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コロナ禍の今こそ語られるべき、寄生生物侵略下における主人公・シンイチの決断『寄生獣』

こんにちは。株式会社コルクの佐渡島です。

今回は、今まさにウイルスが世界を蔓延しているこの時代に、全世界の人に読んでほしいおすすめの漫画を紹介します。

僕の生涯ベストワンの作品でもある、岩明均さんの『寄生獣』です。

この『寄生獣』をもう何回読んだことでしょうか。僕は漫画を読み返すとしたら勢いよく全巻いっき読みしたいので、長い漫画はちょっと苦手なんです。100巻ぐらいの漫画は、さすがに1日で読み返すことができないじゃないですか。でも10巻くらいだと、「よし読むぞ」って決めると全部読み返すことができて楽しみやすいんです。

『寄生獣』はちょうど10巻で完結しているので、本当に何回も何回も読み返している漫画です。

『寄生獣』の侵略はウイルスと似ている

本作は、映画化もされたので内容をご存知の方もいるかもしれないですが、あらためてあらすじを説明します。

ある日寝ているとき、「寄生生物」という生命体が宇宙からやって来ます。その寄生生物は鼻や耳などから人間の体に入り込み、その人の全てを乗っ取って他の人間を食べてしまうという生物。人間を乗っ取った生物「寄生獣」と「人間」が対決するという話です。

主人公の新一(しんいち)は、腕から進入した寄生生物が右手にとどまってしまった状態となり、意識が乗っ取られる事なく、その寄生生物を飼っている状態になります。彼は寄生獣と人間の両方に属した存在になります。そして、新一はその状態のまま、寄生獣と戦う……と思いきや、両方の調和を図っていきます。人間が寄生獣によって殺されないように人間側に立って戦いはするんですけどね。

この先は、ちょっとネタバレしちゃいます。

『寄生獣』はあまりにも深い物語なので、正直ネタバレしちゃっても面白さは一切損なわれません。「聖書の内容をネタバレしたら味わい深くなくなったじゃないか」と言う人がいないのと同じくらい完成された作品だと思います。

最後のシーンで、新一は、その寄生獣たちを絶滅させるかどうかを委ねられます。そして結果的に絶滅させないんです。寄生獣と共に生きることを選びます。

寄生生物は、現在の世の中ではウイルスに例えられると思います。ウイルスが僕らのところにやって来て、人間はそれと戦っているわけです。この戦いによって人が死んでしまうということが起きているわけですが、”ただ”戦っているうちは勝てない。

それらと一緒に住む・暮らすと決め、受け入れることで初めて、その戦っていた状態が終結するということがこの物語では描かれます。

これは、今起きていることに対して、すごく示唆深いんじゃないかなぁと思うんです。

人間と自然の関係、そして自我とは何か

さらに本作は、「人間とはなんなのか」「なぜ人間は生きるのか」「人間は自然の一部ではないのか」「人間が自然の一部であれば、やってくる寄生獣も自然の一部ではないのか」「自然の一部が他の自然を破壊してしまう」「追い出してしまうということは許されるのだろうか」……そういったことを問いかけてきます。

この作品は公害が激しくなっていった時代に描かれました。人間が自然を破壊してしまう、そしてそれに対して自然が逆襲してくる。

「人間はどうやって自然と折り合いをつければいいんだろう」ということが深いテーマとして根幹に流れています。

さらに新一という主人公は、寄生獣に右手が乗っ取られてミギーと一緒に暮らしていることによって性格が変わってしまいます。

そして好きな女の子から「新一くんはなんか新一くんじゃないみたい」と言われてしまう。

人はどこまで入れ替わるとその人ではなくなってしまうのか。僕らは変わろうと、成長しようとしているわけです。しかし、成長していく中で、どうすれば人はその人らしさを残したまま成長できるのでしょうか。

最近流行ったドラマと漫画で『テセウスの船』があります。この作品は、「船が壊れたところを修理し続け、すべての部品が変わってしまったときに、その船は同じ船と言えるのだろうか」といった内容を問いかけています。それが大きいテーマになっている作品なんですが、これは人に対しても言えることだと思います。

その人自体がどんなふうに入れ替わってしまったら、その人は自分でなくなったと言えるのでしょうか。見かけが一緒だったら? 見かけが一緒でも中身が変わってしまったら? もうその人はその人ではないのでしょうか。

そんなテーマが僕の人生観に本当に影響を与えたと思います。

『寄生獣』を読み返すたびに、投げかけられるテーマの深さはもちろん、読む時々で心にひっかかる所も変わったりして、すごく面白いなと思います。

漫画を超えて認められたストーリー

テーマ性だけでなく、表現自体もとてつもなく優れています。

ミギーという寄生生物が、トロトロに溶けた状態になって変形する表現。

実は昔、映画監督のジェームズ・キャメロンが『寄生獣』の映像化権を持っていました。ジェームズ・キャメロンが本作を映像化するのかなあと思っていたら「ターミネーター2」で寄生生物と全く同じような生物が出てきて、これ『寄生獣』じゃないか? って言われるようなシーンがありました。

しかし日本側は何も言えない。なぜならジェームズ・キャメロンが映画化の権利を持っているから。

そんなことがあるくらい、もう昔からずーっと注目されていた作品なのです。世界中の一流クリエイターが「これは最高のストーリーだ」と知っていた作品です。

最後に

「『寄生獣』を読んだことがない人は人生を損しています」と断言してもいいくらいだと思っています。

この作品は、今実際に起きている社会の変化に対して、どう向き合っていけばいいのかを考えることができます。

変化に対して、本作の主人公・新一はひとりで向き合いました。ひとりで向き合ってそれに勝ったんです。勝ったというか、戦い抜いて最後に生き残った。僕らは現実社会にいる全員で協力しあいながらやっているので、新一に比べたらぜんぜん楽です。孤独に戦う新一に対してむちゃくちゃ感動して、胸が熱くなります。

『寄生獣』を今のタイミングで読むことは、現在の社会で起きている変化が分かり、心がうまく整理されると思います。それによって、読んだ人の心のありかたが変わるんじゃないかなぁと思います。

いつ読んでも最高傑作ではあるんですが、やはりこの時期に読むことがすごく重要な漫画だと思います。

岩明均さんの『寄生獣』。全10巻なので、読むと決めたら一気にガーっと読めちゃいますよ。

ぜひ楽しんでください。

こちらの記事は「編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】」で佐渡島 庸平氏が紹介した漫画の文字起こし記事です!(編集部)

※文字起こし:ブラインドライターズ

EDITION by タカハシ東京マンガレビュアーズ編集部)