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「読解の土台」になり得る一冊

川添愛さんの著書『言語学バーリ・トゥード:Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』を読みました。


【バーリ・トゥード】
ポルトガル語で「何でもあり」の意味で、ルールや反則を最小限にした格闘技の一ジャンルを指す。(中略)「言語学バーリ・トゥード」という連載名は、担当T嬢が筆者に「何を書いてもいいですよ」と言ったことに由来する。

37頁『注文が多めの謝罪文』の章より引用

東京大学出版会が毎月発行する冊子『UP』に、3か月に一度の頻度で掲載されていた文章をまとめた一冊です。

しかし川添さんご自身も「まえがき」で仰っていますし、書名や表紙イラストからも伝わるかと想像しますが…。
東大の出版部発行の冊子だから、といった堅苦しさは一切ナシ。肩の力を抜いて気楽に読みながら、言葉の面白さと奥深さを覗き見できる内容です。


初めて読んだのは2022年でした。
しかし、noteを始めて日記も書いて……とアウトプット量が格段に増えている今のほうが、読んでいて圧倒的に楽しかった。
(特に「は」と「が」の違いを、noteに限らず日常的に書く文章でも意識できるようになりました)

AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか
ら抜き言葉のメリット
・街で見かけた変な文

といった他の話題も、アウトプットを習慣的に行なっていなくても、自分ごととして興味を抱ける内容ばかり。
だからこの本の紹介記事を書くにあたって、どの話題を取り上げようか悩みました。


決め手になったのは、何となく読み返したくなって手に取った、とある本です。
(書名と著者名は伏せます)

初めて読んだ時も、時間を置いて再読した時も、しっかりと得るものがあった。
だからずっと手許に残してきたし、今回もまた久々に読み返してみようという意欲が湧いたわけです。

しかし。
相変わらず頷ける点が多いけど、なんだか読んでいてモヤモヤする。
こんなモヤモヤは、今までにその本を読んできた中では一度も感じたことがなかったものです。

読み進める度に、そういうモヤモヤにちょいちょいぶつかるのが気になってしまい、やむを得ず読むのを中断。
そこでようやく思い当たったのが、川添さんの本で読んだ『本当は怖い「前提」の話』という章でした。

前提には、「ただの主張を前提として述べると周知の事実のように聞こえ、疑われにくくなる」という効果もある。


111頁『本当は怖い「前提」の話』の章より引用

モヤモヤの正体、まさしくこれでした。
特に裏付けも無い著者自身の主張や主観を、しれっと「世間一般の共通認識」という前提で述べる語り口。
(そこからは、読み進めるうちに感じる違和感を「本当にそうかな?」と問う読み方に切り替えました)


読んだ順番は完全に気まぐれです。
でも乱読を信条として実行していると、不意にこういう巡り合わせが起きることも少なくない。
行使される「前提」に、今まで一度も違和感を抱かなかった事実には空恐ろしいものを感じつつ。気付きをもらえた川添さんの本に感謝しています。

軽い読み心地ながら「書き方」にも「読み方」にも通ずる土台を固められる一冊だと思います。機会があればぜひ。


#66日ライラン23日目


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