家具職人

彼はスタジオにたくさんの作品を持ってきてくれました。放送のときに使用させていただくダイニングチェアやスツール、花器、額、そして鉋などの仕事道具まで、まるで工房が小さくスタジオに出来上がったようでした。鉋をシュッシュと二、三度ひくと、かつおぶしのようにうすい檜の衣がはがれ、と同時にふわりと上質の檜の香りが鼻をかすめました。

放送のはじまる前、まだ打ち合わせだというのに、彼に尋ねると、とても親切な回答が、丁寧にもどってくるのでした。ちょっとした会話からも、彼の伝えたい気持ちや仕事に対する想い、作品に対する気持ちがこちらに届き、おのずとこちらも手をとめ、目を見て、聞きたくなるのです。

彼は、家具をつくるときもおんなじように、木とまっすぐに向き合っているのでしょう。木が、一体どんな風になりたいと言っているか。樹齢100年をゆうに超す木たちと対峙しながら、木の声にしずかに耳を澄ますそうです。ある時は直感で、またある時はじっくりじっくり時間をかけて。相手の声を受け止める。その実直なまなざしと心を、私も向かいでいただいた2時間でした。

また、彼の「伝えたい」気持ちの強さについても、多くの気づきがありました。家具職人の多くはこれまであまり伝える事に力を注いでこなかった。けれど若い世代の彼は、それではもったいないと確信しています。長きわたっての修行を経て、親分が教えてくれた仕事への姿勢や人への思いやり。彼がその体で体験したからこそ気づいた「伝えなくては」という使命感。樹齢100年の木材をつくって、その後100年つづく家具を作る。その壮大なスケールやこちらとの距離を、彼の優しい手ほどきによってひょいと近づけてくれるのでした。

実際に2時間、彼のつくったスツールに座らせてもらい、言葉にする必要のない安堵感と確信が、自分の体にのこったのを感じました。だとすれば、100年つづくスツールが、我が家にやってくるのも、そう遅くないかもしれません。

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