火星の運河/江戸川乱歩

 読了。ネタバレ含む。

 夢の話。真っ暗な森の中をさまよう一人の人間。冒頭からしばらくは、深く昏き森の恐ろしさがこんこんと描写されている。その森の、恐ろしさを表現する語彙のなんと豊かなことだろう。まるで読んでいるこっちまで、森の中をさまよっているような、そんな感覚にさせる。

 途中から、人間は己の身体が恋人の女のようなそれになっていることを知る。その瞬間に湧いた喜び――沼に辿り着き、この森に足りないものは紅の色だと思った人間が、自らの身体を傷つけ、森に紅の色を灯す。恐ろしい狂気だ。沼の中心で踊るように蠢く血に塗れた女の身体。狂気としか言いようがない。

 全体を通して、「狂気」を書きたかったのかな、と思った。わたしはアホなので、この物語から読み取れたのは「狂気」だけだった。そしてまさかの夢オチ。いや、夢じゃなかったらその人間は一体どうなってしまっていたのだろう、最後には、という話になるが。

 嫌いじゃない雰囲気の物語だった。正直意味はわかりかねるが、わたしはこういう雰囲気の話が結構好きだ。読みやすいし。さすがは文豪と言ったところだ。

 感想は以上。人におすすめできるような物語ではないが、個人的には嫌いじゃない物語。

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