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#058 小説を書く上での11の注意点

坪内逍遥の『小説神髄」では、下巻の第2章に当たる「小説脚色の法則」で、小説を書く上での注意点を11項目挙げています。

1.荒唐無稽

これは、逍遥がことあるごとに言っていることですね!

真成の小説には、荒唐無稽、奇異非常なる咄々怪事を忌めるよしは、已に繰返して説置[トキオキ]たれば、また更にここに贅せず。

2.趣向一轍[シュコウイッテツ]

おなじやうなる趣きのみ幾回となく続くことなり。唱歌、音楽にも、抑揚なければ面白からず。殊に小説、稗史のたぐひは、変幻浮沈窮[キワマ]りなき世の情態をば写せるものゆゑ、この性質の必須なる、才人を俟[マ]つて知らざるなり。

3.重複

前の趣向に相類する趣向をふたたびいだすことなり。

4.鄙野猥褻[ヒヤワイセツ]

これは#057で紹介しましたが、口が酸っぱくなるくらい注意してましたね!w

鄙野猥褻を忌むといへばとて、男女[ナンニョ]の情事を説くべからずといふにはあらず。ただ閨中[ケイチュウ]の隠微に類する陋猥[ロウワイ]の事を綴りいだして、自ら甘心することのなからむをば小説作者に望めるのみ。

5.好憎偏頗[コウゾウヘンパ]

おのれが架空の想像もて作り設けし虚構の人物を好憎するといふは、何とやらむ奇なるに似たれど、是れ人情の自然にして、決して怪しむべき事にはあらず。……我が従来の小説作者は、最も愛憎に偏るものなり。蓋し作者が情態をばただありのままに傍観して、その趣きをばありのままに叙する心得にてありたらむには、決してこの弊[ヘイ]のなき筈なれども、かの浅墓[アサハカ]なる童幼婦女子の嗜好に媚[コビ]むとなしけるから、さてこそ偏頗の好憎をも自然に行ふ事とはなりけれ。

「善人にも邪なる煩悩あり、悪人にも純善なる良心あり」…。作者はこれを忘れるな!と言っています。

6.特別保護

作者が主公を偏愛することますます甚だしきにいたるときは、只管主公の身を庇護して危険の場合に臨むごとに必ず之れを援[スク]ふことあり。……あまりに特別に之れを保護して、その危難をしも免るるは、その人物の身の上には常に定まりたる事の如く読者に思はるるはいと拙し。

7.矛盾撞着[ムジュンドウチャク]

これは文字通り、作中に辻褄の合わない矛盾が生じてしまう事ですね!

8.学識誇示

作者が学識を誇示する事なり。老熟の作者にはこの事なけれど、少年の作者には間々ある事にて、是れ又忌むべきの随一なり。……作者が博学をば知られざらむもいとをしければ、宜しく艸紙[ソウシ]の地の文にて、その満脳の学識をばその折々の便宜を見て、読む人々を倦[ウ]ませぬやうに心を用ひて叙[ノ]ぶべきなり。

9.永遠長滞[エイエンチョウタイ]

あまりに物語の長びくことなり。読者ばらが忘れはてたる比[コロ]になりて、その続談をいたせばとて、読者の注意はその折には已に他の物にあるべければ、さまで佳境にも入らざるべし。

10.詩趣欠乏

小説は世態[セタイ]の真像を叙するものゆゑ、ともすればその脚色[シクミ]も淡々無味に成り易かり。……時に伝奇中の趣きをばその脚色中に調合して、人を倦[ウ]ましめざる工夫をなすべし。

11.人物をして屢々[シバシバ]長き履歴を語らしむる事

若し長篇の小説なりせば、一両三回に用ふるとも敢て苦しからぬ事なれども、あまりに数々[シバシバ]用ふるときには、読者も「又か」と歎息[タンソク]せむ。

これが、逍遥が挙げた11の注意点です。

このあと、逍遥は、時代小説を書く上での注意点も挙げているのですが…

それは、また明日、近代でお会いしましょう!

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