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毒親から遺骨を盗んで逃げる…「親友の死」があぶり出す生への執着『マイ・ブロークン・マリコ』

【レビュアー/こやま淳子

自殺・毒親・共依存。重いテーマなのに軽やかでエモい疾走感に目を見張る。

『マイ・ブロークン・マリコ』は、「COMIC BRIDGE online」で連載されたWEB漫画で、全4話完結。更新されるたびにトレンド入りし、単行本も発売するなり即重版決定したという話題作だ。

一言でいうと、若い女性が、親友の遺骨を盗んで逃げる話である。ただそれだけの短いストーリーなのだが、ちょっとしたロードムービーを見たような読後感がある。イメージとしては初期のタランティーノみたいに、重いテーマと軽やかな疾走感が、エモくブレンドされている感じというか。

葬式というのは、死者のためというよりは、残された人間の心の整理のためにある。と、聞いたことがあるけれど、この漫画はまさにそんな残された人間の弔いの旅を描いた作品だ。

毒親に育てられ、ふわふわとしているようでその実ひどく壊れてしまったマリコと、家庭環境に恵まれていない主人公のシイノは、中学生の頃からの親友だった。

『マイ・ブロークン・マリコ』はシイノの視点で、このタイトルがすでに、友情を通り越して共依存のように強く結ばれている2人の関係性を語っている。

生きていくために、必要な旅がある。

物語は、そんなシイノが中華料理店で流れるニュース番組で、マリコが自殺したことを知るところから始まる。そこからの疾走感がすごい。なんだろう、この表現力は。

めちゃくちゃ可愛いのに、親に顔をボコボコに殴られた中学生のマリコや、遺骨を抱えて涙や鼻水を垂れ流しながら逃げるシイノ。その絵やセリフの臨場感に、鷲掴みにされてしまう。

そしてその旅の途中途中で、マリコの回想シーンが挟まれる。お互い不遇な環境で育ち、惹かれあい友情を確かめあう2人だが、物語が進むにつれて、シイノとマリコの決定的な差が浮かび上がってくる。

それは、何度も自壊的な行為を繰り返しながらも隠しきれない、シイノのきらきらした生命力だ。これは死んでしまった人間を抱きながらも、どうしようもなく生きている女性の話なのではないかと思った。

こうしてる間にもどんどんあのコの記憶が薄れてくんだよ
きれいなあのコしか思い出さなくなる……

何かを失ったとき、それでも生きていくために、どうしても必要な旅がある。

また同じ場所に帰ってくるとしても。

数十分で読めるのに、何年も後にまた思い出してしまいそうな快作だった。

WRITTEN by こやま淳子
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