田中

読書感想文

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最近の記事

ハロウィーン・パーティ/アガサクリスティー

 読了。ネタバレなし。  例に及んでネタバレなしなのは、概要をうまく書けないから……ではなく、これからこの本を読む人に対する配慮である。言い訳じゃないぞ。  わたしはこのポアロシリーズを全巻集め、ぽつぽつと読んでいるのだが、それもあと数冊になった。そして今日手に取ったのがこの本である。わたしはクリスティーの本を読むときに、いつも「犯人は誰だろう?」と自分なりに推理しながら読むのだが、生憎おつむの出来が悪いので、いつも外れる。今回も外した。  意外性のある結末、予測できな

    • 異人たちの館/折原一

       読了。ネタバレなし。  なぜネタバレなしなのかというと、わたしの知能ではこの作品の概略を綺麗にまとめることができないからである。いや、いつも綺麗に概略を書けているのか甚だ謎だが。  元々、この本は大学時代からずっと興味を持っていた本だった。しかし、丸善へ行っても見つからず、絶版になってしまったのかなと思っていた。ところがどっこい、先日丸善へ行ってみたらあるではないか。どうやら2016年に復刊したらしい。今日までそれを知らなかったので、出会うのがこんなにも遅くなってしまっ

      • かがみの孤城/辻村深月

         読了。ネタバレあり。  鏡を通して謎の城にやってきた7人の子供たち。彼らを誘った「オオカミさま」は彼らに「願いの鍵と部屋を探せ、そうすればなんでも一つだけ願いを叶えてやる」と言う。集められた子供たちは、一人を除いて全員が不登校だった。期限は三月まで。彼らは四月から城で会うことによって、徐々に距離感を縮めていく。  しかし、途中で「オオカミさま」に「願いの鍵を使ったら、ここで過ごしたすべての記憶が消える」と言われ、子供たちは困惑する。更に、子供たちが一人を除いて全員が同じ

        • 百面相役者/江戸川乱歩

           読了。ネタバレあり。  学校教員である「私」と新聞記者のRは親しくしていた。ある日、Rが「私」に見せたいものがあるという。Rに連れて行かれた先は劇場だった。そこで「私」は、巧みに変装をする役者を見る。その変装は鼻や耳の形まで変えるほどの見事なもので、「私」は圧倒される。  劇場からの帰り道、Rは「私」に家まで来てほしいと言う。そして家にて、とある新聞記事を見せる。墓荒らし、死体の首を切り取って盗む残酷極まりない事件の記事だ。犯人はまだ捕まらずとその記事にはあった。そのあ

        ハロウィーン・パーティ/アガサクリスティー

          心理試験/江戸川乱歩

           読了。ネタバレあり。  明智小五郎シリーズの中の一作である。とある学生が学資に困り、金持ちの老婆を殺した。逮捕されたのは学生の友人だった。学生は緻密な計画を練り、絶対に自分に嫌疑がかからないよう考える。そして、判事の行った心理試験すら難なくクリアする。  しかし、そこで出てきたのが明智小五郎だった。明智小五郎は心理試験の結果に疑問を抱き、学生を呼び出して直接話をする。そこで学生はボロを出し、学生こそが犯人だとバレてしまう。  純粋におもしろい物語だった。「D坂の殺人事

          心理試験/江戸川乱歩

          山月記/中島敦

           読了。ネタバレ注意報が必要なのかわからないほど有名な話だが、一応注意書きしておく。ネタバレあり。  虎となった一人の男。その友。久々の邂逅に、二人は話をする。なぜ己が虎となったのか、己の詩をどうか後世に伝えてほしい。虎となった友人の頼みを、その友は聞き届ける。虎となった男は、残された自分の妻子のことより自分の詩のことを優先すべきではなかった、これが己の間違いなのだと言う。最後に、その友は行く道から振り返って、虎と成り果てた友の姿を見た。それから藪に飛び込んだ虎は姿を現さな

          山月記/中島敦

          陰火/太宰治

           読了。ネタバレあり(?)。  太宰治なりの御伽噺なのかしら、と思った。最初はとある学生の話。次は誰かに宛てて書かれた手紙。次は愛憎入り乱れた男女の話。最後は御伽噺を聞かせる尼の話。  とりわけ印象に残ったのが最後の尼の話で、御伽噺を語る尼が男の隣で眠りについたとき、如来様が現れるのである。悪臭を放ちながら現れた如来様はすぐに消えてしまう。すると、隣で眠っていた尼が小さな人形に変わってしまうのである。  御伽噺にしては内容がそれらしくないが、まあこういう御伽噺があっても

          陰火/太宰治

          二銭銅貨/江戸川乱歩

           読了。ネタバレあり。  「私」と「松村武」という二人の青年の知恵比べである。ある日、とある会社から多額の金が盗まれた。その泥棒は後々捕まるのだが、隠しておいた金の在り処を絶対に言わなかった。「私」と松村武は経済的に困窮しており、特に松村武が金の在り処を探し出そうと奮起する。  やがて松村武は、盗まれたと思われる多額の金を持って帰ってくる。しかし、その金は玩具の偽物であった。落胆する松村武に、「私」は言う。これはすべて「私」の策略だと。  すらすら読めておもしろい話だっ

          二銭銅貨/江戸川乱歩

          名人伝/中島敦

           読了。ネタバレあり。  弓の名手になろうと思った男が、その筋では最強の人物のもとへ教えを乞うところから始まる。男はその人物の言うことをよく聞き、日々修行に励み、やがては師に並ぶ力を得る。となると、最強の男は自分でいいと、男は師を殺そうと企てる。しかし力の拮抗した二人は、弓の撃ち合いを経て互いを称え、師はまた殺されそうになっては堪らんと、更に高みにいる新たな師を男に紹介する。  男は新しい師の元で修行をする。そして、下界に下りてきた男は弓を持とうとしない。弓を持たざる男の

          名人伝/中島敦

          ロマネスク/太宰治

           読了。ネタバレあり。  三本仕立ての物語。最初は「仙術太郎」という話から始まる。この話では、人間の欲深さがテーマなのではないか。神童、あるいは阿保だと思われていた太郎が仙術によって、さまざまな姿に形を変える。太郎は美男になりたいと願う。しかし、太郎は美男とはかけ離れた姿になってしまい、元の姿に戻ることも出来なかった。女に好かれたいと欲を出した結果である。  次は「喧嘩次郎兵衛」。喧嘩に強くなりたい次郎兵衛が喧嘩に強くなるために身体を鍛える。けれど、喧嘩の機会は一向にやっ

          ロマネスク/太宰治

          刺青/谷崎潤一郎

           読了。ネタバレあり。  彫物師の男が理想の女の肌に刺青を彫る話。清吉という男は、理想の女の肌に刺青を彫ることをずっと夢見ていた。そんな折に、きっと理想の女だと思われる女の足を見つける。追いかけてみたが、女は清吉の前から姿を消してしまった。  それから一年、清吉はその女と再会する。その女の美しさを表す語彙の素晴らしさに鳥肌が立った。語彙力で殴られた感じだ。日本語モンスターすぎる。これでもかと言うほど美しく描写された女に、清吉は彫り物をすると決める。  清吉の手には麻酔瓶

          刺青/谷崎潤一郎

          火星の運河/江戸川乱歩

           読了。ネタバレ含む。  夢の話。真っ暗な森の中をさまよう一人の人間。冒頭からしばらくは、深く昏き森の恐ろしさがこんこんと描写されている。その森の、恐ろしさを表現する語彙のなんと豊かなことだろう。まるで読んでいるこっちまで、森の中をさまよっているような、そんな感覚にさせる。  途中から、人間は己の身体が恋人の女のようなそれになっていることを知る。その瞬間に湧いた喜び――沼に辿り着き、この森に足りないものは紅の色だと思った人間が、自らの身体を傷つけ、森に紅の色を灯す。恐ろし

          火星の運河/江戸川乱歩

          白昼夢/江戸川乱歩

           読了。  ふらふらと道を歩いていた「私」が、一人の男が人々に笑い者にされているのを見かけるシーンから始まる。その男はなかなかにちゃんとした装いをしていて、乞食の類ではない。  その男は「妻を殺した」と言った。妻を殺して、己の薬屋に飾ってあるのだと。「私」はその蠟化した女の死体を見て、慄いて警察に男を突き出すことも出来なかった。  美しい妻の姿――それを永遠に自分のものにするために妻を殺した男。愛憎入り乱れた気持ちが、男にはあったのだと思う。他の男を見る妻が憎い、けれど

          白昼夢/江戸川乱歩

          魚服記/太宰治

           読了。ネタバレあり。  スワという一人の娘とその父親が、二人だけの箱庭で生きている感があった。途中、大蛇になってしまった八郎と、その兄の三郎の話が出てきたが、その話を聞いてスワは涙したという。  そのスワが、最後に鮒になってしまうのだが、なぜ大蛇ではなくスワは鮒になってしまったのだろう。思うに、三郎と八郎の話では、二人は互いを大切に思っていたが、スワの場合は、自分に手を上げようとさえする父親と箱庭空間で生きていたので、自分が父親にとって、世界にとって、ちっぽけな存在であ

          魚服記/太宰治