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畑健二郎が描く新人声優の成長譚は、プロとしての覚悟を問うエンタメ業界の必読書だ『それが声優!』

【レビュアー/西川裕貴

こんにちは! ゲーム制作会社「サイバーコネクトツー」の西川裕貴です。

皆さんは「ゲームキャラクターの音声」がどのように収録されているかご存じですか?

複数の声優さんがスタジオに集まって収録するアニメや映画のアフレコと違い、ゲームのアフレコは基本的に声優さんに1人ずつスタジオに来ていただき、その方の担当パートのセリフをひたすら収録していく……といったスタイルです。

※ゲームのアフレコ収録の仕組みをもっと知りたい方は、弊社代表「松山 洋」の下記note記事をチェック!

ちなみに、私は制作の役割的にゲームのアフレコ収録に参加させていただくことが多いのですが、万が一にもセリフの収録ミスがあるといけないため、台本を凝視しながら声優さんの声に全神経を集中させています。その反動で収録が終わったあとはヘトヘトになってしまいます。

それぐらいアフレコ収録は、ゲームキャラクターに魂を入れ込むのに重要な仕事のため、役を演じていただく声優さんや音響監督&スタッフの方々には本当に感謝しています。

さて今回ご紹介する作品は、そんな声優さんのお仕事や知られざる日常を超リアルに描いた漫画『それが声優!』です。

本作の主人公は、デビューしたての新人声優・一ノ瀬双葉(いちのせ・ふたば)。

子どもの頃に大好きだったアニメがきっかけで「声優」という仕事に憧れをもった彼女は、大学卒業後に声優業の道に進みますが、オーディションで良い結果が出ず、希望の役をなかなかゲットすることができません。

・新人声優は30分前行動が鉄則
・ノイズ(アフレコに関係ない不要な音)が出ない服を着ていく
・スタジオには地図を頼りに一人で向かう
・スタジオに着いたら新人から先輩一人ひとりに挨拶する

など、声優業界の数々のオキテを守りながら収録に挑む彼女でしたが、声優としての収入は安定せず、スケジュール帳には声優の仕事よりもバイトの予定のほうが多く書き込まれている状況が続きます。

そんな鳴かず飛ばずの下積み生活を送っていた彼女でしたが、声優仲間と一緒にユニットを組んでWEBラジオやライブイベントに挑戦したりと活動の幅を広げていきます。

そして、収録スタジオで出会う先輩声優たちとの交流を通じて仕事の楽しさ・厳しさを学び、苦悩しながらも一歩ずつ「一人前の声優」に向かって成長していく……といった物語です。

本作は、原作・あさのますみ先生、作画・畑健二郎先生によって、2011年・冬に同人誌として生まれ、2015年にはTVアニメ化もされました。

『トニカクカワイイ』や『ハヤテのごとく!』でお馴染みの畑健二郎先生が描くコミカルで愛らしいキャラクターの破壊力もさることながら、お話の内容はあさのますみ先生ご自身が声優・浅野真澄として経験されたことや、声優仲間へのインタビューが元になっています。

そのため、声優さんの生活や仕事の描写がかなりリアルで、声優というお仕事が本当に大変なものだということがとても良く伝わってきます。

そんな本作でも私が特に好きなのは、主人公がドラマCDで演じたキャラクターが「アニメ化する際に声優が変更される」ことになり、落ち込んでいる時に先輩・汐留ヒカリが投げかける言葉です。

汐留
「あなたが落ち込んでるとかつらいとか、お客さんには関係ないの。
 どんなときでも求められていることに応える……それがプロよ。」

双葉
「声優って、もっと夢のある仕事だと思っていました……」

汐留
「夢を見るのはお客さん。
 私たちは……夢を見せる、それが声優! でしょ?」

あぁ……汐留先輩の厳しいお言葉、グッときます。

厳しいですが確かにそのとおりだと思いますし、汐留先輩の言葉は「エンターテインメント業界」でお仕事をされている方すべてに当てはまる<真理>だと思います。

本作は、全体的にコメディ要素が多くサクサク読める構成になっていますが、要所要所でシリアスな展開があり、プロフェッショナルの持つ「仕事に対する責任」と「一生その仕事を続ける覚悟」について考えさせられる内容になっています。

※各話の間に定期的に挿入される「声優コラム」も非常に勉強になります。

そんな『それが声優!』は「全5巻(完結)」が発売中です。

「漫画好きの人」はもちろん、「声優になりたい人」「進路に悩んでいる人」「やりたい仕事がある人」にも、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。


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