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立冬の信越、源泉と美食を味わう⑨【デカ盛り再び 戸倉上山田へ】

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 旅も後半へ。結局野沢温泉では共同浴場5つと宿の湯に3度浸かった。
かつてはペース配分が分からず多湯してしまい、脱水症状を起こしたこともあるこの地。現在の私の身体にはこの程度が適浴のようだ。やはり何度来ても、野沢の湯は素晴らしかった。


   以前玩具屋だった建物の一階がリフォームされ、コワーキングスペースになっているなどの変化も見られた。街としては仕上がっており、通電状態も良好で安価な民宿も多い。ワーケーションには適した温泉街と言えるだろう。またかつての賑わいが戻ることを祈る。

 
 そんな日本を代表する「野沢温泉」。名湯と讃えられるのには十分すぎるあるエピソードが残っている。遡ること戦国時代。

 甲斐の国から北上し、その勢力を拡大していた武田信玄。一方上越から南下していた上杉謙信。意気軒昂な二人の武将は共に温泉を大切にし、兵士の治療の場として各地に「隠し湯」を確保した。

 その勢力図のちょうど真ん中とも言える「野沢温泉」は、いつ狼煙が上がってもおかしくない。だが最後まで戦火に巻かれることはなかったそうだ。

 長野県は中野市「渋温泉」までを隠し湯とした信玄。片や十日町「松之山温泉」を治めた謙信。その中間である野沢は、確かにどちらの物でもない。

 しかも交戦状態が続く中、多くの一般利用者が野沢温泉を訪れていたというのだ。推測の域を出ないが、温泉を愛し、湯治の有効性を知り尽くしていた両者だからこそ、名湯野沢を奪い合うことをしなかったのだろう。


 4日目を迎えたこの日、午前10時50分。
私は野沢から離れること1時間。その両者の合戦場となった川中島古戦場にいた。本旅2食目となるデカ盛りチャレンジ、場内にある「手打ちそば処 横綱」の開店を待っていた。

 どうも蕎麦というものは腹持ちが良くない。一人前では大の大人の胃袋は満たされないだろう。ついつい手が出てしまう「天ぷら」。考えようによっては野菜やキノコに衣を纏っているだけだ(※失礼か)。天ざるを注文しようものなら1,000円では済まない。


 日本一の蕎麦大国長野県にて、地粉の新そばを腹一杯食わない手はない。
「手打ちそば処 横綱」には、その名の通り「横綱盛」がある。1日30食限定、2.5人前の盛り蕎麦を800円でいただけるのだ。

 
 人気店と聞いていたが、開店前には誰もおらずオープンアタックに成功。だが次から次へと訪れる客。広い店内だったが10分足らずで満席に。帰る頃には入店待ちの列が出来ており、横綱盛は完売した。

 見事に「山」状に盛られた蕎麦。ウっ、と一瞬息を飲むが、相手は横綱とは言え蕎麦だ。こちらは香りはさほど強くはない上品系。のど越しと麵つゆ勝負だ。量のインパクトに負けずしっかり個性を主張する。

 繊細系の麺のためスルスルと入り、薬味で味変しながら15分で完食した。盛と味、大満足だ。東京ではこの量をこの値段ではいただけない。

 
 線維筋痛症と診断され、激痛に苦しんだ1年前。痛みから来る食欲不振は深刻で、最盛期の20キロ近く減量してしまった時期がある。あの時は1日1食、コンビニのざるそばを残してしまうほど食は細かった。
 波はあるものの、湯治生活により確実に快復。2.5人前も苦にならないほど食が戻った。


 食い過ぎた罪悪感は、キッチリと温泉で帳消しに。川中島から南、千曲市は「戸倉上山田温泉」へ。

 明治時代の開湯と、まだ新しい温泉街。善光寺参りの精進落としの湯として賑わったこの地は、街中にあり歓楽街のイメージが強い。だが意外にも源泉は超本格派、毎分湧出量は8,000ℓを超える。

 
 地元民が家風呂代わりに利用する「万葉超音波温泉」や「戸倉観世温泉」は、オープンが午前4時〜5時と超朝方。日常的に町民から愛される浴場ほど、源泉は良質である確率は高い。

 「万葉」はこの日定休日だったようで、「戸倉観世温泉」へ。
公式サイトでは朝5時開業と掲載があるが、場内に入るとその案内は間違いなく4時半となっている。

 
 共同浴場らしく、入浴料は300円。
発券機でチケットを購入し番台に座る女性に渡す。特に目隠しもなにもない番台。男女の脱衣所を見下ろすように女性が座っている。ドリフの銭湯コントで見たオールドスタイルそのものだ。

  
 既に脱衣所に漂う硫黄臭。戸を開けると不規則な八角形の湯船が。張られている湯は、濁りのないメロンソーダのようなグリーン色。完全掛け流しの美しき硫黄泉は、目でも鼻でも楽しませてくれる。

 隣の万葉が定休のためか、結構な混み具合だった。だがシャワーにまで賄われるほどの潤沢な湯量。十分に鮮度が保たれており、湯口からドバドバと流れる源泉は飲泉も可。まさに五感を刺激する良湯だった。

 どうも街中系の温泉ということで、宿泊地の候補に上がったことはない。いつかゆっくり泊まりで堪能したい温泉街の一つだ。

 最終宿泊は上田市の西、青木村へ。ラストダイブは温湯で締める。


                          令和3年11月27日

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※浴槽の写真は公式サイトからお借りしました。

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