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#291 やはり、きっかけは上野戦争

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

『当世書生気質」』はいよいよ最終回に突入!任那くんからの手紙を読んでいる小町田くんのところに、倉瀬くんが登場!田の次のことで話があるから、応接所へ来いと呼びつけます。行ってみると、そこにいるのは守山くん。久々に会った三人は、服装に関する議論で、桐山くんにコテンパンにやられた須河くんのことで盛り上がります。そんな無駄話をさんざんしたあと、ようやく小町田くんが、「僕に用事でもある訳ですか」と聞きます。そして、守山くんは、衝撃的な内容を告白します。何と、自分の妹は、田の次だと言うのです!

友「悉[クワ]しくいつちゃア大変だが、ただ概略はかういふ訳さ。」ト第十九回の大略をはなし、つひにお秀が懺悔[ザンゲ]ばなし、幷[ナラビ]に源作が物語し、本篇骨髄の事実話[ジジツバナシ]に及ぶ。
以下また読者の煩[ハン]を思ひて、地の文の如くにものしたれど、その実は守山の言葉をもて写すべきはずなり。読者よろしく諒察[リョウサツ]あるべし。
第十九回の末に於て、源作、田の次らが一間[ヒトマ]をたちいで、お秀、顔鳥らと面[オモテ]をあはせて、互[タガイ]に弁論をなすに及びて、お秀つひにあらがふこと能[アタ]はず、すっかり白状せしその身の経歴ならびに田の次の身の上の仔細[シサイ]は即ち下[シモ]に略述[ノブ]るが如し。
慶応四年(即ち明治元年)五月十五日まだ早天程[アサマダキホド]なりけり。俄[ニワカ]に上野の彰義隊と官軍の間に戦争起れり。上野最寄[モヨリ]の町人[マチビト]らは俄急[ガキュウ]の軍[イクサ]に狼狽して、西へ東へと逃まどへり。お秀はこれより先[サ]きこの事あるをば、全次郎より聞得て知りつ。その騒動こそ好機[サイワイ]なれ、我ゐる妾宅[ショウタク]を抜[ヌケ]いだして、上州高崎の知音[シルベ]の方[カタ]まで、男と諸共[モロトモ]に走らばやとて、兼て用意[ココロガマエ]したりしかば、イザ戦争となりたる折にも、もとより本心には驚かざれども、故意[ワザ]と狼狽[アワテ]たる面地[オモモチ]して、全次が馳来[ハセキタ]るを見るとそのまま、かねて取纏[トリマト]めておきたりける、荷物を各手[テンデン]に携へつつ、お秀はお新(この時三歳)を背[ソビラ]におひて、今降[フリ]しきる雨をも厭[イト]はず、彼方此方[カナタコナタ]に逃まどふ男女[ナンニョ]の中にたちまじりて、全次の後[アト]に随ひつつ、あへぎあへぎて根岸なる三島前[ミシママエ]まで逃いだせる、時しも戦争[イクサ]は最中[モナカ]にして、松源[マツゲン]または雁鍋[ガンナベ]の、二階よりして官軍が釣[ツル]べ放てる大砲の、響[ヒビキ]はさながら雷[ライ]の如く、華厳[カゴン]を極めし中堂に、何時[イツ]しかその火が燃移[モエウツ]りて、焔々[エンエン]として燃上る、猛火の勢[イキオイ]すさまじく、台兵しきりに乱れだちて、臆病未練の輩[トモガラ]は、この時已に勢挫[クジ]けて、五人六人忍び忍びに、路[ミチ]なき樹木[ハヤシ]の間を潜りて、はや落行くも多かりけり。

松源は、下谷区元黒門町(現・台東区上野二丁目)にあった会席茶屋で、雁鍋は、下谷区上野広小路(現・台東区上野四丁目)にあった鳥料理屋のことです。

ということで、このつづきは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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