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美しく着るということは


喫茶店の窓から午後の街並みを
ながめていたときです。
交差点をゆく、
お洒落上手なひとを見かけました。

白いシャツに重ねているのは、
エメラルドグリーンのたっぷりしたセーター。
シャツの襟元には
ネイビーと緑と白のチェック柄スカーフが、
ちょうど
セーラー服の三角タイのように
結んであります。

バッグは黒のショルダー。
ボトムは濃いデニムの長いタイトスカート。
真っ白の靴下と
黒く艷めくバレエシューズの組み合わせが、
茶目っ気ある清潔感を生んでいます。

髪先をぱつんと切った栗色のボブで
縁の丸い眼鏡をかけている女のひと。


はっと目を引きました。
スポーティな配色のチェック柄が
遊び心ある見事なアクセントになって
秋色に色づきはじめた街に、
さわやかに映えていました。





「服を着る」「装う」ということって
とても社会的なことだと思うのです。
自分が今どんな気分か、
どんなふうに生きているかを
一瞬で周りに伝えられる。
そして、忘れがちだけれど、
その姿を自分自身で見ることは、
鏡や写真を通してしか不可能なのです。
当たり前だけれど、つまり、
ファッションってほとんど、
それを見る人のためのものだな、と
思っているのです。
Lily 日々のカケラ 石田ゆり子



お洒落は、自分が楽しむためにするもの
とばかり思っていましたけれど
たしかに
お洒落は、見てくれる人に向けたもの
でもあります。


「私のことを、あなたに知ってほしい」
「あなたに、少しでも良く見てほしい」
「これを着ると、あなたはどう思うだろう」
という
キュートな欲望とステキな緊張感が
お洒落心を育てます。


美しく服を着ること、
美しく服を着たいと願うこと、
それは、相手への
きよらかな心配りだと思うのです。



お洒落上手なひとを見て
私まで心なしか軽やかな気持ちです。
カップのミルクコーヒーを飲み終えて、
時計はまだ3時半を差しています。

秋の昼下がり。

私もさっそく
新しいスカーフを一枚、
探しに出かけようと思います。


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