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#418 文三さん、怒りが収まらない

今日も二葉亭四迷の『浮雲』を読んでいきたいと思います。

第九回は、文三さんの部屋に、お勢さんの弟の勇くんが遊びに来たところから始まります。勇くんは学校の出来事にいろいろ不満を持っているようで、ボートの順番をクラスの順番で決めたことが失敬だと文三さんに愚痴ります。そこに、お勢さんが一階から上がってきて、シャツの綻びを縫ってやるから脱ぎなと言いますが、勇さんは学校の不満を言うことに熱中しており、ダラダラとシャツを脱ぐ始末…。その態度にお勢さんがイライラして、さっさとお脱ぎでないかね!と怒りますが、そんな時、どうやら、本田さんの声が一階から聞こえたようで、お勢さんは嬉しそうに、シャツも持たずに、階段を降りていきます。姉貴がいなくなったことをいいこと、勇くんはお勢さんの悪口を言いたい放題。得々と一階へ降りていきますが、その後、文三さんもフト思い出したように一階へと降ります。すると、そこには本田さんがいて、文三さんに対して「チト話がある」と言います。そして、復職のチャンスがあるから橋渡しをしてもいいがどうする?と持ちかけます。ここで、文三さんが決断できずモジモジしていると、お政さんが「文三さんは、そんな卑劣なことはできないよ」とチャチャを入れます。すると、本田さんも「それは立派なことだ。とんだ失敬を申し上げました」と笑います。文三さん、顔を真っ青にして拳を握って歯を食いしばり本田さんを睨みつけますが、ハッと心を取り直して「えへ…」と気持ちを誤魔化す始末。その場にいるのも耐えきれず、文三さんは座敷を出ますが、すると、座敷の方から皆の高笑いする声が聞こえます。文三さん、残念で無念で、はらわたがちぎれるほどの怒りにかられます。

無念無念文三は耻辱[チジョク]を取ッた ツイ近属[チカゴロ]と云ッて 二、三日前までは官等に些[チ]とばかりに高下[コウゲ]はあるとも同じ一課の局員で 優[マサ]り劣りがなければ押しも押されもしなかッた昇如き犬自物[イヌジモノ]のために耻辱を取ッた、然[シカ]り耻辱を取ッた、シカシ何[ナン]の遺恨があッて如何[イカ]なる原因があッて
想[オモ]うに文三 昇にこそ怨[ウラミ]はあれ昇に怨みられる覚えは更にない 然[シカ]るに昇は何[ナン]の道理もなく何の理由もなく あたかも人を辱める特権でも有[モツ]ているように文三を土芥[ドカイ]の如くに蔑視[ミクダ]して犬猫の如くに待遇[トリアツカ]ッて 剰[アマツサ]え叔母やお勢の居る前で嘲笑した侮辱した
復職する者があると云う役所の評判も課長の言葉に思当[オモイアタ]る事があると云うも 昇の云う事なら宛[アテ]にはならぬ 仮令[ヨシ]それらは実説にもしろ 人の痛いのなら百年も我慢すると云う昇が 自家[ジブン]の利益を賭物[カケモノ]にして他人のために周旋しようと云う、まずそれからが呑込[ノミコ]めぬ
仮りに一歩を譲ッて全く朋友の信実心[シンジツシン]からあのような事を言出したとした所で、それならそれで言様[イイヨウ]がある、それを昇は 官途を離れて零丁孤苦[レイテイコク]みすぼらしい身になッたと云ッて文三を見括[ミクビ]ッて 失敬にも無礼にも復職が出来たらこの上がなかろうト云ッた

零丁孤苦とは、落ちぶれて一人苦しむ境遇のことです。

それも宜しいが 課長は昇のために課長なら文三のためにもまた課長だ、それを昇はあだかも自家一個[ウヌヒトリ]の課長のように課長課長とひけらかして 頼みもせぬに「一臂[イッピ]の力を仮[カ]してやろう橋渡しをしてやろう」と云ッた

文三さんの怒りが一向に収まる気配はありませんが…

この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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