【ありがとう】安部崇士がファジアーノ岡山での6カ月で積み重ねた経験と身につけた自信

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 「何だ、この左利きのセンターバック、上手すぎる」安部崇士がファジアーノデビューを飾った第18節アウェイ新潟戦を見たときに、そう強く思った。

 徳島ヴォルティスから加入した安部がこれまで出場したのは1年半で16試合。出場機会を求めた育成型期限付き移籍だったため、即戦力というよりも、徐々に出場機会を掴んでいくのだろうと思っていた。

 そんなぬるい思惑を打ち砕くように、安部はフすぐに定位置を奪取する。初めて安部のプレーを見ることになった新潟戦で衝撃だったのがビルドアップだ。自陣低い位置で相手のプレッシャーを受けても全く動じない。奪いに来る相手の矢印の逆を突いて、プレスを破るコンドゥクシオン(運ぶドリブルのスペイン語)。相手のプレスが弱い瞬間、相手のブロックが広がっている瞬間を察知して、繰り出す鋭い縦パス。日本のトップレベルの試合で見るようなビルドアップの質の高さに驚いた。

 今までのファジアーノのセンターバックは、高くて、強くて、最後まで身体を張ってゴールを守ってくれる頼もしい選手が多く、守備の人というイメージが強かった。これまでのファジアーノの戦い方やそれに適した選手が在籍していたことから、ボールを持てば、相手の背後にロングボールを蹴ったり、前線で待つ味方を競らせるボールを蹴ったりと、自陣低い位置でセンターバックの選手が攻撃で何か特別なことをすることはほとんどなかった。

 しかし、安部は自陣低い位置からファジアーノの攻撃の舵取り役を積極的に務めた。“相棒”の井上黎生人と素早いパス交換で相手のブロックを揺さぶって作り出した隙を突くようにパスを前に供給する。安部が中心になって最終ラインから安定感のあるビルドアップでファジアーノの攻撃をスタートさせていく。有馬賢二監督が目指す自分たちで主導権を握るサッカーに欠かせない要素のひとつだった。

 ビルドアップで明確な違いを見せてくれた安部はセンターバックの選手だ。センターバックはゴールキーパーの前に位置するポジションであるため、ゴールを守ることが最優先事項になる。ビルドアップが上手いだけだったら、ある程度チャンスを与えられていたかもしれないが、ポジションを確保するまでには至らなかったはず。守備を重視する歴史を歩んできたファジアーノというクラブでは、守備ができない選手は簡単にプレー機会を与えてもらえない。

 安部が加入してからセンターバックのポジションを掴み、ライバルに譲らなかったのは、守備者としてもチームに貢献できる能力を持っていたからだ。180㎝と単純な高さでは、濱田水輝や阿部海大に劣る。しかし、安部の守備は熱く激しく粘り強い。縦パスを通す出し手としての感覚を持っているため、相手の縦パスに素早く反応して、潰すことができる。空中戦でも『絶対に負けない』という強い気持ちで、自分よりも高さのある選手に挑み、相手の攻撃を跳ね返していく。決して守備を疎かにしない。ディフェンダーとしては当たり前だけど、ビルドアップという明確な自分の武器に甘えることなく、ゴールを守ることでもチームに貢献しようと必死にプレーする。

 安部の熱いプレーや言葉に胸を打たれたサポーターは少なくないだろう。加入当初からJ1昇格のために全力を尽くし、チームの勝利を目指して熱く戦ってくれた。第24節ホーム山口戦後には『僕はファジアーノに来てから全試合勝つつもりでメンタルの部分を強く持って1試合1試合を準備していますし、これからも1試合1試合を準備していきたい。現時点で上位の相手にも勝っていかないといけないと思っているし、選手是認が同じ気持ちでやってほしいなと思います』と力強い言葉を残した。シーズン途中から加入し、年もチームの中では若い方に入る安部が喝を入れる。なかなか簡単なことではないが、チームのことを本気で思っているからこそ。ピッチ上では最後尾から声を張り上げて、チームを鼓舞しながら、チームメイトとコミュニケーションを取り、味方との意思疎通を怠らない。ピッチ外でも積極的なコミュニケーションや力強い発言でリーダーシップを発揮できる。気持ちが見える、気持ちを見せてくれる選手は見ていて気持ちがいいし、ついつい応援したくなる。溢れ出る情熱も安部を語る上では欠かせない。

 先日、ファジアーノへの育成型期限付き移籍期間が2021シーズンで満了することが発表された。ファジアーノも安部の活躍を高く評価し、来シーズンも引き続き共に戦うことを望んだのかもしれないが、安部はプロのスタート地点として選んだ徳島で勝負することを選んだ。ファジアーノでは半年間で徳島での16試合を上回る24試合に出場し、苦楽を味わい、着実に経験を積んだ。そして、J2リーグで自分の武器や能力が通用するという十分な自信も身につけただろう。安部はこれからどんどん飛躍していく。来季はJ2で、徳島で自分の価値をさらに高める一年になるだろう。キャリアを振り返った時に、ファジアーノを修行の地に選んでよかったと思えるように、これからも成長を止めることなく、高みへ突き進んでほしい。安部の挑戦を心の底から応援している。


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