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#13 真面目に真っ直ぐに

どこで読んだか忘れたが、私を失恋のどん底から救ってくれた本があった。
その頃に読むとしたら、フラワーコミックスの漫画か、双葉社発刊の小説だ。
題名は思い出せない。しかし私はたしかにあの時、本に救われた。



私の「人生終わったレベルの失恋」は21歳。
世間の『どん底失恋平均年齢』なんて聞いたこと無いが、まあまあ遅いほうな気がする。

当時付き合っていた男性に突然「他に気になる人ができた」と言われた。
(こんなん漫画か、ドラマの世界だけだと思っていた)

小・中・高と趣味や部活や生徒会活動に青春を捧げていた私は、まともに好きな人すらできたことがなかった。よって人生で初めてお付き合いした人が、その男性だったのである。

お察しの通り、恋愛に全く耐性がない私は、ちょっとフラれただけで「この世が終わる」「この世から消えてなくなりたい」と1人で泣きわめいた。

本当に三日三晩。
それまで休んだことがない大学もバイトも全部休んで、実家のベットでずっと泣いていた。

そして、四日目。
私は泣きすぎてドンキーコングみたいになった目を無理やり開いて、部屋にあった漫画や本を読みはじめた。
(さすがに、泣くことも退屈になってきたみたいで)

そのうちの1冊の本にこんな事が書いてあった。

「真面目に、真っ直ぐに1日1日を過ごせば、必ず神様は見ているから。
神様はあなたの真面目さと真っすぐさに対して、いつかご褒美をくれる。
それは、その別れた人ともう一度出会わせてくれることかもしれない」

確かこんな事が書いてあった。
そのページを見た日から、私はやっと母が作ってくれたうどんを食べられるようになった。

当時の私はこんな解釈で生きていた。
『真面目に』・・・大学の卒論やゼミの講義に集中し、アルバイトでも正社員と変わらない意識を持って働く。

『真っ直ぐに』・・・他の男性と取っ替え引っ替え付き合ったりしない
(全くモテなかったので警戒さえ不要でした)

こうやって、背筋を伸ばして凛と生きることが、その男性と復縁できる希望だと思った。

以前より集中してゼミに参加する私を見て、友人たちには「死ななくて良かった」と笑われた。
あんなに無理だと思っていたのに、失恋話を肴に楽しくお酒が飲めるようになった。

そして大学卒業後、私は夢だったアパレル企業に就職が決まる。
ディスプレイを変えて、買い回りの導線を作って、客単価を上げて、お店のファンを作る。
今日の売り場は上手く行った、今日は過去一の客単価で売れた!
毎日ワクワクしかない。
仕事って楽しい。つまり、生きるって楽しい。

いかに売上を上げるか、いかに優れたファッションアドバイザーになるか、毎日その勉強と実践と反省を繰り返した。
つまり私の人生は、仕事一色。
入社2年目で店長に昇格した頃には、嫌でも「真面目に真っ直ぐな生活」になった。

あんなに立ち直れないと思ったのに、たった1冊の本で人間変わるもんだなぁ。

私は今でもたまに、その本の題名を思い出す努力をしてみる。
しかし全く思い出せないのが残念でならない。

娘たちが失恋したとき、その本を差し出してあげたいのになあ。
はぁ・・・

と、そこに、「はい、お待たせしました。肉海老天うどん大盛りと、肉ごぼ天うどんです」

大好物のウエストのうどんが運ばれてきて、私のため息はどこかに吹き飛んだ。

ま、いっか、食べよ。

ちなみに、19年前、私を失恋のどん底に落とした男性は、今私の目の前で美味しそうにうどんを食べている。

海老天うどんの大盛りが大好物な彼は、11年前に私の夫になった。

それでハッピーエンドと思ったら、それも違う。
(つい最近まで、夫は5年間無職だった。はは)
 
だから、私が真面目に真っ直ぐに生きてきたかは、本当に謎。

とりあえず、ネギたっぷりの肉ごぼ天うどんは、美味しかった。


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