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早期発見で子どもの野球肘を防げ!~自宅で出来るセルフチェック方法を紹介します~

今回は成長期の野球選手に多く発症する「野球肘」について書きます。

現在、私はアスレティックトレーナーとして医療機関でリハビリテーションの一環として運動指導を行なっています。肩肘に障害を抱えた選手が多く来院するなかで早期に症状を発見し、対処する重要性を強く感じます。

なぜならばもっと早くに症状に気づき、リハビリテーションや治療などの何らかの対応をしていれば、手術をせずに済んだであろう症例をたくさん見るからです。非常にもったいないし、一度大きな怪我をしてしまうと復帰までにかなりの時間を要してしまいます。

どの世代でも言えることですが、怪我を予防し、症状を最小限に抑えるための知識などを身につけることが重要だと考えています。

なので今日はお子さんを持つ親御さんや野球指導者の方々にぜひ知っておいてほしいと思う内容を書いていきたいと思います。

なぜ成長期の子どもは肘を傷めやすいのか?

同じ肘の痛みでも大人と子どもで発症する原因が大きく違ってきます。最も大きな違いは、骨が成長しているかどうかです。

成長期では骨端に「成長軟骨層」があり、関節を形作るとともに骨を縦方向に成長させていきます。成長期の子どもでは、この成長軟骨部分が最も弱い部分となり、繰り返し行われる投球動作によって関節に負荷がかかりやすいのです。

特に12歳までの学童期では骨端の障害や外傷が多く、靭帯損傷や肉離れなどの軟部組織の障害がほとんどないのは「成長軟骨」の存在があるためです。

成長期の子ども特有の関節構造を理解し、骨の成長過程を踏まえたうえで障害を診ていく必要があります。

見逃しやすい初期症状とは?

症状の重症化を防ぐために大事になるのが、初期症状を見逃さず、早めの対処をすることです。特に「痛み」と「可動域制限」には注意を払うべきです。

なぜならばこれらの症状は見過ごされやすく、気づいたら症状がかなり進行していた、というケースがとても多いからです。また症状が軽いうちに何らかの対策を講じることができれば、重症化を防ぐことができます。

野球を始める多くの子どもが肘の内側に痛みを感じ、肘の関節を動かしづらくなります。症状が進行すると肘の外側に痛みを感じるようになり、痛みだけでなく可動域制限が強く出るようになります。

関節の軟骨部分が傷むと、場合によっては手術で傷んだ軟骨部の修復をしなければならず、復帰までに半年~1年の期間をかけることになります。

そうならないためにも選手自身や指導者、親御さんも含めて、こまめに身体所見を確認し、関節に大きな負担がかかっていないか?を確認することが重要になります。

これからご家庭や所属するチームなどで簡単に実施できるセルフチェックの方法をご紹介します。

肘の内側に痛みはありますか?

先ほども書いたように、子どもの骨は大人の骨と比べてかなり弱いため、筋肉が付着する部分に痛みがあるかどうかを確認することが大事です。

なぜならば、肘の内側にある「内側上顆(ないそくじょうか)」という骨に前腕の筋肉が付着し、それが硬くなることで関節の付着部に大きな負担をかけてしまうからです。

痛みは炎症所見の1つで、身体が発する重要な所見になりますので、見逃さず対処することを心がけましょう。

肘の曲げ伸ばしができますか?

肘の関節は単純な曲げ伸ばしを行なう関節ですが、制限なく曲げ伸ばしできるはずの関節の動きに制限がかかることで、野球肘の症状が進行しやすくなります。

なぜならば、関節の動きに制限がかかることで関節面の適合性が悪くなり、軟骨が傷んでしま可能性が極めて高いからです。

また肘に痛みを訴えて来院する子どもの多くは、肘の単純な曲げ伸ばし動作に制限がかかっており、肘関節の適合が悪くなることで力を入れづらくなっています。それでは関節は安定しないですし、その不安定さをどこかで補おうとしますから、他の部位や関節を傷める原因にもなりかねます。

下の資料に記載したように、肘の曲げ伸ばしが制限なくできているかを確認しましょう。

肘曲げ伸ばし

手や腕を左右差なくひねることができますか?

こちらも肘関節に負担をかけないようにするために重要な関節の動きとなります。関節の動きとしては、前腕の回内-回外となります。肘を伸ばした状態で行なうと、前腕の動きとともに上腕骨の動きが加わります。

左右差が出現しやすく、特に投球側(右投手なら右手)の回外動作(手のひらを上に向ける動作)で制限などが顕著に表れます。

また上腕骨の動きが制限されることも野球肘の特異的な所見だと感じます。特にひねる動作をしたときの可動域に左右差があったり、関節の動かしにくさを補おうとして肩甲骨が上がってきたりするなどの所見をよく見かけます。

下の資料に記載してあるように、2つのポジションで左右差なくひねることができるかを確認しましょう。手のひらにペンなどを持って行なうと左右差をはっきり認識できますので、やってみてください。

前腕回内-回外チェック

脇腹の筋肉は硬くなっていませんか?

関節への負担を少なくして、効率の良い投球動作を目指すうえで大事になるのが「肩甲骨の動き」です。その肩甲骨の動きを改善するために必要なのが背中や脇腹の柔軟性なのです。

実は肘に痛みなどの障害を抱える選手に共通するのが、脇腹(背中)の柔軟性が低下していることです。肘関節の可動域制限だけでなく、肩甲骨の動きの低下が原因で起きてる肘の症例も少なくありません。

脇腹のしなやかな動きは投球動作に欠かせないものです。日頃からストレッチなどで筋肉を柔軟に保つことを意識しましょう。

下の資料に記載してあるように、脇腹や背中の硬さを確認してみましょう。

側屈チェック

まとめ

私がまだ専門学生だった2015年頃、地元にある中学の硬式野球チームにトレーナーとして携わったことがあったのですが、野球肘予防の取り組みを行ない、親御さんやチームスタッフから大変喜ばれたのを今でも覚えています。

当時チームにいた選手にも効果を実感してもらい、「こうやって好きな野球を思い切り取り組める環境を作りたいな。」とそのとき感じることができたのです。

私自身も中学時代に肘の痛みに悩まされ、周りからは「成長痛だから、休めば良くなるよ。」と言われたことがありましたが、そんなことはありませんでした。

今思えば、もっと身体の機能を上げて、肘に負担の少ない身体の使い方を習得する必要がありましたし、休むだけでなく、再発予防のための能動的な取り組みが必要でした。

今回は子どもに起きやすい野球肘の簡単な概論と、簡単にできるセルフチェックの方法をいくつかご紹介しました。このようなセルフチェックをはさむことで初期症状を見逃さず、重症化を防ぐことにつながります。

次回は今回の内容を踏まえて、実際にどんな運動やエクササイズが効果的なのか?を書いていきたいと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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