【レビュー】『天国と地獄〜裏天王山を分けた明暗〜』~第36節ギラヴァンツ北九州 VS SC相模原~

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 ギラヴァンツ北九州(20位)がホームにSC相模原(21位)を迎えた一戦。降格圏に沈む両チームが欲しいのは勝者だけが手することができる勝点3。ただそれだけ。両者の勝点差はたったの1。残留に大きく前進する勝点3をかけたシックスポインターは、劇的な展開を繰り広げる。

スタメン

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マッチレポート

運命を握る裏天王山は劇的な幕切れ

 20位の北九州がホームに最下位の相模原を迎えた運命の一戦。北九州は前節のメンバーからGK吉丸→GK田中、岡村→生駒、佐藤亮→富山と3人を変更。対する相模原も、川崎→白井、夛田→石田、稲本→成岡と前節から3人を変えて臨んだ。

 スコアレスに終わった前半にボールを握ったのは、アウェイの相模原。最終ラインから丁寧に繋ぐ姿勢を見せ、ボランチの成岡と2シャドーが選手の間に立ち、縦パスを受ける位置とタイミングを伺う。

 対する北九州は、サイドに追い込む2トップのプレスで牽制。人数をかけて相手のミスを誘うと、新垣と髙橋が攻撃を牽引。サイドからゴールに迫っていくものの、決定機を作るまでには至らない。

 最初のシュートは、12分に相模原。右サイドからのクロスのこぼれ球を素早い切り替えで奪い返すと、成岡が左足を振り抜く。十分に威力あるシュートだったが、GK田中の正面。

 さらに、14分。相模原のショートカウンター炸裂。川上、藤本を繋いでボールは、中央を駆け上がる成岡へ。CBの間から抜け出した成岡がエリア内でシュートを放つも、またしてもGK田中のセーブに遭う。そのこぼれ球を平松が頭で押し込んだが、針谷がゴールライン上で執念のシュートブロック。平松のオフサイドを告げるホイッスルが鳴ったが、素早い切り替えで惜しいチャンスを二度作った。

 主導権を渡してしまった北九州は、プレスで主導権を取り返したいが、相模原の4人(3バック+成岡)のビルドアップに2トップしか行けず。髙橋が3人目として出ていく素振りを見せるが、外と内に立つ2選手が気になり、なかなか踏み出せない。奪うポイントが定まらず、常に動いて顔を出す藤本も捕まえきれず。しかし、横の揺さぶりについていき、[4-4-2]ブロックの内側を使わせない守備を全員で実践。「焦れずにやろう」という姿勢を感じられた。

 ただ、この日の北九州のビルドアップはあまり効果的にボールを運び出せなかった。後ろを5枚にする相模原の[5-4-1]ブロックの中には入り込めない。「中がダメなら、外を使う」と言わんばかりに、サイドに人数を集めて、攻略を目指す。福森、髙橋、富山のトライアングルを形成できたときの右サイドの攻めには可能性を感じたが、ゴール前のフィニッシャー不足になってしまう。32分に見せた西村の内側から突き抜けるランニングは、相手が捕まえにくいプレーだったため、右サイドのトライアングルを形成する3人目としての西村の関りがもう少し見たかった。

 前半はチャンスらしいチャンスを作れなかった北九州だったが、後半に入るとギアを上げる。背後のスペースを突くという狙いが増し、左から新垣が、中央から流れるように富山が、サイドの奥への侵入を伺う。すると、51分。針谷から背後に抜ける新垣へパスが通ると、後ろからサポートに来た永田がダイレクトでクロス。これに富山がヘディングで合わせるが、ボールは枠に左。外れてしまったものの、背後へのランニングがチャンスを作った。

 前半にはあまり見られなかった裏への抜け出しで、相模原のブロックを押し下げ、ボールを握れるようになった北九州は、ビルドアップから待望の先制ゴールをこじ開ける。53分、自陣でパスを繋いで、相手を揺さぶると、生駒から瞬間的に内側に入ってきた新垣へ鋭い縦パスが入る。2人を引きつけた新垣はフリック。これに反応した西村が推進力を出して、ぽっかりと空いた中央からゴールに向かって突進。左には富山、右には髙橋、すぐ近くには前川。3人がゴールに向かって動き出す。西村が選択したのは、前川。パスを出すが、懸命に伸ばした前川の右足は届かない。ボールは流れると思いきや、髙橋が走るコースを微調整。右腕で相手をブロックしたまま、左足を振り抜いた。倒れ込みながら放ったシュートは、GK三浦の手を避けて、ゴールネットを揺らした。

 サポーターの目の前で決めた先制ゴール。キャプテンマークを託された背番号10がワンチャンスをものにした。スタジアムのボルテージは最高潮。決めるべき選手が決め、残留に向けて大きな大きな勝点3を手繰り寄せるゴールを手にした。ゴールを決めた髙橋は喜び爆発。ベンチに走り出し、選手と歓喜の瞬間を分かち合う。”盟友”針谷と熱い抱擁を交わした後、メインスタンドの上の席に向けて、キャプテンマークを叩いた。髙橋の先には、ベンチ外となったメンバーたちが。そこには、今シーズン多くの試合で腕章を巻いてきた村松の姿もあっただろう。村松が抱く残留への強い想いは、キャプテンマークを通して背番号10にしっかりと引き継がれていた。

 大事にしたかった1点リードの状況は、そう長くは続かなかった。直近のホーム2試合でアディショナルタイムに失点を喫し、勝利を逃していた北九州は、勝利を確実なものにするために、もう1点を奪いに行ったのだろう。試合再開後、相模原のビルドアップに対して前から人数をかけてはめに行く。56分、富山がGK三浦までプレスをかける。捨てるロングボールを蹴らせる富山のプレスに屈することなく、GK三浦は空いている藤原にロングパス。これをコントロールして西村を引きつけた藤原は、西村の背中から抜け出す藤本へ預ける。藤本から平松へ一気に縦パスが入り、北九州の中盤と2トップを置き去りにした相模原。このとき4対4。数的同数。ボールは左サイドの児玉に渡ると、中央に切れ込んで、迷うことなく右足を振り抜いた。前半に幾度となく決定機を防いだGK田中は一歩も動けず。わずか、4分で試合は振り出しに戻った。

 追いついたことで勢いを取り戻したきた相模原。59分に、藤本のスルーパスに抜け出した松橋がGKとの1対1を沈めたが、オフサイド。北九州にとっては、笛に救われた形となった。

 その後、一進一退の攻防が続き、試合が動いたのは後半のアディショナルタイム。92分、ロングボールを生駒と途中出場のユーリが競り合う。混戦の中、こぼれ球を拾ったのは相模原。児玉がユーリに預けると、ユーリは反転して強烈なシュート。GK田中は横っ飛びでスーパーセーブ。GK田中が弾いたボールを拾ったのは、またしても相模原。途中出場の夛田が丁寧な落とし。これにユーリが右足一閃。強靭な右足から放たれたキャノン法のようなシュートは、残留に向けて望みをつなぎたい北九州を打ち砕き、最下位の相模原を19位に押し上げる逆転ゴールとなった。前節ホームで後半アディショナルタイムに同点に追いつかれた相模原、その悔しさを晴らすかのように、アウェイの地で、試合終了間際に勝ち越しに成功した。

 失意の逆転を許した北九州は、残されたわずかな時間に望みをかけて、河野や生駒を最前線に置くパワープレーで、ロングボールを放り込み、ゴールに向かうも、万事休す。

 試合は1-2で終了。相模原が劇的な逆転勝利を収め、残留へ大きな大きな勝点3を自分たちの手で掴み取った。北九州はこれで7試合勝利なし。厳しい状況は続く。


コラム

意識のズレが生んだ先制直後の失点

 先制してわずか3分後に、同点ゴールを許してしまった。相手よりも優位に立つ1点リード状況を自ら、捨ててしまうようなもったいない失点。この失点が相手に勢いを与え、結果的に逆転を許している。髙橋がゴールを決めた際に描いたビジョンが狂った失点は、なぜ生まれてしまったのか。

 前の選手と後ろの選手が抱くそれぞれの意識にズレが生じ、それを統一できなかったことがひとつの原因なのではないか。前述したように、富山がGK三浦にプレスをかけた場面、北九州は5人(富山、前川、髙橋、新垣、西村)が前に圧力をかけている。

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 GK三浦はフリーの藤原を見つけて、ロングパスを出した。そして、藤原は落ち着いてコントロール。西村を食いつかせて、藤本がスペースでレ氏0部できるようパスを出している。

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 この、GK三浦と藤原の2本のパスで北九州は完全にプレスを剥がされ、ロングカウンターのような形を作らせてしまった。2枚目の図を見ると、中盤とDFの間がぽっかりと空いている。前から奪いに行きたい中盤とFW、ある程度ラインを後ろに設定したいDF。意識のズレが生じていることが伺える。

 試合終了間際にスコアが目まぐるしく動き、勝利を逃してきた。勝利を確実なものにするためには、1点では足りない。先制したのも53分と残り時間はまだまだある。直近2試合の経験から、もう1点を取りに行きたいという意思が働いたのだろう。だが、あまりにも落ち着きがなかった。前におびき出されて、裏返されて、もったいなかった。

 得点した後に気を引き締める。若い選手がこれまで経験したことのない残留争いという独特な緊張感と、大きな重圧を背負って戦っている。ピッチを落ち着かせる発信ができるベテランの存在が、先制直後の時間帯に欲しかった。ベンチからも『引き締めるぞ』というメッセージになる、岡村というカードがあった。守備的に戦えとは言わない。先制してふわふわしていた空気を感じ取って引き締める冷静さとリーダーシップを発揮できる選手がいれば…。と考えざるを得ない悔しい結果となった。


ミクスタに住む魔物

 またしても、後半アディショナルタイムに失点を許した。『こんなにATに試合が動くスポーツだった?』と目の前のサッカーを疑わずにはいられない試合が、”ホーム”ミクニワールドスタジアム北九州(通称ミクスタ)で起きている。北九州が追い付くだったり、勝ち越すだったり、ホームのチームが報われる結果なら、疑うことはしないだろう。しかし、ミクスタではアウェイチームがギリギリのところで勝点を0から1に、1から3に増やしている。90分間という時間を使って勝点3を得るべく積み上げてきた積み木が一気に崩れるかのような、虚無感が襲ってくる。ミクスタには間違いなく魔物が住んでいる。積み木を崩す無情な魔物が…。

 そんなミクスタでの試合は2試合を残すのみ。サポーターは間違いなく勝利とその先にある残留を信じて、応援を続けているし、選手を鼓舞することをやめない。ゴール裏に集まり、90分間立ったまま、太鼓を鳴らし続け、手拍子を続ける12番目の戦士たちからは、並々ならぬ情熱を感じる。その情熱に応えたい。大勢のサポーターともに勝利の喜びを分かち合いたい。残されたチャンスは2回。対戦相手に競り勝ち、ミクスタに住む魔物に打ち勝つ。残り6試合は自分たちを信じて、北九州の為に最後の1秒まで共に闘おう

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