これまでの湯治とこれからの湯治
|湯治の歴史
「湯治」(とうじ)とは、
「湯」とは温泉・療養泉・薬湯を、「治」とは治療を指し、自然に宿る不思議な地の力・温泉で養生をしてきた、日本古来の療養法であり、伝統的な養生法でした。
その歴史は、”温泉””療養”という文脈において記述された「古事記」「日本書紀」が編纂された8世紀の奈良時代にまで遡ることができます。
”湯治”という言葉が療養する温泉及びその行為として、日本で初めて記述があったのは平安時代後期に遡ります。
温泉の歴史は脈々と続き、豊臣秀吉・武田信玄・織田信長など戦いを終えた武士達、夏目漱石・与謝野晶子など日本の文豪達も湯治宿に逗留し、じっくりと傷の治療や心身の疲れを癒してきたのです。湯治がブームになったのは、江戸時代からと言われています。「湯治願」を出し温泉への旅へ出かけていった時代があり、明治大正昭和初期には、農民や炭鉱民たちが休耕期・閑散期に1週間から数カ月にわたって、骨休みのために温泉地へ滞在していた文化がありました。
|かつての湯治が育んだ「関係性」に着目したい
もちろん湯治ですから、体を癒し、傷を直し、ゆっくりとじわじわと治療していく、養生していくのが主ですが、1日の中でも温泉ばかりに浸かっているわけではありません笑。長く滞在するからこそ、自炊や街歩き、コミュニケーションも大切な、その湯治の滞在での過ごし方になります。
そんなかつての湯治場では、共に湯に浸かり、共に自分たちの身体のための食事を作り、おかずを交換したりしていました。そして新しい関係性や愛着が生まれ、またそこへ戻ってきたいという気持ちをも生んだのではないでしょうか。
この文化は日本の貴重な伝統文化風習でありながら、西洋医学の発達と温泉の表面的観光化により、かつてあった温泉で心身を癒す目的や地域とのコミュニケーションが薄まりつつあります。
|観光化された温泉と、心身をなめらかにしてくれる温泉
観光化された温泉旅館やホテルでは、ポーター・極上のお料理・ベッドメイキング等のサービスが当たり前のようにありますが、湯治場では、シンプルに温泉に浸かることにフォーカスされた「湯治宿」があります。
「観光としての温泉」は、高度経済成長期から始まっていると私は考えており、その歴史はわずか70年程度です。物見遊山として観光をし、温泉は広くて美しい湯船として、洗い場として存在するようになってしまったと考えています。それまで栄えていた湯治は時代のニーズとともに廃れていき、湯治宿の数は、流行期と高度経済成長期の比較では、日本においてわずか3%にまで減少してしまったといいます。
しかしながら、湯治宿では、食事はご自身の心身に応じた自炊が当たり前で料理のサービスは敢えてなく、眠りの時間を妨げないようお布団の上げ下げもしません。荷物の管理も冷暖房にいたるまでサービスがない・・・つまり非常に「自由で気楽な旅」ができる場所なのです。
また、元来、温泉のチカラで身体を治すための湯治にフォーカスしているので、温泉のクオリティは抜群です。温泉によって泉質、温度、風景なども全て違って個性的です。それらをよく知り、使い分ける事で最大のパフォーマンスを生むことができると考えますし、自分たちの捉え方で温泉は単なる洗い場ではなく、エステにも薬にも自然療法にもなれば、自分のこころやからだの棚卸しやリ・トリート(扱い直し)の場にもなりうるのです。心身ともになめらかに。そして、もう一度、自分の心も体も丁寧に扱い直すリ・トリートの場になると確信しています。
|自分のからだとこころを見つめ直す静かな時間
私たち湯治ぐらしは、湯治を、「自分のからだとこころを見つめ直す静かな時間」と定義します。
温泉には、頑張りすぎて疲れてしまった身体だけではなく心もゼロリセットしてくれ、あるがままの自分に戻してくれる力があります。シンプルな湯治宿は、過剰を手放し、自分を再点検する場所として最適です。自然治癒力で自己免疫をあげ、自分の身体と心がそもそも持っている力を信じ、引き上げていくことが湯治の醍醐味です。自分のために過ごす時間を持つということは、あるがままの自分を取り戻し、己を大切にするということ。あるがままに戻り満たされたら、周りの人にも優しくなれる。身も心も裸になって脱ぎ捨てたら、また新しいことを纏える。そんな気がしています。
鮮度や状態のいいナチュラルな温泉に身を浸し、身体と心と対話する。
食事は食治、自分の身体が欲しいものに耳を澄ませてみる。
自然のバイオリズムを感じる。
地域の方々のくらしを知る。
積んでおいた本を改めて読む。
その土地で採れたお茶をじぶんで淹れて飲む。
そんな過ごし方ができる「湯治の時間」を大切にしませんか。
湯治ぐらし代表 菅野静
https://toji-joshi.com/
https://www.facebook.com/kantoo1029