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源泉回顧録【下部温泉湯治③ 長湯で効かせる】

<前回はこちら>

 ※こちらの記事は2021年3月の日記を加筆修正したものです。

  「源泉館」の岩風呂にいよいよ着湯。30度の源泉、一瞬ヒヤッと冷感が全身に走る。半可通の温泉ファンであれば、「冷たい!」と言って退湯してもおかしくない温度だ。
 だがここからが治療の本番。右顧左眄せず「効き」始めるのじっと待つ。有難いことに、ものの一分足らずで湯を捉えることに成功。内側からジワジワ効いて来た。

 宿の推奨する入浴方は、20分間の源泉浴槽に浸かり、階段を上がったところにある上がり湯(41度くらい)に3分。これの交互浴を一日上限5回まで繰り返すというもの。
 「会話はお控え下さい」と言う注意書きは遵奉できた入浴客も、この推奨には従えないようだ。温湯が効き始めると、あまりの気持ち良さに退湯するタイミングを逸し、気が付くと30分、1時間とすぐに経過してしまうのだ。

 これぞ信玄の隠し湯の真骨頂。予想以上の効きに思わず頬が緩む。低体温症にならぬ程度に、時折41度の上がり湯へ場所を移す。
 この浴場には多くの方がペットボトルを持参している。チェックインの際に空のペットボトルを渡されるのだ。加温浴槽の横にある源泉湯口で源泉を汲水。滞在中の飲み水はここで確保する。

 ヨーロッパでは温泉は「飲む野菜」と呼ばれ、EU諸国では日本人の10倍~20倍の飲用としての消費量を誇るという。
 数十年もの年月をかけて地層を這い上がり湧出する源泉は多くのミネラルを含む。日本人にも人気の飲料水「エビアン」も実は温泉水。フランスとスイスの国境に位置する温泉地の名前が由来となっている。
 
 下部温泉は「飲み湯番付」で東の横綱にも選ばれているほどの美味泉。
市場に出回っている飲料水は4つに分類されており、多くの商品は人工的な手が加わっている。下部の源泉は地下から汲み上げ、天然ミネラルを含む「ナチュラルミネラルウォーター」に分類されている。
 市場に出回ると1ℓ200円と高価で取引されるため、ここぞとばかりに多飲した。

 長時間の浸湯で利尿作用も働き、体内の悪いものが流れて行くようだ。
ファーストダイブは約2時間半。到着時よりも明らかに身体の痛みが引いている。
 多くのプロスポーツ選手や力士も湯治に訪れるという下部温泉。何度来てもその源泉力には驚愕だ。病に伏して尚、その有難さが身に染みる。


 部屋は湯治場らしく4畳半1間。流し台は部屋付き、トイレは別で共用。古い建物だが寝泊まりするには十分なスペック。2方向に面しているが窓からは両隣の廃墟の壁面しか見えない。

 一部の部屋にはWi-fiが入るとのことだったが、私の部屋には入らず。まあ湯治場なので想定内。一部の部屋がワーキングスペースに改装されており、そちらで作業を行った。だが、いかんせんWi-fiが弱い。こちらでの滞在期間中は湯治に専念することに。


 翌朝、恒例の温泉神社の参拝から。源泉館の本館と別館の間に鳥居があり、階段を上ると本殿がある。全身痛を抱える身にあってはなかなか酷だが、これもリハビリの一環。毎日参拝を怠らなかった。

 こちら熊野神社には、下部温泉の効能を信じ日本全国から患者達が訪れる。願い事が本殿の壁面に無造作にマジックで書き込まれている。また、離れの小屋には松葉杖が大量に収められていた。

 ここでは年に一度、松葉杖の供養祭が行われている。5月3週に行われる松葉杖の炊き上げ、3月中旬の時点で既に数十本奉納されていた。
 医療に限界を感じた患者達が、最後の望みと湯治に一縷の望みを託し、杖を突いてここまで登り平癒を祈願し神に奉納するのだ。

 170段の階段を上るのはイージーではなかった。寒さもあり、全身痛の中でも変形してしまった左膝が特に痛む。だが一歩一歩、確実に入眼に近付くようだ。途中休憩を挟みながら10分ほどで完登。

  
 原因不明、進退両難の病を受け入れ、暫しこちらでお世話になります。 荘厳な本堂に向かい、完全復帰への祈念と源泉への感謝を込めた拝礼。
 

 さあ、今日も早速源泉へ。
ヤバい、、足が棒になって動かない。

                         令和3年3月ごろ

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