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#259 やっぱりお金がない!

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十七回は、第十六回の続きから始まります。倉瀬くんは、顔鳥から託された手紙を守山くんに渡します。妓楼で出会った顔鳥が自分の妹の可能性が出てきてビックリの守山くん。そして、先日、母と妹の人探しの広告を再び出すに至った経緯を、倉瀬くんに説明します。その内容を聞いて、いよいよ確信が強まったとみえて、倉瀬くんは、ひとっ走り行って様子を知らせて来ようかと守山くんに問いますが、短刀だけでは証拠が足りないと答えます。その後、守山くんとお常さんと園田さんと小町田くんの関係を倉瀬くんに説明すると、どうやら倉瀬くんはお常さんに会ったことがあるようで、その時、お常さんは、小町田くんと内々で話したそうにしていたというのです。それを聞いて守山くん、ハハアと思い当たるところがあったようで、第十三回で展開された、小町田くんと田の次が密会した場面の舞台裏を語ります。それによると、田の次を不憫がったお常さんが、自分が住んでいる園田さんの別宅に小町田くんを招いて、出し抜けに田の次に逢わせるセッティングをしたというのです。それを聞いて倉瀬くんは「お常さんは悪気でしたわけじゃないだろう」と言いますが、それに対して守山くんは「勿論そうだが小町田くんのためにならない」と答えます。その後、丁々発止のやりとりをしていると、守山くんのお父さんが事務所を訪れます。どうやら、守山くんのお父さんは、東京に引っ越すために上京したようで、邪魔になってはいけないと倉瀬くんは帰ろうとしますが、妹の件で父と会ってくれたまえと言って守山くんは帰してくれません。ひとりになって待たされて、議論で酔いが醒めた倉瀬くんは、ふと部屋の小窓を開けて外を見ると、なんと偶然宮賀兄弟が通りかかります。彼らによると、どうやら継原くんがコレラ病に罹ったというのです。しかし、倉瀬くんの名推理によって、ただ金がなくなって無心しているだけということがわかります。そこに都合よく、継原くんが登場します。どうやら、継原くんは、百科事典の翻訳料を山村くんと一緒に妓楼へ登って使ってしまったようで…

倉「イヨ。おめでたうおめでたう[ヘイルヘイル]。」
継「おめでたう[ヘイル]どころの騒ぎぢゃアない。翌日ぼん乎[コ]として帰つてくる、と後からお馬は従[ツ]いてくる、お金はお手々に一銭なし。イヤハヤ急々如律令[ニョリツレイ]さ。直[スグ]に馬と共に同行して、汗牛堂へとかけつけると、主人は国元に急用ができて昨日出立[シュッタツ]した後[アト]の祭[マツリ]、何のいひおきもない事故[ユエ]、山車[ダシ]をあげる訳には、イヤあげる物もだすわけにも、わたしの独断ではできません。ト番頭善六めが逃口上[ニゲコウジョウ]さ。そんな違約をされては困ると、二時間舌の根をただらしてネ、やっとこさ、六円だけ請取[ウケト]つてネ、それで附馬[ツキウマ]をおっかへしたが、サアそれからがいよいよ困却。兼[カネ]て一昨日[オトトイ]を期日として旧[フル]い借財をいひ延したり、一寸[チョット]時借[トキガリ]をしておいたから、一昨日になつて来るとも来るとも、陸続幕[ノベツマク]なしに責[セメ]かけたる。hetrogeneous[ヘトロゲニヤス](種々雑多)の借金取、せめて一円か二円もありゃア、一寸口塞[クチフサ]ぎをする訳だが、純然銭なし[ヌウ・パア]ちふ有様だから、イヤハヤ我輩も実に弱つた。外田に貸[カシ]た金が三円ばかりあるが、原[モト]が青楼での立替[タテカエ]だからまさか返せともいはれないから、例の端書[ハガキ]だけ出しておいたが、それもきのふまでは音沙汰なし。山村はずるい奴さ。一昨日昼過[ヒルスギ]から逐天[チクテン]して、どこへいつたか行方[ユキガタ]なし。我輩俊寛の役をつとめて、二階に悄然と隠れてゐると、そろそろ下宿屋の山の神が、三尺五寸ほどの書出[カキダ]シを持つて、どうかお払ひをとやらかすぢゃアないか。前門[ゼンモン]に虎をごまかせば、後門[コウモン]に狼婆[オオカミババ]ア、さすがの我輩も弱り果[ハ]て、一寸湯屋[ユヤ]までと、ごまかしておいて、まづまづ戸外[オモテ]までは飛[トビ]だしたが、懐中元来自ら銭なし、湯銭の準備さへもない訳だから、余儀なく煙艸屋[タバコヤ]で時借[トキガリ]して、今日の昼飯はバック(バックホヰイトのりやくにてそば屋といふこと。)ですまして、用もない所をぶらりぶらり。一[ヒト]まづoutside[アウトサイド](そと田の事なるべし。)を叩いた上で、去就を決しようと心を定めて、わざわざ下町まで出掛てきたのに、それさへ越中とは情ないネエ。かくあて事の外[ハズ]れるとは、この勘平[カンペイ]の運の末か、チエエ残念な弱つたなア。」

ひとりの役者が次々と早替わりして七人の登場人物を演じる『於染久松色読販[オソメヒサマツウキナノヨメウリ]』に出てくる、舞台の油屋の乗っ取りを企むのが、番頭善六です。四世鶴屋南北(1755-1829)の作で、初演は1813(文化10)年、江戸森田座です。

近松門左衛門(1653-1725)の人形浄瑠璃『平家女護島(ヘイケニョゴノシマ)』は、1719(享保4)年に大坂竹本座にて初演を迎え、その後まもなく歌舞伎にも移されています。平家転覆を企んだ俊寛・成経・康頼の三人が、流罪で流された鬼界ヶ島が舞台。詳細は端折りますが、成経が、島で娶った、海女の千鳥が「鬼界ケ島という名の島だが鬼はいない、鬼がいるのは都だ」と嘆く場面があります。

ということで、今回は随分と長くなってしまいましたが…

この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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