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すてきなしごと

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私が出会った、たくさんのすてきな大人たち。 もし、自分が子どもに、「職業」をつたえるならば、こんなふうに伝えたい。
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記事一覧

名刺

名刺を持たなくなって何年だろう。出産を機に退職してからだから丸2年か。気持ち的にはもっと長いように感じる。

今は大して仕事をしていないけれど、時々名刺交換の場に出くわし、その度に居心地悪い気分になってしまう。いつも相手の名刺をいただきっぱなしでお返しに「ごめんなさい、名刺がなくって」と言い訳を添えているのだ。
そもそも、名刺交換時に名刺を渡せないことが失礼にあたるのかどうか。正直なところ、よくわ

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割れると、継ぐ

今日と、それから昨日と、つづけて食器が割れた。今日は夕食のときにオットがグラスを運んでいたときに手を滑らせて、昨日は夜、洗い物をしているときに私がガラスの蓋をシンクに落としてしまって、割れた。それは一瞬の出来事で、形あるものが姿を変え、形のないものになってしまう。どうしようもなく、切なく、心が痛い。

私はこれまでに何度も大切な器を割ったり、欠けたり、そのたびに心がぎゅーっと、そしてそのあと自分の

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色とりどりのリボンと風船

父の日のプレゼントを買いに出かけた酒屋のレジには、色とりどりのリボンと風船が並んでいる。ラッピングをお願いすると、リボンの色はどうしますか?と。じゃあ緑系で、と答えると、では、、とたくさんのロールされたリボンから、何種類かのリボンをシュルシュルと出してみせてくれた。皺や折り目のまだついていない新しいリボンはどれも鮮やかで美しい。私は、そのなかから深いオリーブ系の緑を選ぶ。お店の主人はシルバー色の素

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家具職人

彼はスタジオにたくさんの作品を持ってきてくれました。放送のときに使用させていただくダイニングチェアやスツール、花器、額、そして鉋などの仕事道具まで、まるで工房が小さくスタジオに出来上がったようでした。鉋をシュッシュと二、三度ひくと、かつおぶしのようにうすい檜の衣がはがれ、と同時にふわりと上質の檜の香りが鼻をかすめました。

放送のはじまる前、まだ打ち合わせだというのに、彼に尋ねると、とても親切な回

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「主婦」

どうしても「主婦」という言葉に馴染めない。「主婦」。ときに、肩書きのようにひっぱりだされるこの言葉がどうしても好きになれない。言われるたび、言うたびに、「自分は主婦なのか?」って心の底のほうでたずねている。たずねながら、拒否したい自分がいることに気づく。

「(週に一度の仕事以外は)主婦をされてるんですか?」今日、ふと尋ねられたこの質問に、小さなショックを受けた自分がいて驚いた。頭のなかがすごいス

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優しく強い、現代美術作家

彼の作品を事前に見せていただいた。国宝級の建築をまるでジオラマの世界に創りあげたような、緻密で精巧、それでいて力強い作品。そうかと思うと、今度は、手のひらに乗るような、細く、小さく、軽い、糸や髪の毛を材料に作られた作品。いずれも共通するのは、正確で根気のいる作業であること、だ。きっと、真面目で、クールな作り手なのだろう、と。少しの緊張感で、彼を待った。

私の前にあらわれたのは、あたたかそうなカラ

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more Voice!

ラジオから、広島が生んだMr.DJ、レジェントと呼ばれるディスクジョッキーの威勢のいい声が聴こえる。現在74歳だというその声は、リスナーのリクエストにこたえながら、次々と懐かしい洋楽ナンバーを紹介していく。すると、空気がいっきに変わる。いつもの変わらない部屋、変わらない家族との午前なのに、どこか知らない街、昔の時代にタイムスリップしたような感覚になる。

ラジオはすごい。まるで地下室の小さな箱のよ

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若き社長

彼は、二十代で自分の会社を立ち上げた。音楽プロダクション、イベント企画、ウェブデザインなど多岐にわたる業種を精力的におこなっている。そして彼の会社はとても成功しているようだ。若い頃はとてもやんちゃで夜はクラブ通い、、、etc と本人も語っていたので、「果たしてどんな風に経営を学び、そして成功したのか」が気になった。

彼は終始謙虚で、「多くの人の出会い」とその縁に助けられていると、感謝の言葉を続け

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アーティスト xxx

多くの若い女性から支持される彼女。彼女のコーディネートが、彼女の持ち物が、彼女のライフスタイルが、何百万という人からフォローされている。

けれど、私の前にいる彼女はいたって飄々と、そして軽やかだった。
会話を重ねていくうちに、纏っているものがふわりふわりととれていくようで、こちらの気持ちもどんどん軽くなっていった。

ケラケラと笑うその表情に、きっと多くの人が心をゆるしてきただろう。
きっと彼女

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地方で音楽とともに生きる人

中学生のときから「音楽」で生きてゆくことを決めていた。

彼の言葉には実に無駄がなく、必要なメッセージが決して多くはない言葉数のなかに込められていた。それは、彼の、これまでの経験と、そこから得た教訓や考察の数、苦労の数を想像させた。洗練された思考が感じられた。二十代で吸収し、三十代のどこからのタイミングで、それはそぎおとしていく作業に変わったのだろう。現在四十歳の彼は、いい感じにそぎおとされていて

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