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#195 倉瀬くんの独断強引な誘い

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

小町田くんは、田の次と会うことをやめようとしますが、そのことを便りで伝えるかどうか、大いに悩みます。しまいには、顔色おとろえ、塞ぎがちになってしまい…。そんな小町田くんは、倉瀬くんと一緒に10月の広小路をぶらぶらと歩いています。会話の話題は、山村くんと継原くんの退校に関することでして…。倉瀬くんによると、山村くんは退校となってもしょうがないが、継原くんは演説も上手いし、慷慨家なのでもったいないと評します。次に話題は、桐山くんと守山くんの入党に関することに移ります。そして、倉瀬くんは小町田くんの神経質な部分を心配し、「周りを気にせず、時には酒を飲んだり、プレイするのもいいじゃないか」と倉瀬くんなりに励まします。そして、田の次を呼んで飲みに行こうと誘いますが、小町田くんがその理由を尋ねると、田の次からの手紙を読んだという、最低の行為を告白します。しかし、それを反省する気もなく、田の次の気性に感服したことを講釈します。

倉「……リットンが編[カイ]た『リエンヂ外伝』を読んでみたまへ。リエンヂほどの英傑でさへも、ナイナ姫[レデイ・ナイナ]のあるがために、その回天の素志[ソシ]を貫く勇気を維持し得たといふぢゃアないか。泰西[ウエスタルン・カントリー]で中古に武官制[シバリイ]の盛えたのも、また近代の社会に於て、貴女達[レディス]が財嚢[ザイノウ]を与へるなんぞは、皆これ佳人を善用して、士気を振[フル]はしむる方便だアネ。……

エドワード・ブルワー=リットン(1803-1873)が1835年に出版した『Rienzi』を、『荊延白[リエンヂ]外伝』と題して、1885(明治18)年に晩青堂から翻訳出版したのは、何を隠そう坪内逍遥本人です。

倉「……これに因[ヨツ]てこれを観れば、佳人を愛するは人情の常だ。我[ワガ]ウイルさへ確定[シツカリ]してりゃア、毫[ゴウ]も憚[ハバカ]るべき訳はないんサ。例の君シンガアなんざア、気性も中々快活だし、あの手紙[レタア]の文言で見りゃア、君に対して真実なるのは、毫[ゴウ]も疑ふべきところなしだ。たとひ芸妓[ゲイギ]をしてゐたからッて、その気性[スピリット]さへ高尚なら、君のコンキユウ(コンキユバインの略にて妾といふ事。)位にゃアしたッてもいい。大丈夫[ダイジョウブ]時に太白[タイハク]を引[ヒイ]て、鬱悶[ウツモン]をやらないぢゃア、長く大志を養ひ難しだ。鳥八十[トリヤソ]か何処かで、一杯飲まう。かね[エム]は僕のとこにあるから、マアともかくも来たまへ来たまへ。」倉瀬は少々酒機嫌[サケキゲン]と見えて、頻[シキリ]に独断の議論をならべて、無暗[ムヤミ]に小町田を誘引[サソ]ひかかれど、小町田は打笑[ウチワラ]ひて、ただよきほどにあしらふのみ。否応[ノウイエス]ともに分明[ブンメイ]ならねば、倉瀬は少々じれこみて、
倉「オイ小町田。どうも君は優柔不断だからいけない。一旦愛[ラブ]した位なら、あくまでラブするがいいぢゃアないか。頑固党が二、三度攻撃をしたからッて、それで恐れ入つてしまふ位なら、断然絶念してしまふがいい。腹ではくよくよ思つてゐながら、ただ外面[ウワベ]ばかし聖人ぶるのは、君にも似合ない未練[ウヰイクネツス]だ。馬鹿気切[バカゲキ]つた話ぢゃアないか。」

なんだか、友人として心配しているというより、興味本位でけしかけているように見えますけどね!w

ということで、このつづきは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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