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#263 衣服と品格の話が、まだ続きます…

今日も坪内逍遥の『当世書生気質』を読んでいきたいと思います。

第十八回は、風俗改良の良否について論じられるところから始まります。風俗の違いこそ、人情の違いであり、例えば衣装は、見る人の心を動かし注意をひくためのものではなく、見る人の心持ちを不快にさせないためのものである。日本下駄を不便利だといい、無闇に洋帽をかぶったりするのは、野暮天であるといいます。粋な人の服装とは、必ずしも高価ではなく、どことなく嫌味気が少ないものだと言います。

英[イギリス]の伝奇家沙翁[キョウゲンサクシャシャオウ](シェークスピア)がかつて台辞[ダイジ]のうちにて、
「御身[オンミ]が嚢裡[フトコロ]に貯金[タクワエ]あらば、あくまで高価の衣裳[イショウ]を求めてこれを身に纏ふもさまたげなけれど、わがおろかしき妄想をば見すかされぬやう粧[ヨソオ]ふべし。よしや驕奢[キョウシャ]に粧へばとても、華奢[カシャ]にすぐるはいと醜[ミニク]し。けだし衣裳は動[ヤヤ]もすれば、その人品[ヒトガラ]をば表すものゆゑ、肚[ハラ]を見られぬ用心して、見に適[カナ]ふやう粧ふべし。」云々[シカジカ]。

シェイクスピアの『ハムレット』第一幕第三場のセリフです。

と綴[ツヅ]りし文句はまことにこれ金を殺して美服を着する、野暮が頂門[チョウモン]の一針[イッシン]なるべし。さはいへ翻[ヒルガエ]してこれをいへば、衣裳は衣裳なり、肚は肚なり。一、二歩退[シリゾ]いて音羽屋[オトワヤ]を気取り、グット反身[ソリミ]にて考ふればとかく仮焼刃[ツケヤキバ]は、脱[ハゲ]やすきものなり。衣服[ミナリ]で一旦は瞞着[マンチャク]するとも、到底あらはるるは自然の沙汰なり。よしや洋服着て博士[ハカセ]ぶるとも、たとひ束髪[ソクハツ]して貴方[レデイ]めかすも、お腹[ナカ]に見識が乏しからんか、表裏[ウチ]と内外[オモテ]とが相[アイ]かなはず、刀鍛冶[カタナカジ]の勉強ならねど、トンチンカンにて恰好[カッコウ]をかしく、自然見ッともなう見ゆるぞかし。

「ちちんぷいぷい」「チンプンカンプン」「もしもし」など、『当世書生気質』には、いまだに使われてるのに出所がはっきりしない言葉がいくつか出てきますが、「とんちんかん」も、そのひとつですね。

娼妓はいかほどに素人めかして、頗[スコブ]る上品なる衣服を着して、遊ばせ言葉を吐くといへども、一目瞭然お里がしれ、その心ざまも見らるるならずや。他[タ]なしその肚[ハラ]のうちが下劣なるゆゑ、いかほどその外面[ウワベ]を飾るといへども、思[オモイ]うちにあれば色外に現[アラワ]る。げに争はれぬ表裏の反対、なまなか品格[ガラ]にあらぬ衣服を着るのは、見にくき物のうちの随一[ヒトツ]とやいはれん。時に十月の中半[ナカバ]なりしか。これもその種類の人間とおぼしく、身装[ミナリ]と品格[ヒトガラ]とが折あはねば、さすがに御当人は得意のかほつき、新らしい黒塗の人力車で、ところは下谷梅園町、とある格子戸[コウシド]の家[ウチ]のまへへ、二人相乗[アイノリ]にてガラガラガラッ。

いよいよ、お話に入りそうですね!w

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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