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#276 田の次の身の上でビックリすること

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

お常さんの家で繰り広げられている親子の再会騒動と、同日同時刻、田の次が住んでいる家に小年姐さんが新聞を持ってやってくるところから、第十八回の下は始まります。そこに突然やってきたのは、田の次を育ててくれた老婆の弟・源作さんです。どうやら源作さん、田の次に伝えたいことが会ってやって来たようなのですが…

田「オヤオヤさうでしたか。それぢゃア妾[ワタシ]の身の上の事は。」
源「すっかり今しがた聞きましたがネ。わたしの方ぢゃア今日が今まで。……かういつちゃア縁起でもないが、おまへさんは亡くなつた事と思つてネ。……尤[モット]もさう思ふも無理はない訳で、先月の中頃であつたか、思ひよらず二年振[ブリ]で、桶川[オケガワ]の友達にあつたところ、その友達がわたしにいふには、あのお芳ばうといつた娘は、可哀[カワイ]さうに六、七年あと、家[ウチ]をかけだして東京へいつたが、それッきり行方[ユキガタ]がしれないといふ事だ。大方おめへを便[タヨリ]にしていつたのであらうに、おめへがゐないから、力を落して、気の小さい子供心に、思ひつめて死んだのではないか、とかう友達がいひやすからネ。なるほど事によるとさうかもしれねえ。アア貧すりゃ鈍すると下世話[ゲセワ]にもいふが、心にもない心得違ひで、女房[カカア]ばかりかお芳ばうまで、アア可哀さうに罪な事をと、悔[クヤ]んでみたところが後の祭り。せめてこれからは身を慎[ツツシ]んで、と思ふは気ばかりで身は治[シマ]らず。殊[コト]にはゐる所が獣商売[ケダモノショウバイ]。悪い水にゃア染[シミ]やすく、けふまでグズグズしてゐやしたところ、実は訳があつて娼妓[オイラン]の伴[トモ]で……唐突[ダシヌケ]にかういつても、おめへさんにゃア解[ゲ]せなからう。わたしが今ゐるのは中郭[ナカ]の角海老、楼[ウチ]に顔鳥といふ娼妓があるがネ、その娼妓の身の上の事について、けふ大切な用事があるので、わたしが伴について出て来やしたが、先刻[サッキ]中食[チュウジキ]をしようといふので、広小路の八十[ヤソ]へ登[アガ]つて、おいらんやしんぞと三人でおまんまを喰[ヤツ]てゐると、隣室[トナリ]に二人連[フタリヅレ]のお客があつてネ、これも中食をしてゐる様子さ。聞[キク]ともなしに聞いてゐると、その話はおまへさんの身の上の話ヨ。娼妓もしんぞも気がつかないが、わたしにはそれぞと気がついたから、聞耳[キキミミ]をたてて全然[スッカリ]聞取[キキトリ]、これぢゃアかうしてをられないと、おいらんや新造[シンゾウ]にゃア嘘を吐[ツ]いて、八十から出るとそのまま、別れてやつて来やしたがネ、あんまり不思議な事だからして、よく気を静めてお聴きなさい。喫驚[ビックリ]しちゃアいけねえぜ。」

なんだか、納得できない部分が、ちらほらありますが…w

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!


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