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秋の鳴子温泉湯治②【往路~板室勝風館で一緒に湯治】

<前回はこちら>

 板室温泉「勝風館」にて、かつて一緒に湯治をした人物がいた。他でもない、実はこの宿の館主。

 以前3泊でこちらで湯治をした時のことだった。毎日夕食を終えた後、定刻に浴室に現れる大柄な男性。ゆっくりと湯に浸かりながら、左の拳を開いては閉じ、そして肩関節をコンパスに前に後ろにグルグル。ちょうど水泳のクロールと背泳ぎを繰り返すようだ。

 大病を患い、左半身に麻痺が残ったという御主人。隣町の大型の病院に入院していたというが、退院の時期を早めて自宅(宿)での療養を申し入れたのだという。

 一目で分かる温雅なお人柄。碩学で、研究熱心。
以前地元の有力者とヨーロッパにまで出向き、現地では保険適用が通例の「湯治」を視察した経験もあると教えていただいた。

館主 「向こうは監視員みたいな人がいて、プールみたいに時間をキッチリ計っているんです。少し落ち着かないですけどね」
私  「保険が効くのは凄いですね」
館主 「海外の湯治の良いところを上手く取りいて、ここ(板室)でも色々取り組みをしているんです。温泉ワーケーションプランも街で打ち出しています」
私  「私も仕事をしながらここにいて、環境は最高です」

館主 「こんなに温い源泉(40度)ですが、再生可能エネルギーとしても使用しているんですよ」
私  「今回ストーブを使っていないのですが、部屋も廊下も暖かいです(※宿泊は真冬の頃)」
館主 「あれは源泉の熱を活かしているんです。40度でもバカにならないパワーになるんですよ」

 私も痼疾があり、湯治をしていることを伝えた。
本当は関東近辺で自炊が可能で、長期滞在が出来る宿を探していることも。そして遥か北、鳴子温泉へ通っていること。

館主 「この辺りも自炊宿が幾つもあったのです。ですが大きな火災があって、延焼してしまって」
   「消防法の問題で、今は規制が厳しいんです。自炊施設を作るには建物を本館と分けて、木造ではダメなんです」  
私  「そうなんですね」

 私は全身をストレッチをしながら、御主人は腕をグルグル。まさに「湯で治す」。病院でも施設でもなく、館主自らの宿で。



 湯治に欠かせないもう一つの要素、それはバランスの取れた「食」。
毎日異なる健康的な勝風館の夕朝食は、鯛も蟹もステーキも出ないが、山のものを中心とした家庭料理。美味しいお米に味噌汁と、主食と副菜は出色。

 週に一度、炊き込みご飯が出るというこの宿。今回初めてその日に当たった。旬の栗ご飯だった。こちらに通ってから10年近く、初めてだったかもしれない。変わらぬ美味しい食事に大満足だ。

 好転反応(※温泉療法の過程で訪れる一時的な体調不良)に気を付けながら、長湯は控えての2泊の滞在。チェックアウトの際は少々後ろ髪を引かれる思いだ。

 
 今回は御主人と同浴することはなかったが、フロントでお会いした際に色々と話をさせてもらった。

私  「あれから、体調はいかがでしょうか?」
館主 「お陰様で日常生活はほとんど問題ないまでに回復しました」
   「左手の握力が弱いのと、時々左膝がガクッと抜けてしまうんです」
私  「階段の昇降は気を付けないとですね」
   「でも、こんな素晴らしい温泉に日常的に入れるのは羨ましいです」
館主 「それだけは本当に感謝しています。病気をして、改めて板室の湯の良さを知りました」

 この話を聞けただけでも私は嬉しかった。
私同様、湯治で回復している人は確実にいる。板室の全ての宿に宿泊した訳ではないと前置した上で、「勝風館」は本当に素晴らしいと末筆に添えたい。

 翌朝、私は朝食後すぐに北へと向かった。湯治の聖地「川渡温泉 高東旅館」へ。

つづく

                           令和4年9月18日

何度行っても素晴らしいお宿です
左下はご主人のイラスト
パンフレットによると夏は蛍も出るようだ
家庭料理と旅館の料理の中間
ゴーヤが美味しかった
夕食一例 私には少し多いくらいか
シンプル朝食 これくらいでいいのです
このタイルも善き 無色透明石膏臭あり
暫しお別れ さよなら板室温泉

板室温泉 あったか~い宿 勝風館
2食付:8,950円(税込)~
※連泊すると段階的に安くなります
10泊以上:7,630円(税込)~

<次回はこちら>

<板室勝風館については、以前にも詳しく紹介しています>

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