渾身の自炊飯・湯治飯【鳴子の名作10選】
私と温泉との付き合いは幼少期に遡ります。
両親に連れられて訪れた大型ホテル。湯よりも食事に夢中です。普段は食卓に並ぶことがない豪奢な夕餉。天ぷらに煮物に刺身、陶板焼きまで。よき思い出です。
それが、今は・・・
浴衣に丹前に調理器具、寝具までもを愛車に積載し、幾重もの山河を跋渉の末、たどり着くのはいつも簡素な湯治宿。食事はほぼ自炊です。食欲が落ちて食べれない?それもありますが、連泊で2食付ですと忽ち螻蛄になってしまいます。
それに、私の定宿がある鳴子温泉には光輝燦然の食材たちが揃っているのです。ベースとなる水に米、山の物と海の物、地元のデパートで買えば高いですが、現地で仕入れれば安いものです。いやそれどころか、頻繁にお裾分けが飛び交う異土空間でもあります。
今宵も小椋佳を聞きながら、ガスコンロに火をともします。
材料調達
関東方面から鳴子に向かう途中、必ずと言ってよいほど立ち寄るポイントがあります。「風早峠の水」、或いは岩出山近くの「轟清水」、どちらも山の天然水です。これで米を仕立てます。慣れてしまうと家の水道水で炊く米は不味く感じます。
体力的に余裕があるときは「塩釜水産物仲卸市場」へ。店舗数は100を超えるこの市場。常食する鮭や明太子、十三浜産のわかめ等を購入します。迷っているといつまで経っても市場を出れません。直感を頼りに断案します。
野菜とキノコ類は「あ・ら・伊達な道の駅」で。米は農家を兼業する馴染みの宿で。卵は「宮城開拓養鶏農業協同組合」にて購入し、おさんどんの開始です。
この時点で負けは消えました。あとは、描くだけです。記憶に残る10選、備忘録として残します。
①きりざい丼
新潟県は南魚沼地区で日常的に食されているという「きりざい丼」。以前湯治でこの地に数日滞在したときに存在を知りました。言わずと知れた日本一の米処、それに納豆と漬物をオンして混ぜていただきます。
具材に関してはこれと言った決まりのない大らかな料理のようです。私は一度五十沢温泉近くの「鹿小屋」で実食したそれの旨さに衝撃を受け、爾来丸パクリです。
めんつゆでいただいていた時期もありましたが、漬物の味がしっかりしているので今は調味料なしでぐるぐる混ぜて喰らいます。
②自然薯丼
川渡温泉エリアから車で25分のところに「道の駅 路田里 はなやま自然薯の館」があります。ここでは秋口からその名の通り自然薯を販売します。太さはまちまちですが、長さはゴルフクラブほど、私が購入したのは一番安い1,100円の物でした。
それからは毎日ゴリゴリ。保存期間は1か月くらいは持つようなので、滞在期間中にゆっくりといただきました。
③スタミナ丼
お願です、どうか私を止めないでください。自然薯も、納豆も、オクラも卵も好きなのです。ぶち込みたいだけなのです、極楽を、感じたいだけなのです・・・
私の宿痾、何の前触れもなく突如として痛みが襲います。激しく全身を打擲し、絶不眠絶食が1週間近く続くことも珍しくありません。スタミナを付けなければ。ああ、うまい。
④おみ漬け&納豆丼
「なっ、なんでお前がこんなところに!?」
私の最も好きな漬物は「おみ漬け」。山形の郷土料理です。どの程度の知名度なのでしょうか。肘折温泉の朝市で出会い、こちらに行くと必ず購入するようにしていました。
それがビックリです。なんと既出の塩釜市場の場外におみ漬けが売っていたのです。宮城の沿岸での邂逅に欣喜雀躍です。スーパーでも売っているので一度食べましたが、手作りのものとは別物と思った方がよいです。袋で縛って売っているおみ漬け、堪りません。
⑤コシアブラの天ぷら
湯治仲間、有り難い存在です。痛みを知る仲間でもあります。4月の半ばのことでした。山菜の盛り、女王とも呼ばれるコシアブラを知人からもらって来たと、ライブで天ぷらにして振る舞ってくれました。
旅館で冷たい天ぷらが出てくることありますよね。大箱になるほど仕方ないことです。出来立てを炊事場でいただくのが一番の贅沢です。最初に見たときは驚きましたが、鳴子の湯治宿では日常的に物々交換が行われます。
⑥鮭めし
私は料理が好きなわけでも得意なわけでもありませぬ。
簡単に旨いものを食べたい横着者、それ以上でも以下でもありませぬ。朝食用の鮭の切り身を焼くことさえ面倒な時は、調味料をぶち込んで一緒に炊いてしまいまする。
酒とみりん、醬油と塩とかつおだしを適当に。それで良いのさ。旨いのだから。
⑦ワカメご飯
海なし県に住む私にとって、海産物に対する憧憬は人一倍です。
塩釜の仲卸市場「千葉商店」に出ている十三浜産わかめは、好んで仕入れています。天然のものですから、以前小エビが絡まっていたこともありました。
歯ごたえのあるワカメ、海のエキスを羽釜の中で吐き出します。調味料はみりんと料理酒だけです。
⑧親子丼(しばさき丼)
「この肉美味しいですか?」
「うちの肉食ったら他の食えなくなるよ」
もう顔なじみの女将さん、以前こんなやり取りをしました。
鳴子温泉駅近くにある「肉のしばさき」。鳥も牛も豚も国産の物を扱っています。玉葱も段ボールに無造作に放り込まれ散売しているので、毎回親子丼を作りたくなります。私は勝手にしばさき丼と呼んでいます(※そんなものありません)。
やわらかいお肉が印象的です。
⑨菅原定食
鳴子温泉郷の東端、川渡温泉にあります「菅原魚店」。看板が前面道路に出ていないので見逃してしまいそうです。ですが、やっています。
中の人に「1人前」と伝えると500円ほどでお造りを出してくれます。その日の仕入れによって毎回違うネタが出ます。クジラの生肉が出たこともありました。もはや自炊とは言えない感じもしますが。
⑩イカオクラ丼
ええ、すみません、今まで黙っていて・・・
愚生、寿司ネタの中で一番好きなのがイカオクラなのですよ。わかっています、回転寿司屋にカモられていることも、もっと原価の高い物を食べたほうが得なことも。でも・・・
好きなものを好きなだけ食えるのが自炊湯治の醍醐味です、ここでは見栄を張る必要はありません。市場で購入したイカとオクラをカットしてまぜまぜ。ねばねばしてきたらドーンです。抑えきれない、、この気持ち。
おわりに
自炊湯治は「案ずるよりも産むが易し」です。
ご紹介しているもの全て、自信を持って旨いと言い切れますが、基本は余計なことをせず丼にぶち込んでいるだけです。
紙とペンさえあれば、宇宙にだって行けそうな、そんな気さえ、してくるのです・・・
鳴子には素敵な自炊の宿が揃っているので、旅館のフルコースが食べきれない方、あるいは温泉地で数日療養をしたい方、意外とやってみると快適かもしれません。
美味しい物を食べて、一日4~5回源泉に浸かり、四季を感じながら江合川の畔を散歩すれば、痛みが少し治まったような気がします。そんな気持ちを、これからも大切にしたいのです。
令和5年4月 備忘録
※①の「きりざい丼」はフォロワーのただけんさんが教えてくれました
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