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#394 互いを可笑しいという母娘

今日も二葉亭四迷の『浮雲』を読んでいきたいと思います。

第七回は、菊見の準備から始まります。バタバタ身支度をしているところにお客がやってきたりして、なかなか準備が進まず、十一時頃にようやく家の中が落ち着く始末。その頃、文三さんは、クビになったことをきっかけに起きた、さきのいざこざを引きずっており、おのずと本田さんと比較して卑屈になっている状態です。菊見について行くのイヤだし、家に留まっているのもイヤだし、とにかく腹立たしさが邪魔をして、何をやっても落ち着かない状態。「もし菊見が中止になったら…」と他人の不幸を望む言葉を言いかけて、ハッとビックリして狼狽する始末…。一時頃には本田さんがやってきます。そして、強情に菊見に行くことを拒否する文三さんをからかい、お勢さんに「あなたと人力車を相乗りできるなら行っても良いと言う人がいますよ」と言ってからかいます。そんな本田さんのことを「バカ…」と苦々しそうに呟きますが、ふとお勢さんと向島へ桜を見に行ったことを思い出し、キョロキョロとあたりを見回している自分がいることに気付いて、今度は自分に対して「バカ…」と呟きます。午後になると、団子坂は、髪型も身なりも年齢も身分も様々の人々が雑然としています。そこに、上品な身なりをしたお勢さんとお政さんと本田さんがやってきます。お勢さんはカゴを出た小鳥の如く活き活きとしており、お政さんはお勢さんと同年配の女性たちの身なりが気になる様子。三人で坂下まで見物を終え、気がつくと、本田さんの姿が見当たりません。どうやら、本田さんは知り合いを見つけたようで、その洋装の紳士に対して、深々とお辞儀をしています。紳士の横には二人の女性がおり、お勢さんは、その一人の束髪の令嬢に目を留め、穴の開くほど見つめています。本田さんが戻ってくると、お政さんは、先ほどの三人のことを尋ねます。すると、男性は課長で、二人の女性のうち、一人は課長の奥様で、もう一人は奥様の妹だと答えます。すると、お勢さんが、熱心に見つめていた束髪の令嬢、つまり奥様の妹について、「学問は出来るのか?」と本田さんに尋ねます。本田さんは、出来るという話を聞いていないと答えると、冷笑の気を含ませて、植木屋へ入ろうとする令嬢の姿を見送ります。

坂下[サカシタ]に待たせておいた車に乗ッて三人の者はこれより上野の方へと参ッた
車に乗ッてからお政がお勢に向い
「お勢お前も今のお娘[コ]さんのように本化粧[ホンゲショウ]にして来りゃア宜[ヨ]かッたのにネー
「厭[イヤ]サ彼様[アン]な本化粧は
「オヤ何故[ナゼ]え
「だッて厭味[イヤミ]ッたらしいもの
「ナニお前十代の内なら秋毫[チット]も厭味なこたアありゃしないわネ、アノ方[ホウ]がいくら宜[イイ]か知れない、引立[ヒッタチ]が好くッて
「フフン其様[ソン]なに宜[ヨ]きゃア慈母[オッカ]さんお倣[シ]なさいな、人が厭だというものを好々[イイイイ]ッて、可笑[オカ]しな慈母さんだよ
「好[イイ]と思ッたからただ好[イイ]じゃないかと云ッたばかしだアネ、それを其様[ソン]な事いうッて、真個[ホント]にこの娘[コ]は可笑[オカ]しな娘[コ]だよ
お勢は最早[モハヤ]弁難攻撃は不必要と認めたと見えて何[ナン]とも言わずに黙してしまッた、それからというものは塞ぐのでもなく萎れるのでもなくただ何[ナニ]となく沈んでしまッて 母親が再び談話[ハナシ]の墜緒[ツイショ]を紹[ツゴ]うと試みても相手にもならず、どうも乙な塩梅[アンバイ]であッたが シカシ上野公園に来着いた頃にはまた口をきき出して、また旧[モト]のお勢に立戻ッた

1873(明治6)年、太政官布告第16号にて、公園という制度を発足させるので、地盤が官有地で、群集遊観の場所である土地を選定して伺い出るようにと通達したことから、日本の公園制度は始まります。同年に東京で公園に指定されたのは、芝、上野、浅草、深川、飛鳥山の五公園です。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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