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猫カフェ、これはもうキャバクラである


 きのう、猫カフェを訪れた。

 場所は池袋。きのうは東京芸術劇場にて、『だからビリーは東京で』という演劇の18:30~の回を観る予定があった。しかし、私が池袋駅で電車をおりたのは17:20ごろ。ちょっと早めに着いてしまった。

 うーむ、喫茶店でも行って、コーヒー飲むか。

 グーグルマップで、辺りを検索する。

 すると地図上に、「猫cafe」なる文字を見つけた。むむ。猫カフェですか……。以前から興味はあった。なにせ私は、実家で猫を飼っている。なかなか彼に会えないフラストレーションを、ずっと募らせていた。

かわいすぎる実家猫


 よし。いっちょ猫カフェ、行ってみるか。そんな気持ちが沸き起こる。グーグルマップによれば、そのカフェはすぐ近くにあるらしい。辺りを見回すと、看板を見つけた。ビルの3階で、ガラス張りになっている。

 ちょっと緊張しながら、階段をあがっていく。店のドアを開けると、大きなガラスで仕切られた向こうに、大量の猫を発見した。

 ん猫ォォォォォォォ!

 ブチあがる感情をなんとか抑え、スリッパに履き替える。店員が近寄ってきて、店のルールをいろいろと説明してくれた。

 店員はかなりの猫好きらしく、「店内の猫チャンが…」と言うたび、目尻にシワをつくっていた。

 ひととおり説明を受け、ガラスで仕切られた猫ゾーンに入室する。ちなみに料金は、10分で220円だった。それプラス、ドリンクバー代が385円。まあ、猫好きのまえでは、金の話など意味を成さないのである。なぜならわれわれ猫好きにとって、「猫と同じ空間にいさせていただける」ということは、どんな体験にも勝る至福のひとときだからだ。

いざ、夢のような部屋へ

 受付との仕切り扉を抜けると、まず飛び込んでくるのがこの光景。おわかりだろうか。ツリーの上の方に、数匹の猫が寝転んでいる。

 ツリーの土台部分に寝そべる猫。これはなんという種類の猫だろうか。外国のアニメに登場するような顔をしている。

 私はまず、端っこのソファに陣取ることにした。猫という生き物は、なれなれしく近寄る人間をあまり好いてはくれない。我慢づよく、彼らのほうから歩み寄ってきてもらうのを、じっと待つのが最善策なのだ。

 すると早速、茶色の猫が。よし……。こっちに来い!ヒザの上に乗ってくれ!

 願いを込めて凝視するが、この猫はすぐにどこかへ行ってしまった。

 それから5分待っても、猫が私のもとに寄ってくる気配はない。実家で猫を飼っている身としては忸怩たる思いであったが、仕方がない。飛び道具を使うことにした。

 そう、カリカリである。

 これは入店時、LINEで猫カフェを友達登録するともらえる、ちょっとしたアイテムだ。これを使って、猫をおびき寄せようと思った。

 まあ、こんなものは最初の「セット料金」に含まれているので、キャバクラでいえば、「いいちこのボトルセット」に該当する安物なのだろう。

 カリカリの袋を開けると、1匹の猫が私のそばへ来てくれた。かわいすぎる。至福の時間を1秒でも長引かせるべく、ひと粒ひと粒、手の上に載せて差しだしていく。

 が、幸福は長く続かないものだ。カリカリが終わったとたん、この猫はプイとどこかへ去ってしまった。まったく、猫とはゲンキンな生き物である。そんな部分も愛おしいので、全然かまわないのだが。

 はあ、待っていても仕方ないか……。ソファから立ち上がり、自分から猫に近づいていく。しかしどの猫も、タワーの上から降りてくれる気配はない。

 「チッ、うっせーな」

 スノーボード元日本代表・国母選手のようなささやきが聞こえる猫を見つけた。触ったら怒られそうなので、眺めるだけにする。

 あきらかに格下を見る目つきの猫。気品がありすぎて怖かったので、彼にも触れないことにする。

 ああ、待って! 背中を撫でさせて! 子猫にすら無視され続け、だんだん悲しくなってきた。ここまで10数分、まだいちども猫に触っていない。このままでは……マズイ。どうにかしなければ。そんなことを考えていたら、なにやら私の視界に「アイテム」らしきものが飛び込んできた。

背に腹はかえられぬ、か……?

 それがこちらだ。なんだか、おわかりだろうか。

 そう、猫耳カチューシャである。

 さすがにぶっきらぼうな猫といえど、これを着ければ相手にしてくれるんじゃないだろうか…。

 しかし店員は、女子大生っぽい3人組。もちろんガラスの向こうから、こちらの猫ゾーンは見えている。ひとりで来店した183cmのスキンヘッドが猫耳カチューシャを着け出したら、笑われないだろうか……。不安が脳裏をよぎる。

 猫耳さえ着ければ、あのシッポだって触らせてもらえるかも。しかし私は、それを着けることはしなかった。

 なぜなら私が猫耳を着けたところで、猫にとってメリットがないからである。

 私の猫耳など、キャバクラのカラオケで、唾を飛ばしながら熱唱するおじさんのようなものだ。嬢たちにとって「いい客」とは、金を落としてくれる客だけ。この店でいえば、「おやつを与えてくれる客」のみが、猫たちにとっての太客になれる。うーむ。どうすればいいんだ。私が頭を抱えていると、大学生のカップルらしき客が来店した。

ピンドン入ります!

 大学生カップルは仲むつまじく、猫を眺めたり、微笑みかけたりしている。しかし彼らも、猫に触ることはできないようだ。やっぱり猫とは、生粋のキャバクラ嬢である。「おやつ」という名の「売上」を与えてくれない客には、見向きもしない。

 なるほど……。これが猫カフェか。私はいささかガッカリした気分で、ソファ席の背もたれに身体をあずけた。と、いきなりカップルの男が、ノリノリな声で女にこう言った。

「おやつアイスいっとく!?」

 私は身を起こし、彼の声に耳を傾けた。するとなにやら、追加で500円支払うことで、猫たちの大好きな「おやつアイス」なるものをゲットできるらしい。なにそれ、超ほしいと、私は思った。

 カップルを観察する。しばらくすると男が受付へ行き、店員になにかを告げ、謎のカクテルグラスを手に戻って来た。

 その様子を見た部屋中の猫たちが、男に近寄っていく。

 男はカクテルグラスに並々と盛られた「おやつアイス」なる飛び道具で、猫たちを好き放題している。背中を撫で、頭を撫で、アゴを撫でる。終いには、私が目をつけていた茶トラの猫を、抱っこしやがったのだ。

 くそっ…。向こうがドン・ペリニヨン・ロゼなら、こっちはヴーヴ・クリコだ!

 私はソファ席から立ち上がり、店員のもとへ走った。場合によっては、シャンパンタワーの注文も辞さない構えだった。

「あの……」

 女子大生っぽい店員が振り向く。

「あの……、猫がいちばん寄って来るおやつください!

 私は恥ずかしげもなく、そう言い放った。

 女子大生っぽい店員が、「あーあ、イタ客来ちゃったよ」という顔で、仲間と目くばせする。

「どれが寄って来るっていうのはないんですけど、3種類の中から選べます」

 私はいちばん高額なおやつを買うつもりでいた。しかし、3種類のおやつはすべて500円らしい。クソッ…。これじゃ、猫の売上に貢献できない!

 拳を握りしめたが、どうしようもない。とりあえず1種類のおやつを選んだ。それがこちらである。

 そう、「猫まんま」だ。

 3種類のなかで名前がいちばんかわいかったので、これを選んだ。

「ではお席に持っていくので、お待ちくださーい」

 店員がイタ客を見る目で言う。お気に入りの嬢が他の客に取られているのに嫉妬し、あわててシャンパンを入れる客などダサくて当然だ。しかし、猫と触れあいたい気持ちは強まるばかり。私はドキドキしながら、席で店員を待った。

 2~3分で店員がやって来る。

「じゃあエプロン着けてください」

 なにやらビニール製のエプロンを手渡された。これってもしかして、このエプロンの上におやつを載せていいってコト!? そしたら猫が、膝の上に乗ってくれるじゃん……。私はあまりのうれしさに身震いした。そして店員にうながされるまま、店内中央のキャットタワーの前に行く。

これがエプロン

 するとそこには、ワクワク顔の猫たちがすでにスタンバっていた。店員から「猫まんま」を手渡される。

 これが猫まんま。なんだか、お洒落な入れ物に入っている。

 キャットタワーの前には、「猫まんま」待ちの猫たちが。これで私もやっと、太客だと認定してもらえたのだろうか。

 イヤァァァァァ!見てる!私の猫まんまを猫が見てる!

 うれしくて膝から崩れ落ちそうだった。

 そして私は無事、猫に触ることができた。それも、店内にいるほぼすべての猫だ。やっぱり飛び道具があれば、猫などチョロイものである。

 今後は来店前に、池袋の西武前で待ち合わせて、ディオールの化粧品でも買ってやることにしよう。その後、ちょっと高い寿司屋で握りを食べさせ、事前に買っておいたロクシタンのボディクリームでもプレゼントすることにする。

 はあ、やれやれ。今後は池袋に行く機会が、増えそうである。


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