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『ありゃ馬こりゃ馬』 競馬狂走伝。早死した漫画家と覚せい剤に溺れた天才騎手の奇跡の名作を馬券狂だった俺がレビューするぜ。

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

旧証券取引法違反で摘発され懲役二年六ヶ月の刑を食らってしまった私は長年維持してきた馬主資格を失った。競馬法の規定によれば刑期満了後10年経たないと刑の執行がなかったことにならないので、私が再び馬主になれるのは早くて約10年後となる。

なんで、こんな話をしたかというと私の馬主資格を取ってくれたのがこの作品の原作者である、元天才ジョッキーの田原成貴なのだ。

知り合いの伝手で1,500万円で手に入れた「トキニワパンチ」号。当時私の会社でスポンサーをしていた「ミニスカポリス」の決め台詞「時にはキック、時にはパンチ」から取った名前だ。

この関係で知り合ったのが調教師になってた田原成貴。馬券狂だった時代がある私からすれば大スターである。彼に預かってもらえるなら願っても無いことである。

彼は私のオフィスに現れ会社のロゴマークなどを上手くアレンジして勝負服を作ってくれた。

勝負服は日本のJRAの場合馬主ごとにデザインされる。有名なのは社台ファームの黒と黄色のストライプの勝負服がある。何時間も集中して会議室でデザインしてくれる元花形ジョッキーの姿をみて、天才というのはどんな時も手を抜かないで集中するもんだと感心して見ていたものである。

しかし、彼の運命は暗転する。

それから2,3日後、彼は羽田空港で逮捕される。容疑は銃刀法違反と覚醒剤取締法違反である。

一瞬我が目を疑った。なんでも手荷物検査場でかばんの中に長ドスと覚醒剤の注射器を入れていて逮捕されたとのこと。そりゃあ逮捕されるわな。。。どうやらずっとまえから常習していたらしい。

彼は塀の中の人となってしまった。初犯ということもあり、また漫画家で彼を支援していた本宮ひろ志さんのアシストもあり執行猶予を勝ち取ることができたが、競馬界は追放。そしてこの本もおおっぴらに出版することができなくなってしまった。

しかし、本宮ひろ志さんの尽力も虚しく彼は再度覚せい剤に手を出してしまう。完全に競馬界には居なかった人のようにタブーで扱われている。

Kindleで辛うじて別の版元からリリースされているものの、作画を行った土田世紀も病気で亡くなられてしまい、知る人ぞ知る作品となってしまっているのは残念だ。土田世紀も漫画界では定評のある作家さん。

そして田原成貴の競馬界のリアルに迫る描写でドロドロとしたジョッキーの勝負の世界をえぐっている。こんな作品は型破りな天才2人でないと描けなかっただろう。

そんな2人はもうタッグを組むこともできない。田原成貴もおそらく競馬界に戻ってくることはないだろう。それだけが残念である。