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春の東北湯治④【温泉サテライトオフィス】

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 鳴子に到着して3日目。月曜に入り、本格的にテレワーカーとして稼働し始めた。出発前に予想外に客先との商談やウェブ会議の予定が舞い込み、オーバーワークにならぬ様タスクを整理しつつ業務を進める。

 在宅勤務と温泉ワークとの違いは、やはり身体が疲れた際にすぐに源泉に飛び込むことができる点だ。また高東旅館がある川渡エリアは、里山の景色が四方に広がり、川沿いを散歩するだけで気分転換になる。

 千思万考に疲れ切った頭も、綺麗な空気を吸い緑を見るだけで「もう少し頑張るか」と、PCと向き合うことが出来る。

 
 私も湯治に出ている時以外は当然家での勤務だが、同じ姿勢を取っていると激痛や痺れ、指が動かなくなるなどの不調とのバトルに。
 鎮痛剤を投薬しながらの生活も経験したが、いまいち効験が見えない上に副作用に苦しめられた。倦怠感が酷く業務に支障が出てしまい、結局仕事が片付かず自己嫌悪に陥った。

 そんな私の身体には温泉ワークは渡りに船の存在。これまでいくつもの宿がサテライトオフィスと化した。筆頭は高東旅館。それに沓掛温泉の「叶屋旅館」、湯宿温泉「金田屋」、沢渡の「龍名館」、板室の「勝風館」なども良かった。

 共通して言えることは、源泉が素晴らしく痛みに効くことは勿論のこと、経営者と付かず離れずの適度な距離が保たれていることだ。
過剰なサービスはなくセルフスタイル。ご主人も女将さんも正装ではなく、普段着で接客をする。

 そしてどの宿も、決してワーケーションを宣伝に使っている訳ではない。あくまで湯守として源泉に強い拘りを持ち、湯治客が落ち着いて過ごせるよう、静かで清潔な場を提供することに徹している。
 豪華絢爛な内装や食事の提供もなく、何れの宿も全くというほど拝金主義を感じさせない。

 結句、私は心身の快復のために安穏の地を選び、たまたまそこにWi-Fiがあったという格好だ。さらに言えば、ポケットWi-Fiをレンタルすれば別に宿に回線がなくてもどこでもワーケーションスペースになるのだ。

 
 和室の座卓問題だが、私はフロントや談話室などを間借りしたり(平日の昼は人がいないので)、宿にお願いをして折り畳みのテーブルと椅子を借りることで肩や腰の痛みを回避している。
 元々温泉宿にはお年を召された方も多く訪れるため、椅子とテーブルで過ごしたいというニーズは少なからずあるはずだ、なので意外と頼むと備品がストックされていることもある(必ず事前に確認)。

 高東旅館の本館の部屋は上がり框を挟み、6畳間の奥に板の間が続く。そこに机と椅子を置き、完璧なワーケーションルームをメイキング。昨年設置されたWi-Fiルーターも大車輪の活躍だった。

 一人で温泉で仕事。躊躇している方も多いかと思うが、案ずるより産むが易し。勇気を出してやってみると、その快適さに驚くかもしれない。

 鳴子温泉初挑戦のAさん。私より一足先に高東旅館を出て行った。
到着した時は色々と戸惑ったかと思うが、旅立ちを見送る際に会話をすると随分と満足されていたようだった。

 談話室にて、目を輝かせながら「色んな温泉に行きたい」と話していたAさん。これからまた他の旅館に移り、湯を愉しみつつ仕事をするという。
 
 どの宿が一番良いかなど答えはないので、是非色々なところでワーケーションをして、自分だけのお気に入りの宿を見つけてほしいと思う。


 でもいつかまた、高東で会えたら。

                           令和4年4月21日                          

A さんバイバイ 良き旅を
温泉ワーケーションスタイル 
①横川温泉 千代田屋(静岡)湯治棟の別室を使用
② 宮下温泉 ふるさと荘(福島)
縁側テーブルにて
③五十沢温泉 ゆもとかん旧館(新潟)
入口すぐの居間を使用 ここはWi-Fi圏外のためテザリング対応
④板室温泉 勝風館(栃木)
椅子とテーブルを借りスペースメイキング

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