【勝因】『ソシエダの目的はビルドアップではなく主導権を握ること』~ラ・リーガ第6節レアル・ソシエダVSエスパニョール~

試合結果

2022-23 ラ・リーガ 第6節
9/18 @レアレ・アリーナ
レアル・ソシエダ(2-1)エスパニョール
17分 アレクサンデル・セルロート(レアル・ソシエダ)
19分 エドゥ・エスポジート(エスパニョール)
29分 ブライス・メンデス(レアル・ソシエダ)

スタメン


この試合を選んだ理由

レアル・ソシエダはどんなサッカーをしているのか、移籍したFW久保建英はどのようにフィットしているのか、気になったため選んだ。

ソシエダの目的はビルドアップではなく、主導権を握ること

レアル・ソシエダはボール保持をするだけのチームではない。非保持も含めて主導権を握り続けたいチームということを感じた試合だった。

[4-3-1-2]を採用しているソシエダはキックオフ直後から徹底してボールを保持する姿勢を貫く。相手のプレスを受けても、それが狭いスペースであっても、ボールをキープしてパスを味方につなげる能力に長けた選手が揃っていて、ボールを保持することで主導権を握っていく。

今節で見られたビルドアップ時の主な形は、右SBが高い位置を取り、左SBとCBの3人で最終ラインを形成する右肩上がりの形だった。エスパニョールの2トップによるプレスに対して数的優位を作りながら、ボールを前進させていく。ビルドアップで印象的だったが、アンカーのMFスビメンディのかかわり方。彼が前述した3人の頂点に立ち、ひし形を作る。そして縦パスを引き出すと、プレスを受けても相手から遠い方の足でボールを扱い、逆サイドに展開する。プレス耐性が非常に高く、1人で相手の矢印の逆を突き、ビルドアップの舵を取っていた。

4選手を中心にボールを敵陣に運ぶと、魔法使いの出番である。トップ下を務めるMFダビド・シルバがいろんなところに顔を出してボールを引き出し、バイタルエリアの攻略に着手していく。彼がゴールまでの道筋を描き、杖を振るって魔法を発動するように、パスやドリブルで相手の急所を突く。ピッチを俯瞰しているかのように、空いているスペースにポジションンを取り、ラストパスを出した。インサイドハーフのMFメンデスとMFメリーノも非常にインテリジェンスの高いプレーヤーでMF、シルバが描く絵を実現するべく気の利いたポジションを取り、卓越した技術を発揮して敵陣でのスムーズなパスワークを実現させる。魔法使いを支える助手のようだった。

2トップはゴール前に鎮座するのではなく、FWセルロートが右に、MF久保が左に流れながら抜け出すランニングで相手の背後を突く動きを見せる。左サイドから抜け出した久保はドリブルで仕掛けてPA内に進入し、クロスを上げるチャンスを演出していた。

このように練り込まれたビルドアップの形とそれを高いレベルで実現する選手の高い技術力を武器に、ソシエダはボールを保持してエスパニョールを圧倒した。しかし、2得点はボール非保持から生まれたものだった。

17分、ソシエダが前から連動したプレスを掛ける。FW久保が左サイドから中央に追い込むようにして追いかけ、3度追いでGKを追い詰めた。血気迫るFW久保のプレスに慌てたGKフェルナンデスはコントロールが大きくなる。それを見逃さなかったFW久保がスライディングタックル。自身の足を蹴られながらもボールをしっかりと突き、ゴール前にこぼれたボールをセルロートが押し込んだ。

ボールを握っていなくても相手からボールを取り上げるような激しいプレスで非保持でも主導権を握りたい。久保のプレーからはそんな意志を感じ、得点に結実した。

しかし、2分後にスコアが振り出しに戻る。

エスパニョールは[5-3-2]の布陣で堅く守り、192cmのFWホセルのキープ力を使って強引にボールを運んでいく攻撃を展開していた。失点直後のキックオフでもFWホセルにロングボールを蹴り込んで、彼がキープしている間に相棒のFWブライスワイトが寄っていき混沌を作り出して右サイドからのCKを獲得する。

キッカーのMFタルデルはショートコーナーを選択して右サイドでリターンパスを受けると、マイナス方向にグラウンダーのパスを送る。DFカブレラが勢いよくゴールに向かって走り出したため、フリーになったエスポジートが右足を振り抜いた。見事なサインプレーでエスパニョールがすぐに追いつく。

同点を許したソシエダはプレスの勢いが強まるエスパニョールに対して、28分にシステムを[4-2-3-1]に変更する。FW久保が左WG、MFメンデスが右WGになり、MFメリーノがMFスビメンディとダブルボランチを組んだ。MFシルバのポジションはトップ下から変わりない。

ダブルボランチになったことで後方から縦パスを引き出すコースが2つに増加し、エスパニョールのプレスを剝がして攻めていく。

そして29分に勝ち越しに成功する。しかし、2点目も相手ボールを奪ってからのものだった。

左サイド敵陣での相手スローイン。パスを受けた相手に対して3人で囲い込んでボールロストを誘う。ルーズボールを回収したMFメリーノがドリブルでゴールに向かっていき、PA手前で相手を引き付けてパス。これを受けたMFメンデスがPAに進入し、飛び出してくるGKを冷静に見てゴールにパスをするかのように左足のアウトサイドでネットを揺らした。

ボール保持のチームという認識で試合を見たため、2得点とも非保持から生まれたことに驚きを隠せない。ボールを保持したいチームというよりも、90分のうち長い時間で主導権を握りたいチーム
ということなのだろうと思った。そのためにボールをつなぐ手段を軸に据えて、相手ボールになったら素早く激しい連動したプレスを掛けて相手からボールを取り上げる。ソシエダはビルドアップだけのチームではない。自分の認識を改める、新たな発見があり、面白い試合だった。FW久保にとってボールを握る時間が多いスタイルは技術力を発揮しやすい環境である。また、プレスは素早さや激しさだけでなく、相手を追い詰めるコース取りも習得することができるだろう。素晴らしい移籍になっている。これからのさらなる活躍が本当に楽しみで仕方ない。

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