もらったホットソースは食えたもんじゃないけど、こういうのは嫌いじゃない
— Yuki、そういえば、ずっと聞きたかったんだがね、辛いものは苦手じゃないかい?ワシらカリブの人間はね、何にでもホットソースをかけるんだよ。とびきり辛いのをね。ワシはそういうソースも作っていてね。嫌いじゃなければ、試してみないかい?
マルコム(大家)が珍しく慎重に、ぼくに気を使った口ぶりでそんなことを尋ねた。
ホットソース…。いわゆるトウガラシのソースだ。ベリーズではたしかマンゴーにだってかけて食べるほと、ほんとにカリブでは何にでもとりあえずホットソースをかけるらしい。
ホットソース…。そういえば、セントルシアでマスタードだと思ってかけたらヒドい目にあったなぁ。
けど、あれも慣れて楽しめるくらいにはなったから、たぶん大丈夫だろう。辛いものは苦手ではない。
そう思って、マルコムの「ほんとに気をつけろよ、君の叫び声を夜聞くのは勘弁だ」とかなんとか言ってるのをまた大袈裟なことを…と聞き流して、そのホットソースをもらった。
いやぁー、びっくりした。
なにも感じなくなってしまった。
普通、そういう辛いものって、言っても辛味の中に何かある。旨味的なね。
ハバネロとか、ジョロキア的なただ辛いだけのやつってあるじゃない?食べ物というより、エンターテイメントとして楽しむ位置付けの。
あんな感じ。
ただ舌が痺れるだけ。
辛いとかそういう次元の話じゃなくて、ただ痛い。
ぼかぁ、びっくりしすぎて口を開けたまま一点見つめをしばらくしたよ。
セントルシアのやつなんて、めちゃくちゃ辛いけど2回目からは慣れて楽しめたけど、これはそんな兆し感じないもの。
まったく、ヒドい目にあった。
日々の楽しみの1つであるディナーが台無しになってしまった。
翌朝、その旨をマルコムに伝えると彼はケラケラ笑い、庭師のおじさんもケラケラ嬉しそうに笑った。
ぼくはこういう瞬間は嫌いではない。
ぼくも日本にいたとき、外国人の友達に彼らが苦手そうな日本の食べ物を食べさせるのが好きだった。(ぶっかけとろろ蕎麦とか)
オランダ人にリコリスの黒い飴のようなものを食べさせられたときは、こんなクソ不味いものを好き好んで食べるなんて奴らはどうかしてると思った。
ぼくも何人かの外国人の友達には同じことを思われていると思う。
けど、それこそ文化交流という気がするし、全部好きになる必要はなくて、ただそういうのを好きな人もいると認める態度とか、自分の文化を卑下することなく披露し合えるとう関係性というか雰囲気がぼくは好き。
またひとつ、マルコムと親密になれた気がする。
- ワシも初めて食べた時は舌を氷で冷やしたものだよ、ま、一種の洗礼のようなものだね。
と、今度はこれを試してごらんとマイルドなものをくれた。
そのマイルドなソースは、たしかにホットペッパーで辛いんだけども、フルーティーな風味があり、とても良かった。ぼく好みのものに仕上がっていた。辛いことには変わりはないけども。
最初からこれをくれれば良かったのに、なんて性格の悪いやつなんだと思ったけれど、ぼくも同じことをやって、まずは洗礼を浴びせてるだろうからセオリー通りではある。
マイルドな方はすごく気に入ったよと伝えると、ワシはクリエイティブだからねとウィンクをかました。62歳なのに。
これがカリブ。嫌いではない。
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