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「後悔なく生きる。」大学院進学を決めた作業療法士の目指す幸せの形

自主企画『新たな一歩を踏み出す人にとっての幸せとは何なのか?』で執筆した文章を編集いただいたものです。

インターネットでも学びを深めることができるこの時代に、あえて大学院へ進もうとする人がいる。

佐々木さんは現在、作業療法士として生活期リハビリテーション(※)に従事し、さらに中間管理職として上司と部下をつなぐ役割を果たしている。その傍ら、父として家族を支える一面もある。

そんな佐々木さんは、この春に大学院へ進学した。

なぜ、あえて大学院で研究をはじめたのか、研究した先にはどんな未来があるのか訊ね、佐々木さんにとっての幸せを覗いてみることとした。

※生活期リハビリテーション(以下、生活期リハ)…病院を退院後に在宅で行われるリハビリテーション

佐々木さん 大学にて作業療法学を専攻。卒業後は総合病院へ勤務。その後は、回復期病院(※)へ転職し様々な学会での発表を行った。回復期病院で2年間勤務した後、生活期リハビリテーションへ異動。回復期病院で得たスキルを発揮しながら、生活に根差した医療の提供を行っている。2023年4月から大学院進学を決め、日々研究に励んでいる。

※回復期病院…病気や怪我などで治療をした後、在宅復帰や社会復帰を目指したリハビリテーションを受けるための病院


病気を持ちながらもより良い社会を。大学院で学び目指したいもの

ーーー大学院への進学、おめでとうございます。大学院では何のテーマで研究をされるのでしょうか?

「病気を持ちながらも、より良く生きることができる社会を作る」がテーマです。加えて、作業療法の良さとは何なのかを、他職種や一般の方にわかるように翻訳する方法を考えています。一般的に作業バランスや生活リズムなど、整えると良いと言われているものが、具体的にどう良いのかを伝えたいです。

ーーー家庭と仕事を両立されている中で、大学院に進もうと決心した理由は何ですか?

最初は自力で研究することも考えました。有名な先生も大学院に行かないで研究されていますし、今はSNSで他の研究者の発信も探すことができます。

しかし、いざSNSを使おうとすると自分で十分に使いこなすことは大変でした。だったら、「もう大学院に行ってみよう!」と行動に移したんです。

ーーー大学院というフィールドで佐々木さんが一番変えたいと思っているのは、ご自分なのでしょうか?それとも社会なのでしょうか?

どっちもありますね。大学院は味見みたいなものだと思っていて、研究が自分に合うかどうかも分からない。合うんだったらもっと精度の高い論文を書いたり、突っ込んだ研究をしてみたいです。

社会面では、ある程度結果を出して後輩の作業療法士や他職種に参考にしてもらえるような論文を書いて貢献したいですね。

身体が良くなるだけでは再建しない生活

ーーーそもそもなぜ作業療法士を目指そうと思ったのですか?

もともと、なんとなく医療職に就きたいと思っていました。高校二年生のときに病院見学に行き、作業療法士は患者さんと編み物のような作業活動をしていることに疑問を持ちました。当時は何のために行っているのか分からず、逆に興味をそそる理由となったのです。そのとき、作業療法士になって学んでみたいと思いました。

実際は、作業療法士は患者さんが大切にしている作業を通して、生活をどうやってより良くしていくのかを課題にしていました。

ーーーなるほど。作業を通して患者さん自身を知り、生活を再構築するということですね。では、そんな佐々木さんの作業療法士観が見えてきたのはいつ頃なのでしょうか?

作業療法士になって4年目くらいでしょうか。入職してからしばらくは、いわゆる”身体を治す”ことに熱中していました。

しかし当時、身体機能の改善で手応えを感じた患者さんが、退院後に閉じこもりになってしまったんです。リハビリテーションに対しても依存的で、人に治してもらうことが当たり前になってしまいました。その経験から「身体を治すだけじゃダメなんだ」と思うようになりました。

転職してからはさらに自律に関した考えが深まり、年に1回ペースで患者さんの自己効力感(※)をテーマに学会発表を行いました。

※自己効力感…自分が目標を達成するための能力を得ているという感覚。自分の可能性を正しく認識する意。

ーーー回復期病院では精力的に働かれていたとのこと。そんな折の生活期リハへの異動は不本意ではなかったのでしょうか?

もともと生活期リハで働いてみたいと思っていたので、特に不本意とは感じませんでした。まさか9年も働くことになるとは思ってもいませんでしたが。それでも、回復期病院を退院していった患者さんの生活を見てみたいと思ってたし、実際に見聞きできたことが楽しかったです。

「知る」ということ全てが幸せの鍵

ーーーそんな佐々木さんが思い描く幸せの形とはどんなものでしょう?

「知らないことを知ること」、「自分の能力を発揮して人のためになる何かをすること」、この二つです。時間やコストがかかったとしても、私にとって刺激を受けることは幸せです。

ーーー大学院と家庭を両立されている中でも、やはり研究においての知的探求心に関する幸せの比重は重いのでしょうか?

大学院よりも家庭第一だと決めています。子育てだって知ることの一つですからね。勉強が全てではなくて、自分の幸せには「新たなチャレンジをしたい」という意味合いが含まれていますから。

ーーー学問だけではなく、自分の人生においての未知の体験全てが幸せなんですね。では最終的に佐々木さんが手にしたい幸せの形とは何でしょうか?

自分の知らないことに首を突っ込むことが楽しみなので、そういう類なら何でもありだと思っています。

芸能人や知人が亡くなる話を聞くと、「明日死んでも良い」ぐらいの気持ちで生きたいと思います。「何か後悔することはあるかな」と考えてみたら、浮かんできたのは大学院だったり、子供だったり。明日病気になるかもしれないですし、そのときのためにも自分にとっての幸せとは何なのかを追求したいです。


取材・文 |たかゆり
編集|林春花


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