途上国でフィッツジェラルドを読んでも全然響かねぇ
ずっと読まず嫌いにしていたフィッツジェラルドのグレート・ギャツビーを駒ヶ根にいたときに読んだ。
とても良かった。
地方出身の主人公が同じく地方出身の成金の富豪ギャツビーとの交流と、彼の人生を描いたものだけれど、言いようのない孤独がそこにあってとても心に沁み入った。
駒ヶ根で訓練を受ける直前まで、ぼくは東京で会社員をしていて、作品の中で描かれていた雰囲気や感情はぼくも痛いほど東京で感じていたものだから。もっというと、淡路島から出て神戸に出たときにぼくはそれに気づいた。
都会で生まれ育った人たちの「普通」が、田舎で育ったぼくの人生にはないと気づいたときの惨めさというか、劣等感。
決してぼくが不幸な家庭で育ったというわけではない。ぼくも妹も大学にいかせてもらったし、欲しいものはおよそなんでも買ってもらえた。何不自由ない人生だったと思う。
けれど、なんだろう。文化資本の差なんだろう。
高校で留学するという発想がなければ、そもそも外国人を見たことも中国人韓国人含めてほとんどなかった。ALTで中学校に代わる代わる来た3人くらいだと思う。海外旅行だって行ったことなかった。行きたいとも思わなかった。
親からは国公立の大学に行きなさいと言われていたけれど、そこまでの本気度は感じなかったからそんなに勉強をしなかった。大学の学部選択は成り行きだった。結果的にそこそこの大学に入った。小学校の同級生の中では2人しか大卒いないし。
何が言いたいかというと、淡路島でのぼくは悔しいことはいっぱいあっても劣等感を感じるようなことはなかった。
それが神戸に出て、周りの人が自分にはないものばかり持っていたり経験していたりすることに気づいた。話に入っていけなかった。自分は井の中の蛙だったんだと明確に思った。
人は10代の頃に手に入れられなかったものに一生執着する
と誰かは言ったけれど、自分もその例に漏れないなと思う。
10代の頃に手に入らなかったものを過大に評価していたり、ひねくれて嫌悪していたり穿った見方をしている。このバイアスはたぶん、ぼくはずっと持ち続けると思う。
そういうのが、グレート・ギャツビーでは存分に描かれていて、なんならいくらキャッチアップしても満たされることはないし、田舎者の苦労はすべて何の苦労もなく揃った人生を歩んで来た人にはわからないという絶望もついていた。
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そういうバックグランドもあって、フィッツジェラルドの孤独やそれをなんとか取り繕おうとする自尊心はわかりみが深い…なんて思っていたもので、たまたま短編集をkindleで見つけてポチッた。
1作目の氷の宮殿を読んだのだけど、とても良かったんだけれど、よくできてたんだけど、全然響かなかった。
内容は、アメリカの南部でお高くとまってた子が望み通り北部の裕福な家に嫁ぐことになったんだけど、ぜんぜん文化も気質も合わなくて逃げ帰ってくるっていう話。
馴染めなかったんだろうなぁという誰も悪くないんだけれど少し哀しい話でぼくのナルシズムを刺激するタイプの孤独がある好きなジャンル。
けど、グレート・ギャツビーほどじんわり染み入る感じがなかった。
それはグレート・ギャツビーが傑作だったり、ぼくのフィッツジェラルドの初見だったこともいくらかあるだろうけれど、読む場所、環境の問題もあるんだろうなぁと思う。
ぼくのいる、セントビンセントはカリブ海の島国なわけで、リゾート地なんだけれど、格差激しい決して豊かとはいえないところ。
作品の舞台設定とか、バックグランドとかけ離れ過ぎている感が否めない。
だって、ここは生きるのに必死感のあるタイプなところではなくて陽気なタイプの国だもの。ぼくも影響されて陽気なパリピになりつつあるもの。
JICAから支給される生活費が平均ほどで、この国の裕福なサービスを受けるには少々心許ないけれど、その裕福なサービスは日本では普通に受けてたりするわけで(つまり知らないわけではない)、地元の平均的な人とまったく同じ条件で生活せざるを得ないわけではないから、その人たちの感情になりきって読むこともできない(ぼくにとっては手が届かないわけではない)。(※地元の人たちの生活がわからないという意味ではない、決して)
だって、自分の内なる心を刺激されているわけではないから。ぼくはこの国では、この地では「持たざる者」ではなく、「持っている」側の人間だから。
たぶん、フィッツジェラルドの本は、せめて地元ではないビルのある都市部で読むべきなんだろうなと思う。
良いけど、なにか違うっていう違和感がずっとある。結局、短編集の1作を読んだだけで、積読になりつつある。なっている。
バックグランドは変えようはないけれど、雰囲気が大事という仮説も確かめたいから、キューバでヘミングウェイでも読もうかしら。ヘミングウェイも読まず嫌いでいたままだから。
本を読むのは好きだから、心地よい読書体験というのをちょっと求めてみたい。
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