魚服記/太宰治

 読了。ネタバレあり。

 スワという一人の娘とその父親が、二人だけの箱庭で生きている感があった。途中、大蛇になってしまった八郎と、その兄の三郎の話が出てきたが、その話を聞いてスワは涙したという。

 そのスワが、最後に鮒になってしまうのだが、なぜ大蛇ではなくスワは鮒になってしまったのだろう。思うに、三郎と八郎の話では、二人は互いを大切に思っていたが、スワの場合は、自分に手を上げようとさえする父親と箱庭空間で生きていたので、自分が父親にとって、世界にとって、ちっぽけな存在であることが理由で、大蛇のような大きな存在にはなれなかったのかもしれない。小さな小さな鮒にしかなれなかったのかもしれない。

 最後に、鮒となったスワが滝壺へ吸い込まれていく描写があるが、「たちまち吸い込まれた」とのことで、これは一体なにを暗示しているのだろう。わたし的解釈では、スワが父親に言われた「おめえ、なにしに生きてるば。」という台詞が、スワを荒く深い滝壺の中へと吸い込ませてしまった要因なのだと思った。なにをするでもない、目的もない「生」が、スワを暗い滝壺の中へと誘ったのではないか。「たちまち」というところに、スワが「生」になんか目的も持たずに生きてきて、それだから「たちまち」身を滅びのほうへと誘われたのではないかと感じた。他の方々のレビューを読んでいると、スワは父親に性的な扱いをされたという説があったが、わたしは致命的に読解力がないので、そこまでは読み取れなかった。世の中には賢い人がいるものだなあ……と思いました(日記)。

 文章の流れは素晴らしく、引っかかることなく読ませていただけたのはさすがは文豪という感じであった。ひらがなと漢字の使い分けが絶妙で、これがまた堪らない。これだから太宰治くんは最高なのだ。

 父親と二人で過ごしているスワ。スワが鮒となって消えたあと、父親はなにを思ったのだろう。そんな深読みまでしてしまうような短編だった。おもしろかった。

 読解力がないからまともな読書感想文書けなくてごめんなさいの気持ち。

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