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フィンランドで働く〜労働組合編#1 労働組合とその立ち位置

フィンランドで働くことについて皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか?


夕方の4時には仕事を終えて家族や友人との時間を楽しみ、4週間という長い夏季休暇を満喫するのは有名ですね。フィンランドでは長い休暇を終えて職場に戻ってきたらボーナスがもらえます。


レストランやスーパーは日曜日も空いています。そこで働く従業員はその日の給料が倍になります。また給与も少しづつですが毎年上がることが約束されます。


土日祝日や夜間問わず対応しなければならない医療従事者はどうでしょう。当然彼らにはさらなる手当が保障されています。


子供が風邪をひいても給与や有休の残日数を気にする必要はありません。
給与が保障されるので安心して仕事を休んで看病できます。




これらの手厚い保障はどのようにして確約されているのでしょうか。

労働文化による暗黙の了解で行われているものもあれば、法律で守られているものもあります。

しかし上記で上げたものの一部は法律よりも広い範囲で保障されています。
それが労働協約(Työehtosopimus)です。労働者がよりよい生活を営めるよう労働協約を守る立場にあるのが労働組合(Ammattiliitto)です。


労働組合 - Ammattiliitot

フィンランドでは主に業種ごとに労働組合(Ammattiliitto)が組織されています。日本での「産業別労働組合」に近いです。

業界・職種ごとに1つづつあるというわけではなく、同系統の組合が2つ以上存在している場合もあります。また加入は必須ではないので加入しないという選択肢もあります。

しかしストライキが多い業界に従事する場合は加入したほうがいいかもしれません。これらに関しては#4でもう少し説明します。


中央組織 - Palkansaajien Keskusjärjestöt

現在フィンランドの労働組合(Ammattiliitto)は80個あります。80個の労働組合のうち69個の組合が労働団体の中央組織(Palkansaajien Keskusjärjestö)に参加しています。

フィンランドの中央組織は以下の3つです。全て国際労働組合総連合に加盟しています。

  • SAK(35組の労働組合が加入)

  • STTK(17組の労働組合が加入)

  • Akava(17組の労働組合が加入)


SAK(Suomen Ammattiliittojen Keskusjärjestö)

SAKはブルーカラーの労働者が組織する組合が多く加盟しています。
組合員が多いため中央組織の中で一番影響力が大きく、またインフラの一部を担っていることもあり、ストライキを起こすのは主にここの組合です。

【主な労働組合と対応する業界一例】
・製造業 Teollisuusliitto
・物流業 AKT (Auto- ja Kuljetusalan Työntekijäliitto)
・ホテル、外食、清掃、小売業 PAM (Palvelualojen ammattiliitto)
・交通業(バスの運転士など) JHL (Julkisten ja hyvinvointialojen liitto)
・鉄道業(電車の運転士など) RAU (Rautatiealan Unioni)
・建設業 Rakennusliitto
その他航空業や製紙業、食品製造業を支援する組合も所属しています。

STTKとAkava

学歴が重視される業界・職種の労働組合が多く加盟しています。
※STTKはオフィスワーカー、Akavaは専門家が主な対象となっていますがSAKに比べると境界が少々曖昧です。そのため1つにまとめています。

【主な労働組合と対応する職業】
・看護師、介護士など Tehy / SuPer
・オフィスワーカー、専門職など Pro / Jyty
・学校の教員など OAJ (Opetusalan Ammattijärjestö)
・エコノミストなど Suomen Ekonomit
・エンジニア※など Insinööriliitto
・ディプロマエンジニア※など TEK (Tekniikan akateemiset)
その他、医者や大学教授などが在籍する組合もAkavaに所属しています。

※University(Normal/Degree engineering)とTechnological University(Diploma engineering)の違いはフィンランドにもあります。

 

労働組合の勢力図をまとめるとこんな感じです。ニュース番組や新聞などで見かけたことのあるロゴがあるのではないでしょうか。



中央組織 - Työnantajien keskusjärjestöt

あれ、中央組織の説明はもうすでにしたのでは?と思った方もいるでしょう。しかし、こちらは先ほどのものとは少々異なります。

労働組合とそれを統括する中央組織、そう聞くと労働者が所属するイメージがあると思います。しかしフィンランドには労働者に相反する組織と組合が雇用主側にも存在します。察しがつくとは思いますが労働者側の組合や中央組織とはよく揉めています。

「Palkansaajien Keskusjärjestöt」は"従業員・被雇用者"(Palkansaaja)の単語が入っているように労働者側の組織です。
※ちなみにPalkkaは給料、Saajaは受け取る人という意味です。

対してこの「Työnantajien keskusjärjestöt」、"雇用主"(Työnantaja)が入っています。つまりこれは雇用主(事業主、経営主)側の組織となります。
※Työは仕事、Antajaは(何かを)あげる人という意味になります。


EK(Elinkeinoelämän keskusliitto)

雇用主側の中央組織としては一番規模が大きいです。企業はこの中央組織に加盟している事業者組合に主に所属しています。現在19の組合が加盟しています。

【主な組合と対応する業種】
・食品製造 ETL (Elintarviketeollisuusliitto ry)
・エネルギー Energiateollisuus ry
・金融 Finanssiala
・人材派遣 HELA (Henkilöstöala ry)
・社会福祉、ヘルスケア事業 HALI (Hyvinvointiala ry)
・小売 Kaupan liitto
・化学工業 Kemianteollisuus
・不動産 Kiinteistötyönantajat
・旅行、宿泊事業、飲食業 MaRa (Matkailu- ja Ravintolapalvelut ry)
・マスメディア Medialiitto


KT(Kunta- ja hyvinvointialuetyönantajat)

ヘルシンキ市など市区町村機関や公共医療福祉に従事する労働者に対する雇用主中央組織です。


その他

話題に上がることが少ないですが他にもこのような中央組織が存在します。
・VTML(Valtion työmarkkinalaitos) 公務員の雇用主中央組織
・KiT 教会の雇用主中央組織


労働組合が特殊なもの、中央組織ではないもの

以下のような組織は少々特殊です。参考までに。

独立行政法人 Itsenäinen julkisoikeudelliset laitokset
Kelaやフィンランド中央銀行(Suomen Pankki)などの独立行政法人は民間企業や公務員とは異なり、それぞれ独自の形で労働組合と話し合い労働協約を締結しています。

中小企業の支援団体 Suomen Yrittäjät ry
雇用主(企業)の支援活動している団体も存在しています。
彼らは労働協約に対しては干渉しません。しかし雇用主の立場が危うくなると感じると他の場面で意見を出すことがあるでしょう。



組織全体のイメージ図です。主要であるEKとKTだけで問題ないので他の組織は割愛しています。



3つの立場 - Kolmikanta

労働者と雇用主の2つの中央組織政府が加わって方針を決めることをKolmikantaと呼びます。

労働環境、特に法案に関することは基本的に「この3種の組織で話し合って決める」という認識があります。歴史的背景からそうしているだけで、法律で義務付けられているわけではありません。

※3つの組織のうち2つのみで話し合いが行われることもあります。その場合は「kaksikanta」と呼ばれています。
(もちろん状況によってはあまり推奨される行為ではありません。)


まとめ

  • 労働者側の組合と中央組織

  • 雇用者側の組合と中央組織

  • フィンランド政府

この3つの立場はフィンランドの組合事情を語るうえで欠かせません。

長々と説明しましたが上記3点の立場があるということだけ覚えてれば問題ありません。「フィンランドのニュースが分かるようになりたい!」という目的があるなら組合や組織の名称を覚えるとより理解が深まるでしょう。

この記事ややこしい単語ばかりで読むの疲れた!と思ってる方へ。
次回からちょっとだけマシになります!(たぶん)

以上を踏まえたうえで、次章では「労働協定」について解説していきます。