小説とは…

"Tom Brown at Oxford."(小説の名)
"Pendennis."(同前)
"Adventures of Mr.Verdant Green."(同前)
小子が当大学の来歴を知りしは、特[ヒト]りこれらの小説にのみ由りたるにあらず。

『Tom Brown at Oxford』は、トマス・ヒューズ(1822-1896)の『トム・ブラウンの学校生活』(1857)の続編『オックスフォードのトム・ブラウン』(1861)のことです。ウィリアム・サッカレーの『ペンデニス』(1850)は、サッカレーの自伝的小説です。サッカレーは『虚栄の市』(1848)が有名ですね!『Adventures of Mr.Verdant Green』は、エドワード・ブラッドリー(1827-1889)がカスバート・ベーダのペンネームで、1853年・54年・57年の3回に分けて出版された『ヴェルダントグリーン氏の冒険』のことです。

別に学友某[ボウ]の物語によりて、いよいよその前代の有様を知りたり。過去現在将来の三[ミツ]の者は、事物を論ずるに必要なりと思はるれば、ここにその概略を申述べて、以て御参考の一助となすべし。むかしは当大学の学生には、富家良家[フカリョウカ]の子弟多く、これを要するに当大学は紳士の子弟の一大club[カイシャ]の如き有様なりき。けだしその頃には権門富豪[ケンモンフゴウ]が、子弟を当校に入学さするには、専ら立身の便宜[ビンギ]となるべき知交[チコウ]を得せしむるにありしが如く承り候[ソロ]。故に貧賤[ヒンセン]なる子弟にして、たまたまこの校の学生となれば、往々貴公子の翫具[ガング]となり、嘲侮[チョウブ]されしことも多かりしとか。甚しきに至りては、権家[ケンカ]の子弟と貧家[ヒンカ]の子弟とは、同じ校中にありといへども、その食物[ショクモツ]の品[シナ]を異[コト]にし、その服制をも異にせしとか。自由を尊重する英国の大学にして、僅[ワズカ]に二十余年の昔に於ては、かかる悪慣習ありしことを思へば、実に驚歎に堪へざる次第に候。

ということで、任那くんの手紙の続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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