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東京大学2012年国語第4問 『ひとり遊び』河野裕子

 歌人による随筆という東大国語第4問でも異質な出題。ただ、短歌の解釈で迷うところはあまりなく、実質的に短歌以外の文の読解が問われる。
 設問(二)では行間の読み取りが、設問(三)ではいかに簡潔にまとめるかが、それぞれ問われるように思う。

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(一)「私は黙って障子を閉めることにした」(傍線部ア)のはなぜか、考えられる理由を述べよ。
 設問には「考えられる理由を述べよ」とあるので、理由がすべて本文中に明記されているわけではなく、文脈から推察した要素を補充するしかないと考えられる。
 第1段落に「下の子は、切りくずの中に埋まって、指先だけでなく身体ごとハサミを使っていた」「熱中、夢中、脇目もふらない懸命さ、ということが好きである」とあり、第2段落に「ただただ一心に紙を切っているのである。呼んでも振り向く様子ではなかった。熱中。胸を衝かれた」、「夕飯は遅らせていい」とある。
 また、第10段落には「子ども時代が終わり、少女期が過ぎ、大人になってからも、ずっと私はひとり遊びの世界の住人であった」ともある。
 つまり、はっきりと書かれてはいないが、筆者は、夕飯に子供を呼ぶため、いったん障子を開け、部屋に入ろうとしたのだが、自分の子供時代の経験からも、その一人遊びを中断してはいけないと思い、声をかけないことに決めたので、「黙って障子を閉めることにした」と考えられる。
 以上のことから、「幼少期からずっと一人遊びが好きな筆者は、紙切りに夢中になっている子供の姿に感動し、夕食に急かすよりその遊びを優先させたかったから。」(65字)という解答例ができる。

(二)「それまで自分の周囲のみが仄かに明るいとだけしか感じられなかった得体の知れない、暗い大きな世界との、初めての出逢いを果たす」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。
 傍線部イの直前に「子供は、ひとり遊びを通じて」とあり、傍線部に続いて「人間と自然に関わる諸々の事物事象との、なまみの身体まるごとの感受」「その時の、鮮烈な傷のような痛みを伴った印象は、生涯を通じて消えることはない」とある。
 以上のことと傍線部のことばから、「子供は一人遊びを通じ、後々も痛烈な印象として残り続ける体験をすることで、それまで未知だった世界の広がりを身体全体で感受するということ。」(67字)という解答例ができる。

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958字
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