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さすらいの秋旅 弾丸三県湯巡りへ①【那須湯本 激湯譜】

 金曜の昼過ぎ。私は都内の大学病院で診察を終え、家には戻らずそのまま高速で北を目指した。

 出立を思い立ったのは数日前のこと。
冷えと共に正比例する全身痛。寒暖差の激しいこの時期、身体はその変化に対応しきれず、朝方は激痛と共に指の動きが悪くなるなど、症状が出始めていた。

 また身の上話。
勤務先が決算月を迎えるにあたり、大きな組織改正が行われようとしていた。この1年間、闘病生活が主となった私にも配置転換が発生した。私の病状を最大限憂慮いただいた異動となり、会社及び上席には感謝してもしきれない。

 とは言え、これまで上席の雅量で認められていた湯治場でのリモートワーク。新体制となってはどの程度許容されるかは、11月以降不明瞭だ。いきなり、「湯治場に行ってきます」という訳にもいかないだろう。

 
 今後は週末トラベラーになることも勘案しつつ、10月中に旅に出たかった。次回の大学病院での診察は5日後となり、3泊4日の旅程を企てた。



 夏場は温湯でじっくりと、冬場は熱湯でガツンと効かせるのが鉄則。
短時間の入浴で身体の内側から効かせ、保温効果が持続する源泉が望ましい。
 

 採血と筋肉注射を終えた約3時間後、17時に到着したのは「那須湯本温泉」。開湯1,300年の歴史を誇る本地、東京からアクセスの良い高原リゾートとしてファミリー層にも盤石の人気を誇る。


 車から降りた瞬間に鼻を突く硫化水素臭は、いかにも「温泉に来た」と思わせる説得力。シンボル「鹿の湯」は、洗い場がなくシャンプーやボディソープの使用も禁じられ、湯治場の雰囲気に触れることが出来る名勝と言えるだろう。


 こちらには木枠の浴槽が6つあり、41、42、43、44、46、48度にそれぞれ調整されている。短熱浴をすると最も効果があるとされ、多くの観光客が高温浴槽に挑む姿が散見される。
 
 激湯チャレンジを温かく見守る地元民、その微笑ましい光景は毎週末この浴場で観覧することができる。

 

 私はこれまで幾多の激湯に揉まれ、かなり熱湯耐性は強いと自負している。
 東鳴子(宮城)の「馬場温泉共同浴場」は、シャワーもカランもなく、二人ほどしか入れない小さい湯船に50度近い黒湯源泉がドバドバと流される。

 逃げ場のない激湯ラビリンス、スマホのアラームをセットし何とか5分をクリアした。脱水症状が起きたのか、翌日は血尿が出るほどだった。


 福島県飯坂温泉「鯖湖湯」も激湯で知られている。
観光客が来る時間帯は加水により適温になっていることも多いが、私が狙ったのはオープンアタック。地元のお爺さん3名に囲まれる中、無加水で5分程のダイブを決めると拍手が起こった。


 余談だが、唯一私が入浴を諦めた浴場がある。青森県は下風呂温泉の共同浴場「新湯」。
 早朝に意気揚々と向かった丘の上の浴場。番台さんの、「まだ熱くて入れないよ」という制止を振り切っての挑戦だった。どうやら時間をかけて加水をし、適温になるまで相当な時間がかかるようだった。


 足元にかけ湯をしただけでバーナーで焙られるような凄まじい熱さ。
何とか膝下までは浸けることが出来たが、とても人間の入れる代物ではない。フル開放で加水をしつつ30分格闘したが、一向に湯に浸かれる気配がなく無念の退館。

 後にも先にも、肩まで湯に浸かれなかった浴場はここだけだ。


 いつかリベンジを、、、と思っているうちに、下風呂の共同浴場は1年前に取壊されてしまい、もう2度と「新湯」に挑むことは出来ない。



 夕刻に到着した鹿の湯では、ファーストダイブから44度へ。肩慣らし程度に5分浸かった。46度からは一気にレイヤーが上がり、多くの観光客はここで挫折する。

 鹿の湯の浴室には壁掛の時計があり、また多くの地元民は砂時計を持参している。私は常連のお爺さんに合わせ、46度浴槽に身を沈めた。
 サラサラとピンク色の細い線が落ちる砂時計。


私  「こちらは何分計ですか??」
男性 「3分計だよ」、「よく入ってられるね」
私  「ここなら何とか」


 意外とあっさりと46度をクリア。暫し身体を休めた後、遂に48度へ。
先ずは足先から、ゆっくりと体育座りをするように身体を屈めていく。何とか肩まで着湯した。

 「ガツンッ!!!」

 高温と強酸性と相まって、流石にビリビリと来た。とてもじゃないが、3分は入っていられない。結局1分で茹蛸状態になってしまい、床にペタンとへたり込んでしまった。


 だが、久しぶりにパワフルな源泉にまともに対峙。しばらく恍惚感に浸る。自画自賛のナイスダイブだった。

 さっきのお爺さんと目が合うと、ニコッと微笑を浮かべた。

 「なかなかやるじゃないか」

 そんな声が聞こえてきそうだった。


                         令和3年10月16日

※鹿の湯浴室の写真は公式サイトからお借りしました

<次回はこちら>

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