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パ リ の 花 束



エメラルドの瞳、白い肌、
栗色にカールのかかった髪。

ひとりの青年と、すれ違いました。


パリの街は曇り空。
風はなく、穏やかで
過ごしやすい気候です。
カフェのテラス席では
人々が、おしゃべりと軽食を楽しんでいる
そんな午後のことでした。


青年は
細いフレームの丸眼鏡をかけ
白シャツに黒のニット、
それから
ネイビーのオーバーコートを重ねています。

個性のあるお店が立ち並ぶ鮮やかな通りで、
シンプルな出で立ちのその青年を
ふと目で追ってしまったのは

彼が、胸に溢れるように抱えていた花束が
ひときわ美しかったからです。



乳白色からベビーピンクの
グラデーションがかかったチューリップ。
薄紅色のスイートピーと真っ白な鈴蘭。
合間に散りばめられたグリーン。
まだ蕾のまま
咲くのを待っている花もあります。
白い包装紙のラッピングを
たっぷりしたリボンで結っている
それはそれは愛らしい花束でした。




青年は小走りで
どこかへ急いでいるようです。
通り過ぎていく方向へ視線をうつすと
彼は
一棟のアパルトマンの扉の前で
立ち止まりました。


高さ3メートルはあるかという、
重厚で風格漂うパリの扉は
美しい彫刻が施された木製で
ノブは金色の、豪華な装飾です。


扉を前にした横顔は
どこか真剣で
走っていたせいか、
白い頬が
柔らかく桃色に色づいています。


前髪を軽くととのえ、息を落ち着かせ、
花束をやさしく抱き直して。
重い扉を押し
彼は、扉の向こうへ足を踏み入れました。







あの扉の先に
どんな出来事が、彼を
待っているのでしょうか。

彼の頬を染めたのは
そこで待っている“出来事”や“誰か”
のためだったのでしょうか。



想像をするだけで
胸のスクリーンに
素敵なシーンばかりが流れ
瞬間、
頬の熱がふあっ、と上がりました。



パリの花束、それから
純粋な色をした眼差し。
それは
爽やかなロマンが香る、
青春のドラマでした。



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