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ふとした瞬間に昔を思い出してしまう。あの頃はよかったなぁと昔を懐かしんでしまう。あの追憶装置の正体とは?『デタラメだもの』

ふとした瞬間の街の空気が漂わせる香りに、つい昔のことを思い出してしまい、急に立ち止まり、「嗚呼、あの頃はなぜにあんなにも自由だったんだろうか」などと回顧するも、急に立ち止まったがために後ろを歩く人にぶつかられた。「いきなり立ち止まるなよ、クソがッ」と吐き捨てられ、はっ、そうか、ここは現実か、などと我に返る日々。

そういった類の、昔の記憶を呼び戻す装置的なものは一体なんだ? 一瞬にして感情があの頃に遡れたり、まるで映画のワンシーンを眺めているように、ウットリと自分の人生に酔いしれることができたり。例の装置は、なかなかどうして、激闘の最中を生きる人間の癒やしだったりもする。

インターネットには、皆さまおそらく無意識にクリックしているであろうハイパーリンクというものがある。それは、クリックするポイントに仕込まれたリンク(リンク元)をクリックすると、それに紐付いた遷移先であるリンク先ページに瞬時にジャンプする。

それはそれで、まるで魔法みたいなもんなんだぜ。例えば、日本の田中さん(仮)が作成したウェブページのリンク元をクリックした瞬間、アメリカのスミスさん(仮)が作成したウェブページに瞬時に移動することができる。冷静に考えると、末恐ろしい状況だ。慣れって怖いもので、当たり前のように感じているかもしれないが、イノベーションだね、イノベーション。

で、この状況を自分という人生の時間軸において再現したのが、例の「何らかのきっかけで自分の人生を思い出し懐かしむ」という装置だね。追憶装置とでも呼ぼうかしら。

過去に拘ったり過去を懐かしむことを良しとせず、前だけ向いて生きていきたいというマッチョな方には必要ないかもしれないが、このリンク先ってやつ、いわゆる現在からジャンプできる遷移先(思い出)というのは、多くて困るものではない。たとえ前だけ向いて生きている人だとしても、少しだけ休息できる瞬間を得られるのではないだろうか。

じゃあ、どうすればリンク先をたくさん作れるのだろうか。

例の装置は、「漠然とした思い出」をリンク先とする、そんな単純なものではないことが判明した。あくまで個人的見解として。じゃあ、何をリンク先とするのかと言いますと、それは、匂い・音楽・言葉、だったりする。

街なかでふと、鼻腔をくすぐる匂い。それは遥か昔、どこかの誰かがつけていた香水のかおり。その瞬間、匂いが追憶装置を着火させ、過去のことを鮮明に思い出す。まるで身体だけが現代に取り残され、思考が過去へとタイムリープし、「あはん、仕事中やのに、急にお酒飲みたくなってきたやん」などと言ってのけ、昼間っから営業している立ち飲み屋の暖簾をくぐったりする。

そう考えると、異性との交際中は交際相手に香水をつけてもらうよう懇願したほうがいい。そのほうが、未来の自分が喜ぶ。そして、交際中は香水の種類を変えぬよう哀願したほうがいい。複数の香りをリンク先ポイントとして設置してしまうと、未来の自分が困惑する。また、リンク元からリンク先に遷移した後の"ありがたみ"というやつも薄れてしまう。だから、種類は変えないよう頼み込むほうがいい。

そんなのいやだ。その異性と別れる前提で交際しているみたいジャン。別れる運命みたいで嫌ジャン。異性と別れた思い出を将来的に振り返るための種まきみたいでネガティブジャン。と言いたい諸君もいるだろう。しかし安心したまえ。たとえその恋愛が成就し、末永く共に暮らせたとしよう。そんな状況でも、二人の関係を分かつ瞬間は訪れる。

例えば、ある日いきなり上司から「君、明日からシベリアに出張に行ってくれないか」と命じられるかもしれない。そうなれば、明日から君は、孤独を噛み締めながら生きねばならない。追憶装置を求めたくなる瞬間だってあるだろう。

では、音楽の場合はどうか。音楽の追憶装置は、街の至るところに仕込まれてある。商店街のアーケードなのか飲食店なのか美容院なのか。BGMというやつはあちこちで我々のことを包んでくれる。そして、とある楽曲が装置を着火させ、思考がタイムリープし、あまりの懐かしさにワナワナと震えだし、商店街のど真ん中で小便を漏らしてしまったりもする。

音楽の場合、リンク先の仕込みは簡単だ。異性と交際しているなら、ひとつ(ひとり)のアーティストを二人一緒にいる時に、好んで聴けばよろしい。コンサートに足を運ぶのもいいでしょう。部屋にポスターなんかを貼ってもいいでしょう。さすれば将来的に、そのアーティストの楽曲がどこかから流れてきた瞬間に、追憶装置は着火する。

恋愛の場面だけでなくたっていい。友人たちと青春を謳歌する場合でも、音楽は有効だ。自分たちのテーマ曲のようなものを定めておけばいい。集うときには定期的に、その楽曲を再生するような定番のような楽曲を定めておく。

「アホくさ、そんなんやってられるかい」とバカにしたくなる気持ちもわかる。しかしだ、その行為は確実に未来の自分たちを盛り上げてくれる。時空を超越したエンタメだよ。校庭の木の下に埋めるタイムカプセルと似たようなもんだよ。

じゃあ、言葉の場合はどうか。交際中のふたりなら、共通の口癖だとか合言葉だとかを定めておくといい。未来の自分は、ある日のある瞬間、その言葉の響きを思い出し、追憶装置を着火させること間違いなし。

友人たちと青春を謳歌する場合は、自分たちにしか理解し得ない造語のようなものを作っておくことをオススメする。そうすれば、たとえ数十年後に再会しようとも、その言葉を持ち出すだけで、思考やら感情やらが当時の自分たちに向かいタイムリープできること間違いなし。時間の隔たりなど、いとも容易く超越できちゃうだろう。

他にも、定期的に訪れる場所を作っておく、飲食店で必ず注文する品を決めておく、見上げる星に名前をつけておく、などなど考えただけでも追憶装置のリンク先はいくらでもある。それらを仕込んでおくだけで、未来が少しばかり賑やかになるだろう。過去を振り返ってばかりの人生じゃどうしようもないが、振り返りたくなる過去がないってのも味気ないものだ。

そんなことを考えていると、自分には未来に向けたリンク先が少ないのではないだろうかと思いつき、リンク先の設置に邁進しようと決めた。とりあえず、見上げる星に名前をつけることから始めてみようと思い、帰り道は常に上を向いて歩くようにした。来る日も来る日も星に名前をつける日々。あまりにも上ばかり向きすぎて、気づけば首が炎症を起こしてしまっていた。上を向く姿勢が常態化してしまい、前を向くというノーマルな姿勢に戻すと首が痛むようになったのだ。

いかんいかん。定期的に訪れる場所を作っておくプランに変更だ。ということで、確実に定期的に訪れている場所というものを脳内に思い浮かべてみたところ、真っ先に浮かんだのか、確定申告のために訪れる税務署だった。確かにあそこには定期的に足を運ぶ。足を運ぶ義務がある。

とその瞬間、追憶装置が着火した。懐かしい。いつだったか、ある日の税務署。あまりの混雑に苛立ちを覚え、八つ当たりすることでストレスを晴らそうと、署員の胸ぐらを掴んで大声を張り上げる、自営業を営んでいるであろうおっちゃん。仲裁に入ったイカついおばちゃんの声は、酒焼けでハスキーボイス。女性の署員さんも数名いらっしゃったのに、僕の手続きを隣で見守ってくれたのは、嘱託職員の中でもベテラン中のベテランといったコワモテのおっちゃん。全てがいい思い出だ。今すぐにでも帰りたいよ。もうすぐ確定申告の時期がやってくる。申告はお早めに。

デタラメだもの。

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《3分後にはもう、別世界。》 広告企業勤め+フリーランスの兼業家。『3分で読めるショートストーリー作家+広告クリエイター+マーケッター』の切り口で記事を執筆しています。https://www.facebook.com/osakamoderndisco/
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